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【第1章】五種族の戦士 - 15:作戦会議

2014/10/14 14:22

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 絶え間なく動き続ける私のこの悪い指。

「ふふふ。この触り心地が堪らん」

「いやあぁ……もう、もう……かんべん、し……てっ」

 仰け反る喉も容赦なく撫で上げる。

 逃れようと床に爪をたてる手は、虚しくすべった。

「悪い子にはお仕置きが必要なのだ。いつ勝手にキスしてよいと言った? ん? 人の寝起きを襲ったのは誰だ?」
「も、もうしませんっ。だから、だからそんなところっ! やんっ」

 ここって所をぐりぐりっと押すと、足を震わせて腰砕けになるのがたまらなく可愛いい。

 腿の内側をゆるりと撫でると、ピンと足が強張るように伸びる。

「うにゃんっ!」
「いい声で啼くじゃないか」

 哀願するように私を見上げる緑の綺麗な瞳が、ちょっと涙で潤んでる。そそる。そそられる。それ、煽ってるだけだから。

「マユカ……鬼だな。無表情のまま」
「声だけ聞いてたら、とんでもなくエロい事をしてる気がする」

 横でリシュルとグイルが赤くなって呆れている。

 実際は子猫を撫でくりまわしているだけなのだがな。お仕置きと、ゾンゲに教えてもらった弱い箇所を刺激してやっただけの事。

 子猫ちゃんモードのルピアはとろんとろんになっている。

「尻尾の付け根ってこんなチビの体でも感じるのか?」
「ぼ、僕はこれでも二十四だぞ。なんなら人間に戻ってみようか? それでも同じことしてくれるなら喜んで戻るが」
「変態。戻らんでいい。もっとお仕置きされたいか」

 君にはお仕置きでも、私には癒しタイムなのだよ。萌え~っ。

 もふもふさわさわぐりぐり。肉球もぷにぷに。あ~いい手触りぃ。

「あの……仲睦まじくお楽しみの所悪いのですが、そろそろキリムの軍が到着いたしますので、会議室の方へ……」

 キジトラメイドちゃんが呼びに来た。微妙に顔が赤い。

 仲睦まじく無いからな。絶対に。

 振り返ると、半べそかいた人型ルピアが皆に同情の目で見られてた。


 先日第三階級のフレイルンカスの支配から解放した町は、キリムの中でも重要な位置を占める都市であったらしい。他国との国境に近く交易の要所になっていた事から、西方方面第二司令などという『役つき』が配置されていた模様だ。更にこの先のキリムの首都に次ぐ大都市に第一司令が居るらしく、既にほとんど敵の手に落ちているらしい。

 海の向こうでは更に深刻な事にもなっている。大体、何処の世界でも侵略、独裁体制が敷かれるようになると、レジスタンス運動が起きるのが鉄則。寄生から逃れた人々が集まり、武器を手に戦い始めたというのだ。これはいけない。ヴァファムに寄生されているにしても、元は善良な市民。市民同士が戦い傷つけあうなどあってはならんのだ。また、返り討ちにあっては元も子も無い。

「一刻も早く女王の元に行きたいな」

 元を断たねば、せっかく解放した土地もまたいずれヴァファムの手に落ちるだろう。

「女王は向こうの大陸の中央にあるセープ王国の首都だ。王も王妃も役つきに寄生されている。女王に寄生された者の種族も正体もわからないし、その力の程はわからないが、精鋭によって守られ日々卵を産み続けている」

 リシュルが説明してくれた。

「詳しいな」
「生まれ故郷だから。第一階級の役つきに寄生された王は私の父だ」
「え……」

 知らなかった。このひょろっとした優男風なのに結構な拳法の使い手の正体は王子様だったのか。そういや、この面々の中で一番品がある。

「いろいろとリシュルを見習え、ルピア」
「意味がわからん」

 モロモロ残念な王様はぷいと横を向いた。そういう所が残念なのだ。

 その残念な王様が偉そうに会議室の中央に立った。

 いつもの五種族の戦士と私、ルピアの七人以外にも、今日合流したキリムの軍の上層部が十名ほど一緒だ。

 ちなみに議事進行および総括は、さっきまで弄くりまわされていた残念ルピア様七世。へろんへろんになってた先程とはうって変わって、びしっと正装でお立ちである。全く見た目だけは良い男だ。

