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【第二章】新大陸 - 82:蛇の男

2014/10/15 15:55

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 リシュルの嘘つきっ!

 そうそういないって言ってたくせに、どんだけいるだよ、先祖返り!

 そういやデザールの猫族の街でも結構な割合でいたような気もするけど、犬族や魚族、鳥族では見なかったのに。後で聞いたら、魔力の強い種族ほど先祖返りの確立が高いそうだ。そういや魔力が強いのは一番が猫で二番が蛇だったな。

 そんな事はどうでもいい。人懐っこいシン青年で慣れて、少しは免疫が出来ていたおかげで悲鳴は上げなかったものの、この馬鹿でっかい蛇さんからは、恐ろしい程の殺気を感じる。まさにこれから獲物を喰らわんとする大蛇のようだ。そんでもって私はカエルの気分。く、喰われそうで怖いっ!

「斧を見ても眉一つ動かさんとは。流石は伝説の戦士。肝が据わっておる」

 なんかこの鉄仮面のせいで誤解されてるし。内心めちゃビビッてますけど? 主に武器でなくてその顔に。

「女戦士殿、お手合わせ願おう」

 早速構えたスレカ。むう、気の早い奴め。

「待て、ここはオレ達で!」

 私の前にグイルとゾンゲが出たが、ぶん、と音を立てて斧が横薙ぎに振られた。軽く二人がかわせたところをみると、けん制だったのだろう。

「雑魚は下がっておれ。俺はまずこの女と勝負がしたいのだ。お前達はその後で相手してやる」
「雑魚だと……!」

 ワンコ青年と豹男は毛を逆立てて怒っているが、第一階級相手だ。彼等が決して雑魚などではない事は私もよくわかっているが、多分束になってかかっても同じだ。マキアの時に学習したではないか。

「よし。私と一対一でやろう。皆離れていろ」
「でもマユカ! 百人以上を一人で倒す相手だぞ」

 わかっている。だからだ。出来るだけ犠牲は払いたくないのだ。わかってくれ、みんな。私があっけなくやられたら、どうか後を頼んだぞ。

「マユカに任せよう。僕も防御するから」

 ルピアが他の仲間を下がらせてくれた。ちょっとずるいが、ルピアにはいざって時に期待はしている。

 遠巻きに仲間達が見守る中、村の広場で対峙した私と蛇男。

 斧を持った手と素手の手を斜めにずらして攻防一体の構えを見せるスレカ。対する私はツッパリ棒を六尺サイズに伸ばして八相の構えだ。

 あの斧は小さいが力は強そうだし、こんな軽いスチールの棒など当ったら確実に曲がるか折れるな。と、斧を見ている分にはいいのだが……視線を顔に上げると、ひろひろ~と二股の舌が。

「スレカイアさん。一つお願いしていいだろうか? 顔を隠しておいて欲しい。出来れば舌も出さないで」
「何故?」
「その顔怖いから」
「……」

 当たり前だが顔色一つ変えずに、ちろろっと舌が動いただけだった。微妙に鼻で笑われた気がしないでもない。

「面妖な事を」
「やっぱり?」
「このままでよいな?」

 蛇男は再び構えなおした。そのまんまか。

『苦手なものは一度勝てば克服出来る』

 柔道の師匠が以前言っていた。右の脇が開く癖があった私は、自分より小さい相手にはすぐに懐に入られるて重心がぶれ、足技に持ち込まれる欠点があった。だから小さい相手は苦手だったが、一度こちらから綺麗に足技を決めてからは苦手意識は無くなった。それと同じで、蛇を倒せれば、過去の嫌な思い出も消せるかもしれない。

「なんか……違う気がしなくもないけど」

 ルピアが勝手に思考を読んで向こうで呆れているが私は真剣なのだぞ。

「参る!」

 スレカが動いた。右手で斧を大きく振りかぶり、左手は掌を開いてこちらに真っ直ぐに伸ばして正面から来る。様子見かもしれないがそう早くは無い。

 伸ばされた素手の方に突くように棒を出すと、斧が振り下ろされた。斧の柄はこちらの棒より短いが、背が高く手足の長い相手だ。思ったより届いてくる! 紙一重でかわすと、すかさず向きを変えて構えなおしたスレカ。

