HOME

 

【第二章】新大陸 - 94:九階の大乱闘

2014/10/15 16:10

page: / 101

 波のように押し寄せてくる人の姿をした虫達。

 王様、魔導師達の一団は棒使いの双子とスイもいるのでなんとか秘密通路の入り口まで辿り着いたようだ。

 こちらもあまり相手に怪我はさせたくないが、薙ぎ倒すように進んで上への階段下のホールまでは辿りつけた。だがこの広い城の通路を埋め尽くすほどの数に、ただ圧倒されるしか無い。

 まるで大雪の中を雪かきしているみたいだ。道をつくろうと思うが、振り返れば降りしきる雪ですぐに埋まってしまう。自分でももう少し例えようないのかとも思うが、まさにその状態なのだ。

 数が多すぎる。たとえ倒せたとしても一人一人の虫を取り出す間は無い。だからすぐに立ち上がってきて後ろからも囲まれる。

 下の階にいた第三階級と第二階級の役つきも数人上がって来ているのが確認できた。額の模様が違うか無いのでわかる。

「また僕が防御陣を張るから強行突破して一気に上の階に行こう」

 念のため猫になってスリングの中にいるルピアがそう言ったが、そんな生易しい状況ではない。

「いや、下っ端はともかく役つきが黙っていないだろう。更に強い奴がいる十一階にまでついてこられたらそれこそ厄介だ」

 ここでせめて役つき達を倒さないと。十階の双子のようにコンビがいないとしてもざっと二階から八階までの七人の幹部がいることになる。一対一で挑むにしても、こちらの手駒が足りない。ルピアを除けばこちらは六人。折角戦闘を避けて近道をして来たが意味がなかったとは言ってはいけないが。

 さーっと下っ端達が二手に分かれ、道が開けた。

「絶対に大女王様の元には行かせん」
「殺しても良いと言われたので手加減もしないしね」

 額に第三階級の濃い複雑な模様のある男が三人と女が一人、模様のない第二階級らしい男が三人、開けた道を通って進んできた。手にはそれぞれ棒や短剣。素手の者もいるが、見ただけで皆強そうだ。もう大人数過ぎて刑事スキャンもしない。とりあえず七人だ。計算は合ってる。

「やるしかない!」

 先頭に立った大きな素手の第二階級の男に私達がそれぞれ構えた時だった。

「「待ってくださいよぉ!」」

 先程の大女王の声でガラスの割れた窓から何か大きな影が二つ飛び込んできた。バサバサと羽ばたく音とステレオの声を響かせ、舞い降りて人型になったのは……。

「「呼ばれてないけど来ちゃいました!」」

 別働隊で置いてきたはずのサキとリキだった。温泉街の小女王の側近トミノレアとコシノレアに憑かれていた鳥族の双子。

「お前ら勝手に……と言いたいがよく来てくれた!」

 これで対等に戦える。第三階級はともかく、第二階級相手に一人はキツイ。

 無言で全員が別れる。ぱっと見で相性の良さそうな相手に。

 ミーアは猫耳の女に、イーアが大柄の短剣を持った男に、ゾンゲは棒を持った男に、サキとリキは同じ鳥族の男に。こちらは第三階級だ。グイル、ゾンゲ、リシュル、私で後の第二階級にそれぞれ向かう。

「下っ端は全員僕が引き受ける。これでこちらの人数は足りたし、皆何とか頑張ってくれるか?」

 突然スリングからルピアが飛び降りて人型に戻った。

「数が多すぎてあまり長くは持たないかもしれないが……」

 大掛かりな魔法を使う気みたいだ。真面目な顔で何か小さく呟きはじめた。任せたぞルピア。後で魔力の補給はしてやる。私が無事だったらな!

