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【第1章】五種族の戦士 - 17:薙刀演舞

2014/10/14 14:24

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 前の町の静まり返った町役場とは違い、今度は賑やかだった。

 ざっと三十名以上はいるだろうか、武器を手にしたあきらかに下っ端という男達は、待ち構えていた風情だ。

「大人しくしてろよ」

 スリングの中のルピアに言うと、みゅうと返事が返って来た。

 まず『役つき』の場所を訊きたかったが、下っ端達は何も言わずにいきなり襲い掛かってきた。

 相当広いエントランスとはいえ、室内で皆武器を持っているとなると、かなりの混戦になる。だがこちらにとっては好都合だ。

 指示を出さなくても、リシュルとゾンゲは上手い事左右に散っている。まず斬りかかって来た奴をかわして正拳突きを脇腹にお見舞いしながら、ホント使える奴等だと感心した。

 あ、*薙刀(ナギナタ)に良く似た物を持ってる奴がいるな。馬鹿者め、周りが全て敵という場面では効果的だが、こんな味方が犇いている中で使うものでは無いぞ。

 よし、味方にその身一つで戦えと言った本人だが、少しお手本を見せてやろう。

「武器を使うのは本意では無いが……」

 ちなみに私は全ての武道の中で、柔道についで剣術が得意だ。ナギナタは祖母が師範だったのでこれも長いことやっていた。元々武家の女性が対刀用に身を守るためにやっていた武道。舞の型の元にもなっているくらいだから、その動きは綺麗で好きだ。

 狭い空間で長物を持っていても何の役にも立たない。扱いをそう知らないだけでなく、振り回す事も出来無いので突きに来た薙刀の柄を掴んで、ぐるんと回してみたら、使い手は見事に飛んで行った。

「これはこうやって使うのだ。ゾンゲ、リシュル、少し退けていろ」

 上段に構えると、エントランスにいた全員が一瞬固まった。殺傷能力がありそうなので、くるりと刃を逆さに向ける。

 西洋の両刃の剣や槍では無理だが、その点、日本の刀の様に片刃は繊細な事が出来る。技量さえあれば、相手の血を流さずとも倒せる。峰打ちというやつだ。

 一斉に掛かって来る下っ端達。

 私の八方振りを特と味わうがいい。

 まず斜めに振り下ろし、避けられた所はすかさず足を払う。これで一気に数人倒れた。斜めに振り上げ相手の剣を落とし、横腹に峰打ち。剣を刃先で受け止めくるんと先で小さく円を描いて絡めとる。斜めに振り下ろし、肩に叩きつける。

 足は肩幅に開き前後に、動きはすり足で。上半身は倒さず、舞うように体を止めない。ばあちゃん、ちゃんと覚えているぞ。

 隅っこの方に逃れて、リシュルの回し蹴りに伸された奴を最後に、あっと言う間に、エントランスで立っているものは私達だけになった。

「なんと美しい動き……」

 ゾンゲが足を払われて転んだ奴にとどめを刺しながら呟いた。

「武道は殺す為のものでは無く型だ」

 足元に倒れた奴を起して背中に活を入れてみたら、目を開いた。

「この建物に司令はいるのか?」
「……答エナイ」
「そうか。忠誠心は立派だが、答えておいた方が良いぞ?」

 とか脅してみたが、どうやって吐かせるか。勿論無駄に暴力を振るうつもりも無いし、困って笑ってみたら、

「コ、ココニハ居ナイ! ユング様ハ放送局……」

 あっさり吐いた。

 怯えてるし。そこまで怖いかっ? 私が笑うと。

「マユカの必殺技は、その悪魔の笑顔だな」

 お腹にぶら下げてるスリングの中から暢気な声がしたので、軽く叩いておいた。

「居ないとわかったら用は無い。行くぞ」

 早々に町役場を後にして、次に向かう事にした。念のため役場の扉は開かない様に封鎖しておいた。全て片付いたら、また耳かき大会だな……。


 気がつくと、薙刀を持ったままだった。これ、競技用みたいに刃を木に替えるとかすれば、大人数相手には使えるな。ルピアにでも教えるためにもらっとこう。フレイルンカスの鞭に次ぐ二つ目だな.

