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【第二章】新大陸 - 62:新しい仲間

2014/10/14 17:12

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「ルピアっ、ルピア!」

 ぐったりと倒れたルピアは動かない。

 慌てて駆け寄って抱き起こしたが、かろうじて息はしているものの白い顔の瞼は青く透けるようで、いつにも増して弱っているように見えた。

 また魔力補給しないと……。

「マユカ、今のうちにマキア本体を何とかしないと」

 イーアが慌てているのも頷ける。だが考えてみたら第一階級だ。エルドナイアの本体も耳孔や鼻腔に収まりきれずに肺に寄生していた。どうやって取り出せばいいんだろうか。

 一番詳しくて場所を探り当てるのも上手いルピアが今伸びてる。これは先にこっちを何とかしないと。

「イーア、まだもう一回くらいビリビリは使えそうか?」
「うん、大丈夫」

 チビさんもかなりフラフラだがもう少し寝ててもらいたい。

 遠慮なくイーアが伸びてるマキアに思いっきり電撃をかましているが、まああれだけ丈夫そうな奴なんで大丈夫だろう。もう少しおねんねしていて欲しい。

 それよりルピアだ。

「頑張ったな。すごかったぞ」

 もう躊躇いも無くキスできる。

 血の気の無い唇は乾いていてぐったりしたままだ。

「あれ?」

 何時もは一回で復活しているのに、寝たふりをしているが今日はそんな素振りも見せない。まだ青ざめた顔も元に戻ってない。ってか、息してるか?

「ルピア?」

 揺すってみても目も開けない。だらんと垂れた手に嫌な予感がした。さっき物凄い事やったもんな。まるで別人みたいに……。

 胸の音を聴いてみたが、微かに鼓動は聞える。それでも今にも止まりそうな弱々しさで、また涙が出そうになった。

「しっかりしろ、死ぬなっ!」

 もう一度キスする。うんとうんと長く。さあ、はやく補給を!

 それでもすぐに目を開けないから頭が真っ白になった。気がつくと胸に頭を思いきり抱きしめていた。柔らかい猫っ毛の感触がくすぐったくて切なくて。

「ルピアの馬鹿――――っ!」

「ば、馬鹿……言うな……」

 気がつけば腕の中でルピアがもがいていた。

 何故か子猫になって。谷間とも呼べぬ胸でじたばたしている。

「え?」
「ち……違う意味で昇天しそうになった……」

 それはすまなかった。思いきり抱きしめていたから窒息しそうにでもなっていたのだろうか。危うくとどめを刺すところだったな。

「いや、思ったよりあった胸の感触に、恥ずかしい事になりそうだったのでつい変身してしまった」

 恥ずかしい事……詳しくは聞きたくは無いが、微妙に子猫が腰砕けになっている。そうか、意外と私の胸はあったのか。じゃなくてっ! 一応二回目で目が覚めたという事か。ふふ~ん。

「うりゃっ」
「うにゃんっ!」

 腹いせに尻尾の付け根をぐりぐりしてやると、子猫はよたよたと逃げて行った。

 やっぱ馬鹿だ。でも……良かった。無事で。すごく強いのも見せてもらったし。見直したぞルピア。


 と、暢気にやってる場合では無かった。

「マキアの本体は取り出せたか?」

 耳かき部隊に訊くと、誰もが首を振った。

「第一階級なのでしょう? 一体どれだけ大きなヴァファムがいるのかも見当もつかず、宿主を殺してしまうと大変なので……」

 そうだな。その心配があったのだ。幸い、余程イーアが頑張ったらしくまだマキアは起きてはいない。

「なあルピア、マキアの虫は取り出せないのだろうか?」

 子猫モードでメイドちゃんに抱っこされているルピアに尋ねると、わりと平然とした声が返って来た。

「ああ、それなら問題ない。ペペ、左耳にいるから耳かきしてやって」

 へ? 耳にいるんだ。ううーん、どんな虫が出てくるんだろう。うにょ~んとか長かったりしないよな?