 まるで城全体が輝いたような光がルピアを中心に弾け、ぐるりと光る図形の帯になって広がっていく。その図形に押されるように、ざーっと下っ端達が下り階段の方に流れていくが、そちらに長くは気をとられてはいられない。魔法の発動を合図にしたように、一斉に七人の役つき達が動き出した。

 目の前の蛇族らしき男が素早い動きで回し蹴りに来る。ぶん、と風を起こしそうな勢いだが、私もさせてはおかない。紙一重でかわし、つっぱり棒で振り抜かれた足の膝を打ち、すかざす内に入って軸足を払う。相手も流石は上位幹部。それを飛んでかわし、バランスを崩すこと無く連続で蹴りに来る。こいつは拳法家タイプと見た。

 ばし、ばしという打ち合いの音、ひゅん、という武器の風を切る音。もうそれぞれ戦いに入っているが、他の仲間がどうなっているのか確かめる余裕など無い。信じているぞ皆。

 今は目の前のこの第二階級を倒すのみに集中だ。

 こいつはかなり素早いが、幾らこの城が広いとはいえ屋内、あちこちで混戦状態だ、フィールドは狭い。派手に動き回って仲間の足を引っ張るほどヴァファムの幹部達も愚かではないだろう。動ける範囲は限られてくる。コンパクトに打ち込んでくる蹴り技と突きを、裏拳と短くした棒で止め、こちらも回し蹴りだ。

 ギリギリかわされたが、すかさず身を低くして棒で足を払い、かわしたところを思い切って回転する勢いで一気に蹴りあげる。これはかわされずに上手く顎に当り男が飛んだ。おお、結構こっちも捨て身の技だが上手く行った。一度やってみたかったのだ、よくプロレスとか格闘ゲームで見たサマーソルトキックというやつを。

「やるな、女……!」

 顎に決まったのに気を失わないあたり流石だな。

 ちらと横を見るとちょうど目の前を他の第二階級とタイマンでやりあっていたゾンゲが飛ばされていた。相手は先に錘をつけた鎖を振り回している。射程武器を隠し持っていたのか。あっちも手強そうだな。だがすまん、助けには行けそうにない。

 私の相手は素手だが、今までの幹部にもよく見られたスロースターターなのか一撃食らってやっと本気になったのか、先程よりさらに早い勢いで打って来た。ビュンビュンとものすごい勢いの連続回し蹴り。何度かかわしたが、一撃喰らい、今度はこっちが飛ばされた。

 丁度戦士の鎧に当たったからかそうダメージは無かったが、ずんと重い蹴りに肘がじんじんする。

「ほう、表情一つ変えんか。余裕だな女」

 いやいやいや! 効いてるから。結構効いたから。この顔は形状記憶合金みたいなもんで変わらないだけで、あんまり余裕無いから。くそう、いつも損をするな無表情というやつも。

 すぐに起き上がり、もう一度構えて攻撃に行こうとしたが、目の前を他の役つきが過って出鼻をくじかれた。

「あっ、待て!」

 イーアが追いかけてくる。でっかい第三階級の男は既に一回電撃を食らっているのかヨロヨロだ。なんとなくつっぱり棒を突き出してみると、足を引っ掛けて見事に転んだ。すかさずイーアが電撃でとどめをさす。

 これ、結構いけるかも?

 今までの戦いを振り返れば、ほとんどのヴァファムの幹部は強いが視野が非常に狭かった。こちらもそれは同じなのだが、これと決めた相手以外には目も向けずに一対一で戦う傾向があった。これを逆手に取れないだろうか。

 イーアもすぐにミーアの援護に向かったし、私は先程までやりあっていた第二階級を放り出して、思い切り走り、リシュルとやりあってる鎖使いの背後から飛び蹴りをかます。

「待て!」

 勿論先の奴も追いかけてくるが味方が邪魔で攻撃出来ないみたいだ。その隙に今度はグイルの相手の筋肉マッチョな幹部に、走りながらつっぱり棒で後ろから突きを入れる。不意打ちに振り返った相手にグイルの蹴りが入ったのが見える。

「ちょこまかと!」

 怒り心頭らしい最初の相手。ゾンゲの相手の魚族っぽい男の方へ走り、少し立ち止まってみる。

 途端に飛んできた回し蹴りだが計算済みだ。思い切りしゃがんでかわすと、その蹴りが他の幹部に当たった。ここまで上手くいくとは思わなかったがちょっとラッキー。隙を見たゾンゲは引っ掻きを入れることに成功した。