 ふと疑問に思ったのが、ヴァファムはどうやって武器を調達しているのだろうという事だ。

 鞭や警棒の様な殺傷能力の低い切れない武器は、警察や軍隊でも使用するそうだが、元普通の市民である下っ端でさえ、西洋刀の様な剣や槍を持っている。調理や農作業用にナイフや包丁の鍛冶屋はいるのだから技術的には問題ないのだが、数が多すぎる。どこかに武器工場でも持っているとしか思えない。製造現場を叩くなりしないと、向こうの大陸の様にレジスタンスまでが武器を使い出すと、大変な事になってしまう。銃や大砲の様な飛び道具を出して来ないのが救いだが……。

「武器工場か。考えねばならんな」

 ルピアがまた考えを読んだらしい。少し慣れてきたのでもう腹も立たなくなって来たが。

「かかって来られる分には良いのだが、いかに寄生されていると言っても素人に持たせているのが危ない」
「……マユカ、かかって来られるのもどうかと思うぞ?」

 ゾンゲ氏、ツッコミをありがとう。

「なあ、僕はいつまでこの中にいればいいのだ?」
「放送局で役つきと戦闘になったら降ろしてやる。味方を守ってくれ。それまでそのプリティな赤ちゃんスタイルで私とくっついているのは嫌か?」
「実はかなり嬉しかったりする」
「……正直者め」

 見上げる緑のくりくりお目めが、ホント可愛いんだがな、マジで。

「ん?」

 早足で歩いていると、突然ルピアがスリングからぴょこんと顔を出した。

「どうした?」
「ミーア達が役つきとやりあってるぞ。放送局に向かう前に警察署の方に向かった方がいいのではないか?」

 なんだと?

 やはり役つきは一人では無かったのか。ユング様とか言ってた第二階級の司令は放送局だが、では第三階級の役つきか。

 グイル、ミーア、イーアの三人がいれば問題無いし、倒せなくも無いだろうが気になるな。

「どうせ合流する予定だ。先に行こう」

 役つきの強さは半端では無い。急ごう。

「しかしルピア、どうして向こうの班の動きがわかるのだ?」
「ふっふっふ。呪(まじな)いの式をミーアに忍ばせてある。離れていても動向が手に取るようにわかるぞ」
「すごいじゃないか。主要戦士に仕掛けてあるのか?」
「いいや、マユカとミーア、あと掃討部隊の女の子数名」

 何故女にだけ? 一応フェミニスト?

「野郎の行動が見えてもな~。お風呂とかトイレ悪夢だし」
「おいっ……!」

 どこまで見えるんだ、その呪いはっ!

「私にも仕掛けてあるのか?」
「うん」
「外せ、今すぐ」

 目の前で握り拳をボキボキ言わせてみたら、変態子猫はスリングの中にひっこんだ。

「で、でもっ、役に立ってるじゃないかっ」
「後でゆっくりと話をきかせてもらおう」

 覚えて置けよ。今晩も撫で回して散々啼かせてくれるわ。人間の姿になど戻らせてやらないからな!

 まあ今はそんな場合じゃない。急がねば。

 幸いな事に、重要施設は町の中心部に集中している。町役場から程なく警察署に到着した。表には戦わない掃討(みみかき)部隊が待っていた。グイル、ミーア、イーアの三人と、数人のデザール兵だけが中に入ったらしい。

 確かに感じる。この嫌な気配、この前の役つきのいた建物から感じた殺気と同様のもの。強い奴がいる。

「どうする、ルピアはここで待って皆を守っているか?」
「僕も行くってば」

 まあいい。私達が入ったらイーアを出そう。

「では行くぞ」

 警察署か。皮肉だな、刑事の私が踏み込む側になるとはな。



*薙刀
長い棒の先に片刃の反った刃のついた武器。日本では槍よりも歴史が古い。馬上での一騎打ちなどに用いるために出来たとされるが詳しい事は不明。
大奥なんかの映画でも女性が持っていたように、江戸時代は武家の子女の嗜みの一つであった模様。対日本刀を想定した際に、間合いを取れる長い柄が特徴。

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