「あのぉルピア様? わたくしですかぁ?」

 言いつけられたメイドちゃんがすごく嫌そうな顔をしている。 耳かき部隊で一番上手で、知らぬ間に副隊長にされていたキジトラメイドちゃんはペペちゃんというのか。今更ながら初めて知ったぞ。まあ嫌だわな、ゴツイオネェの耳かき……しかも叩きたおしたので頬が腫れて悲惨な顔になってるし。

「仕方ないなぁ。じゃあ僕がやる。僕も嫌だけど」

 ルピア、素直でいいんだけどさ、メイドちゃんに拒否されて受け入れちゃう王様ってあんたの国の力関係ってどうなってるんだろうか。まあいいけど。

 人型に戻って、まだややよたよたしつつ愛用の耳かきを取り出すルピア。

「ったく、男が化粧など信じられん」

 ぶつくさ言いながらも、正座してゴツイ頭を乗せて耳かきしてるのって……意外と律儀で可愛い。

「いたいた」

 ルピアが嬉しそうな顔になった。そういうのは獲物をみつけた猫みたいだ。

「マユカ、ビンちょうだい」

 あまり近くで見たくは無いのだが……ビンを持って行くと得意げに取り出した虫を見せてくれた。え?

「……思ったよりちっちゃいな」
「うん、だって第一階級とはいえオスだから」

 予想外に第二階級の虫と変わらない大きさだった。だが今までのどの虫とも違うキラキラと宝石のように光る紫の羽根は綺麗だとすら思えた。

「やはりヴァファムはメス優位なのだな」
「圧倒的にね。だからきっとこのマキアイアも女に憧れたんじゃないのかな? たぶん寄生されてたこの人は普通の人だと思うよ」

 なるほどな。女になりたかった虫か。どうみてもこの男は鍛え抜かれた戦う身体だもんな。元の職業は何だろう。レスラーか軍人か? 気の毒にこんなドギツイ化粧されてピンクのヘソだしルックだ。目が覚めたら発狂するんじゃなかろうか。

「さ、約束だよ。下っ端達に降伏するよう命令しろ」

 ビンに放り込んだマキア本体にルピアが命じると、きーんというあの高い音が響き渡った。

「いい子だ」

 よっしゃ。これでまずはこの国だけでも解放できるぞ。

 一安心したところで、ルピアが立ち上がろうとしたところで寄生されていた男が目を覚ましたようだ。

「ん……」
「大丈夫?」

 覗き込んでいたルピアの顔を目を開けてしばらく見て、男は思わぬ行動に出た。

「!!」

 むちゅっとかぶちゅっとか音が聞えた気がする。逞しい腕がルピアの頭を引き寄せたかと思うと濃厚なキス。ルピアが手をバタバタさせてるので慌てて引き剥がしに行った。

「きっ、貴様っ、何をするか! ルピアを放せっ!」
「やっと頭から虫が出て行って、目の前にカワイコちゃんがいるんだもん。お目覚めにちゅうくらいしてくれてもいいじゃないのよん」

 哀れ、ルピアは本日二回目気を失うことになった。

 残念ながら元々男が好きな男だったようだ……。


「うげええぇ」
「やだぁん。ひどぉい」

 何度もうがいをしてそれでも嫌そうにルピアがうげーと言い続けてる。

 そうですか。そもそもオネェ様だったのですか……ここまでの幹部は外見と中身が一致しない者ばかりだったが珍しく趣味が一致していたらしいな。

「アタシはゲン。犬族だけどぉ、どこの国にも属さずに流しで戦争やってる所に行っては稼いでたのぉ」

 傭兵なんだな。道理でいい身体をしているわけだ。オネェだけど。

 ミーア、リシュル、グイル、ゾンゲは只今治療中だ。このオネェのせいでは無いのだが、随分酷くやってくれたものだ。命に別状はないものの、しばらく戦えそうに無い。

 さすがに私達だけでこの国の下っ端を全部取り出すのは無理だ。この議事堂にいた者をまず解放し、それからイラの町で数百人解放してから、方法を教えて自分達でやってもらう事にした。

「で、ゲンちゃんは私達を手伝ってくれると言うのか?」
「そりゃねぇ、乗っ取られてたとはいえ、酷いことしちゃったしぃ。ホントゴメンねぇ。気持ちは乙女だけどぉ、結構強いから役には立ててよ」

 乙女とか言われるとすごい引くが……確かに相当役には立ちそうだな。しかしこのキャラ何とかならんのか。男性陣が激しく引いているのだが。

「マユカっ、コイツやだ! キモイ!」
「まあそう言うな。非常に役に立ってくれそうだぞ」
「でもなんというか……身の危険を感じるのだが」

 お前の貞操は守ってやるから安心しろ。


 というわけで、しばらく休ませてやりたいミーア達に代わり、マキアイア改めゲンちゃんが仲間になった。オネェだけど。

「ミーア達は念のため病院に連れて行った方がいいかもしれない」

 うーん、そうかそこまで酷かったか。ますますゲンちゃんは味方にしておいたほうが良いかもしれないな。

 あ、そうだ。病院といえば……。

「イーア、お兄さんに会いに行こうか」

「え? ホント?」

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