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送り火~おくりび~ - 五

2015/02/17 11:04

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 そして……和馬が待っていた時は訪れた。
「あ……!」
 光が、無数の淡い光の泡が、咲也のまわりを取り巻き始めた。それは街中から、あとからあとから集まってくる。
 その光は一つ一つがすべて、霊体だった。
 天使が戻った事で、咲也の霊媒の力も戻ったのだ。その強い力に惹かれ、霊が集まって来ているのだ。和馬はそれを待っていたのだ
 その中に、知った魂を見つけ、克己は声をかけた。
「環! 徳治さん!」
 ふわふわと、嬉しそうに光りは克己のまわりをまわった。
(ありがとう、克己。あなたは私達の咲也さんを、取り戻してくれた)
 環が言った。
「でも……」
 克己の懐から、金色の靄が現われた。鵺まで出てきたのだ。
(我主ヲ助ケテクレタ……礼ヲ言ウ)
「……」
 克己はもう何も言わなかった。なぜだろう? 皆、喜んでいる。咲也は死んでしまったというのに――――
(今度は私達の番よ、克己。私達が、あなたの咲也さんを取り戻してあげる)
「?」
 その言葉の意味はすぐにわかった。
 眩いばかりの光に包まれ、うっすらとしか見えない咲也の、胸にささった短剣が抜けてゆく……痛々しく開いた傷口に光が触れ、吸い込まれると、傷はすうっと消えてゆく。……癒しているのだ。皆で。
 だが、傷が癒えたとは言っても、咲也の心臓は止まったままだ。呼吸もしていない。
 光の乱舞はどのくらい続いたろうか。
(さあ、克己。呼びかけて。咲也さんを起こして。もう身体は元にもどったわ。後は、魂を呼び覚ますだけ。生きようとする力は、生きた人間にしか与えられない)
 環が告げた。
「咲也! 目を開けて! もう一度、僕を見て! 僕の名前を呼んで!!」
 力いっぱい、克己は叫んだ。
 その声が聞こえたのだろうか。心を動かしたのだろうか。
 それは奇跡だった。
 和馬が、咲也の胸に耳を当ててみた。
 とくん……とくん。
 小さく、か細く、ゆっくりと、鼓動が聞こえはじめた。
 人懐っこい童顔に、満面の笑みを浮かべて和馬は顔を上げた。
「やったぞ! 生き返った!」
「ああ……!」
 克己の目にまた光るものが浮かぶ。嬉しくてもまた。
 呼吸を始めた咲也の瞼が、ゆっくりとあがった。まだ虚ろな眼差しは、少しずつ輝きを取り戻そうとしている。その瞳が克己をとらえた。
 そして、唇が動いた。
「か……つみ?」
 そうして、咲也は奇跡の生還を果たした。


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