 勢い余って振り抜かなかったところをみると、そう力は入っていなかったようだ。やはり様子見か。一見正攻法で来るタイプのようだが、最上位の第一階級だ。どんな特殊な攻撃をしてくるかはわからないから気を抜けない。

 下段から斧の持ち手を凪ぐように斜めに振り上げ、かわされればすかざず突きに行く。だが当らない。

 こいつもアレか? ネウルレアに憑かれていたスイ君と同じで気の膜を纏っているのか? 違う、あの感じじゃない。多分ゆっくり動いているように見えてすばやく体をかわしているのだ。こちらは止まる事無く動き続けるしかない。

 一旦後ろに飛んで間合いを取る。こちらの長い得物は間合いが無いと攻められないのが欠点だ。

「流石だな。普通の奴とは動きが全く違う」

 スレカも離れ、同じく間合いを取った。ううっ、舌、相変わらずちろちろしてるな。ウロコがテラッてひかってるし……。

 だが一つわかった。戦ってる間はその蛇顔を意識しないで済む。精神的には結構いけそうな気がする。

「ではこちらもそう手を抜いては失礼だな」

 斧の柄をくるんと回転させ、肩に担ぐような格好で構えたスレカ。ほう、先程のはやはり手を抜いていたのか。

「では行くぞ」

 何かぞっとするようなじっとりとした気配を感じた。肩に担いでいた斧が、奴がそう近づいたでもないのに、襲って来たのは次の瞬間だ。

「何っ!」

 首元を狙ってきた斧はすんでで身をそらしてかわし、ブリッジの形になって何とか手首を足で蹴り上げたが、太い筋肉質の腕の感触はゴムのようだった。勢い余って尻餅をついたが、幸い襲ってこなかったのですばやく立ち上がる事が出来た。

「ふん、これもかわすか」

 怖っ! あれ喰らってたら首ちょんぱになる所だったでは無いか! コイツ本気で殺す気だ!

 なんだ、今のは。腕が伸びる? いや、まさかそんな事は。

 間を置いてもダメならいっそ懐に入ったほうがいいかもしれない。奴はまた肩に斧を担いでいる。脇ががら空きだ。

 すばやくツッパリ棒を一番短く戻す。これで斧には到底及ばないが強度は稼げる。棒術から剣道に切り替える。

 待ち構えているだけかもしれないが、動かない相手より先に攻め込む。先手必勝! 中段から胴を狙う。

「はっ!」

 でかい標的だが、やはり当らない。何故だ?! だが考えてる間は無い。振り下ろされた斧を横から叩き、かわしながら腕に小手を決める。

「ふっ」

 かわしもせずにかなりの力を込めた一撃を受けたくせに、奴は余裕の笑みを漏らして斧を放しもしなかった。それよりも……なんだ、今の。まるで攻撃の力を吸収するように、手首が波打ったように見えた。胴もそうだ。確実に当ったと見えたのに、動きもせずに体の部分だけがかわしたように。

 普通に斧が斜め上から襲って来た。早いが、他の幹部ほどじゃない。棒の持ちて側の短いほうで肘の辺りを止めたが、なぜかくにゅんと斧は止まらずにそのまま襲って来た。勢いは削いだものの、腰の辺りに斧がかすった。

「くっ!」

 ずんと重い衝撃があったが、鎧のおかげで怪我はしなかった。

 ってか、まただ。ありえない方向に関節が曲がったとしか思えない攻撃だったぞ?

「マユカ! そいつこっちから見てたら常にうねうねしてる! ひょっとしなくても蛇みたいに体中が関節なのかも!」

 ルピアが叫んだ。

 うねうね……蛇みたいって蛇そのものじゃんか! まさか、顔だけじゃなくて体中全部蛇っ!?

「ほう、見抜くとは」

 わざと見える様に身をくねらせたスレカレア。

 やっぱりキモーイ! やだよ、こんなの~~!

「さて、次はどのように戦ってくれるのかな? もう少し楽しませてくれないと退屈だぞ」

 スレカイア。

 やはり第一階級は普通じゃ無い。勝てるのだろうか、こんな奴に。

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