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【第二章】新大陸 - 80:いざ本丸へ!

2014/10/15 15:53

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「どうでもいいが……狭くないか?」

 もうすっかりお馴染みになってしまった幌馬車での移動だが……。

 たっぷり温泉街で二日間癒され、今度は一気にセープ王都を目指す。下っ端に寄生されている村や街はこの際すっ飛ばして、本陣を攻めようとなったのだ。

 ほぼ全土がヴァファムの手に落ちている今、端から順にやっていては何年掛かるかわからない。その間にまた一度解放した場所が元に戻ってしまう。

 今までもそうだったが、女王を頂点としてキッチリ階級制度が出来上がっているヴァファムは、上を落とすとその言う事をよく聞き、自分達から降伏する。だったらもういっそ大女王を攻めようという事で落ち着いたのだ。

 後押しされたのもある。

 ルピアの調子が非常に良くなったので、向こうの大陸にいるマナと連絡が取れたのだ。そういえば彼女だけには双方向の呪いを懸けてあったのだったな。マナは元コモナレアに寄生されていたサーカス団員だ。私も彼女に関しては非常に信頼を置いている。

 キリムを中心として、向こうの大陸の残った下っ端クラスの捕獲も順調で、そろそろ各国安全宣言も出せそうな勢いだそうだ。元役つきに寄生されていた優れた人材が協力してくれているのもある。

 マナを通じ、残したままで非常に気に懸かっていた軽部とも電話で話せた。

「こちらの武器は回収して、日用品に再利用しています」

 元ヴァファムの武器工場は、近隣の住民達の雇用にも一役買っているらしい。すっかり工場長の地位に落ち着いてしまった軽部の口調は穏やかだった。精神的に安定しているようで安心したが、考えてみたらヴァファムのままのノムザも一緒なのだ。まあ、なぜかノムザの方に見張ってもらっているという変な信頼があるのは内緒だ。

 幹部について私達よりも詳しい彼を連れて来たかったのはやまやまだが、この世界で唯一『日本』であるあの部屋を、軽部は離れない。微妙なバランスで成り立っている繊細な彼の精神を唯一繋ぎとめているあの場所を。

 軽部の情報の中で、上級幹部が持っているだろうと言われた武器の中でヌンチャク、九節鞭、戦斧、棒をまだ見かけていない。恐らくこれから出てくるであろう。他にも、大女王の側近になるともはや武器すらも持たずに異常に強い者もいるそうだ。

 こちらも相当の覚悟で乗り込まねばならないのはわかっているが……。

「なあ? スイ君はまあ国に帰るんだからわかるとしてだ、リキにサキ、なんでお前達まで一緒にいるわけ?」

 温泉病院でキオシネイアの側近ネウルレアに寄生されていた、生身でもセープ武術の最年少タイトル保持者のスイ君は、即戦力として非常に役に立つ。元々セープの国民なので、元リリクレアのニルアと同じく生まれ故郷に返してやるという名目もあるので連れて来た。

 なぜかコシノ・トミノに寄生されていた鳥族の双子まで一緒に来てるし。この二人も弱くは無い。兄弟そろって獣化という特殊な能力持ちだし、身のこなしも早い。

「お役に立ちますから」
「一緒に戦いますから」

 ……ステレオで言うしなぁ。

「いいじゃないか。こう言ってくれているのだから、一緒に来てもらおう」

 温厚派グイル。うん、私も良いとは思うぞ?

「でもせめて違う馬車に乗れ。狭い!」

 ルピアがブーブー文句を言っている。うん、一気に人口密度増えたしな。しかもほとんど男だし。この荷馬車で女なのは、隅っこでリシュルにくっついてるニルアと、私、ミーアだけだ。後は……なぁ。