 流石に互いにやりあうことは無かったが、ヴァファム幹部同士も少し気まずい雰囲気になっている。いいかんじだ、このまま撹乱を続けるぞ。

 だが、私は致命的な事を忘れていた。相手がもうこちらを殺す気であっても、こちらは死なせたくはないし、宿主も助けたい。だが幾ら倒してもこの状況で一匹一匹虫を取り出す余裕が無いのだ。現に既に先程イーアに倒されて伸びていた第三階級もまた起き上がってきてる。これではエンドレスだ。上に進めない。

 もうどのくらい時間が経ったのかもわからない。長い長い戦い。

 今はまだ何とかルピアが下っ端達を押さえてくれているが、本人も言っていたようにこれ以上長引くと持たない。何かいい方法が……。

 ふと気が付くと、最初に私とやりあっていた男は階段の近くにいるルピアに狙いを定めたようだ。ヤバイ、魔法が切れたら一気に下っ端達が帰って来る!

「ルピア!」

 正拳突きで突っ込んだが、かわされた。だが、次の瞬間、予想外の方向に男が飛んだ。何だ? 階段の方から下っ端が一人飛んできて幹部に命中したぞ?

 いや、投げられてる下っ端は一人じゃない。なんか……階段の方でぽんぽんと下っ端が投げられてるんだが……。

「ちょっとぉ、アタシにもやらせないさいよぉん!」

 ん? なんかすごく聞き覚えのあるオネェ言葉が聞こえたぞ。

「加勢に来たぞ」

 このお侍のような声も。

「すみません、やっぱり帰って来ちゃいました」

 この可愛らしい声も。

「息子が戦っておるのに城主が逃げるのも良くないだろうて」

 おーい、あんたまでか!

 サキ・リキと共に置いてきたはずの、元第一階級マキアイア様ことゲンちゃん、同じく第一階級スレカイアこと蛇顔のシュレさんはまあよい。よくはないが双子鳥が来てるんだから想定の範囲内だ。だが逃したはずの白蛇スイ少年とリシュルの父ちゃんセープ王まで戻ってきてどうするんだ!

 ルピアが集めた下っ端達を蹴散らしながら、彼等は嬉々として上がってくる。

「やっぱりさぁ、第二陣は無いと思うのぉ。だからアタシ達も掃討しながらこっそり着いて来てたんだけど、町の外で大女王の声が聞こえて町中のヴァファムがこの城に流れてきたから追いかけてきたのよ」

 ばし、と相手も見ずに襲ってきた第三階級の攻撃を腕で止め、裏拳をかましながらゲンがくねくねと言った。

「ここは我らが何とかする。猫王様、マユカ殿、早く大女王の元へ」

 棒で打ち込んできた第二階級の攻撃を体をうねらせてかわしながらシュレさんが言う。

「だが……」
「一人では無理ですが、全員で力を合わせれば、この下っ端達を足止めをしている防御魔法も引き継げましょう」

 あー、やっぱりかぁ。王様について魔導師達まで帰ってきてるじゃん。

「しかし、いくら倒してもその後が……」
「私達もいまーす! 仕上げは任せて下さい。虫ちゃん達は瓶にバンバン入れちゃいますからご安心を」

 げっ、耳かき部隊まで来てるのか! 下っ端を蹴り飛ばしつつすっかり逞しくなった猫耳メイド副隊長がにこやかに階段の下から手を振っている。

 ここまででかなり弱らせた七人の幹部達も、第一階級に選ばれた男二人とその他の強い面々がこうも揃えば倒せるだろう。そしてその後の処理も問題無くなった。

「すまん、任せたぞゲン、皆!」

 打ち込んできた第二階級の拳法使いの腕を掴んで背負投げしながら私は決断した。

「ルピア、行こう」

 大混乱の九階を任せ、私達は上の階に進む。

page: / 101

 

目次

 

HOME
まいるどタブレット小説 Ver1.13