「この世界の脅威を除くには、根を絶たねばならん」

 皆が注目する中、ルピアがばん、とテーブルに両手をつく。

「そこでだ。この度この大陸一のキリム軍に協力してもらえる事になったのを期に、一気にこちらの大陸を開放すべく作戦を立てた。ヴァファムの侵攻を受けていない他国の軍も随時参加してくれるよう連絡済だ」

 へえ。いつの間にそんな手配をしていたんだろう。やるときはちゃんと仕事してるんじゃないかルピア。こいつ凄い奴なのかとことん残念なのか本当にわからん男だ。

「残念ながら、我デザール王家にしか異界の民を召還する秘法は使えないので、マユカのような看板になる戦士は用意出来ない」

 ちょっと待て。私は看板扱いか?

「まあ第一、幾ら異界から他に召還出来たとしてもこれほど強い者はいないだろう?」

 ゾンゲ、それは買被り過ぎだと思うがな。男でもいいんならもっと強い者は沢山いるし……あ、でも契約と魔力補給を考えたら男というのは絵面的に怖すぎる。ひょっとして召還できる戦士が女なのってそういう理由なのか? 何か……いい加減。あの細かい条件ってのも、先代王の好みのタイプとか言う軽い理由だったりしそうだ。聞くのが怖いので忘れとこう。

「それもある。我々にマユカがいるにしても相手の数が多すぎ、時間がかかりすぎる。本命の女王の所に辿り着けるまで、一体どれだけかかるかもわからない。そういうわけで、下っ端は各国の軍にお任せして、マユカと他の種族の戦士には『役つき』以上の幹部を抑える事にのみに専念してもらう事にした」

 おおっ、とどよめきの上がる会議場。

 うむ、いい作戦ではないか。

「幸い、異界の技術の導入により、ヴァファムを殺さずに寄生された者を解放する方法も確立された。各国軍部にはその技術の習得、および使用する器具の生産ルートの確立をお願いしたい」

 異界の技術……耳かきってそんなすごいものだったのか。笑えてしまう。先の丸いピンセットも使うと効果的というのも実験してみてわかったことだし、戦場で全ての兵が耳かき・ピンセット・ビンの三種セットを持ってる所を想像して笑えた。

「後、ひとつよいか?」

 私が手を挙げると、一斉に視線が集まった。

 考えてみたら、私がこんなに真面目に会議に出席して意見を出したのは初めてでは無いだろうか。すいません、署長……いつも寝てました。

「一旦寄生から解放された者、またこれ以上寄生される者を出さないための方法も考えた方が良いのでは無いだろうか」

 またもおおおっ。ってか、至極真っ当な意見しか言って無いが?

「下っ端によって運ばれて来た幼虫が耳穴、稀に鼻に寄生する事で広がるという事は確認済みですが……そうですね、予防策も考えねば」

 キリム軍の学者っぽい男が頷いてくれた。

 ヘッドホンとか耳栓というのもありだが、獣耳の者も多いこの世界では単一規格では間に合わない。なにかこう、いい方法が無い物だろうか。

「虫よけ……」

 殺虫剤は殺してしまうかもしれないので却下。蚊取り線香みたいなのは無いのかな? まあ、その辺は研究者に任せておこう。

 私は戦士なのだろう?

 実技は後で簡単な講習でもするとして、軍のお偉い方にこれだけは言っておきたい事があった。

「この世界の基準はわからないが、私のいた世界で戦の現場では略奪や暴行などが普通に行われた。これはあってはならん事だ。民族の違う国では尚の事。兵にはそういう事の無いよう徹底させてほしい。それを違えた者には制裁を。また、相手が殺傷能力のある武器をもっている以上、力を持たぬものは武器の使用もやむを得ないと思う。だがこちらは絶対に相手を殺すな。棒切れくらいの物以外は使用するな。己の拳、体技のみで戦え」

 私達人間の悪しき習慣を暴露してしまうことになったが、この脳天気で平和な世界の人々にまで、同じ轍を踏んで欲しく無いのだ。

 無力さに泣く女子供が出ないように。

 せっかくのもふもふ天国なのに。

「それを守って頂けるなら、私は喜んで戦おう」

 ぱち、ぱち、ぱち……小さく拍手が起こった。ルピアだった。

 最後は大きな拍手となって、皆が感極まったように立ち上がった。

「……ほらね、僕が呼んだ伝説の戦士は違うでしょ?」

 何だか嬉しそうな王様だった。

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