「でもほらぁ、見た目女の子と、精神乙女もいるし。そう思ったら女っ気あるじゃないのよ、結構」

 ミーア、フォローになってないぞ。見た目可愛いスイ君はともかく、ムキムキオネェのゲンはアカンだろ、女にカウントしたら。

「「マユカ姉さんと離れたくないです」」

 音声多重で訴えた双子は、猫になったルピアにふーっと威嚇されて荷台の隅っこに泣きながら追い詰められた。

 鳥だもんな。猫には弱いよな……。

 やっとルピアも猫になったり戻ったりを普通に出来るようになった。魔力が安定してきた証拠だと思うと嬉しい。色々と副作用も出たが、放置せずに診てくれたヒミナ先生に感謝する。その上、きっと温泉の効果もあるんだろうな。元気になってくれて、本当に良かった。


 強行軍は休憩も一働きしてからでないと出来無い。

 下っ端と見張りクラスだけの小さな村を解放し、今日はここで泊めてもらう。軽いウォーミングアップ感覚で数分の戦闘だけで終わったが。

「王、そろそろまた瓶が無くなって来ましたが……後、今度の小女王はあまりに大きく、保護箱が一体で一杯になってます」
「しばらくルピア様が魔法を使えなかったから、溜まっちゃってますぅ」

「それは困ったな。ゴメンね、もう大丈夫っぽいから。待って、用意する」

 デザールから一緒に来た兵士のエライさんと耳かき部隊のメイドちゃん達がルピアと話しているのが聞えた。

 そうだ。キオシネイアはエルドナイアより一回りほど大きかったらしく、いつもの瓶と同じ効果のある箱にみっちりだったそうだ。

 うん、実物は見てない。虫嫌いには気絶しそうな外見なので見ない方がいいとルピアに止められたから。そう言われるとどんななのか想像してしまうので余計怖いのだが。女王蜂や女王アリもちょっと他のとは違ってデカかったりやたらと腹が長かったりはするけど、人の体の奥深くにいるため他のヴァファムの幹部のように色の綺麗な翅があったり硬い外殻や手足が無くてぶよぶよしてるそうで、その上生殖用の長い管が出てたり……しかも、今回の宿主も大きかったからなぁ。栄養もたっぷりっぽかったし……やめよう。非常に気持ちの悪いものしか浮かばない。

「なあ、ルピア。前から気になってたんだが、捕まえたヴァファム達っていつも何処へ?」
「あれ? 今までマユカに話してなかったっけ? 僕が魔法で一箇所に纏めて送ってるんだよ」

 送る?

「あの瓶には魔法が掛かってて、中は快適だって言っただろ? それと同じような仕掛けがある場所がデザールの城の地下にある。マユカが最初に来た所あっただろ? あの部屋」
「……ま、まあ広かったけど……」

 ううっ、あの白い部屋にものすごい数の虫が? 想像すると……いや、しないしない。

「デザールに残ってる猫族の優秀な魔導師達が見張ってるから、一匹も逃げられはしないし、快適に過ごしてもらってるから安心だよ。女王や幼虫達も他の成虫が世話してくれてるし」
「いや、そんな心配はしていない」

 狭い瓶よりは余程快適であろう事はわかる。綺麗好きでわりと義にも厚いヴァファム達なので、寄生する者がいなくても環境を整えてやれば逃げはしないだろう。それよりだ。

「送るって、魔法で?」
「うん。と言っても、何代も前にマユカと同じように呼ばれた女戦士が活躍した時代に作り上げられたシステムだから、僕はそれを使わせてもらってちょっと力を貸すだけだ。そんなにすごい魔力を使うわけじゃ無いから大丈夫」

 ならいいんだが……何故だろう、ルピア一人にすごく負担が掛かっているのなら嫌だなとまず思ったのだ。

 しっかし、陰で大変な事やってるんだな、ルピアも。私を呼んだだけで命を削るような行為だったというのに、そのうえ雑務もこなしてるのか。それを一言も言わないなんて、考えてみたらすごい奴だな。

「なに? ご褒美に魔力補給してくれるの?」
「……む、虫を送ったらな」

 ちょっとぐらいならしてやってもいいかな?

 あー、猫になったらな。

 すっかり大人の猫の大きさになったルピアだが、猫はやっぱり良いな。

 明日あたり鳥族の国エローラを抜けられる。その先は蛇族の国、セープ。

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