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【第1章】五種族の戦士 - 13:女幹部の鞭

2014/10/14 14:20

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「私は第三階級西方方面第二司令フレイルンカス。貴女が猫族の王に召還されたという戦士ですか。様子を拝見しておりましたが本当にお強い。その仮面の様な表情一つ変えない冷静さは賞賛に値する」

「それはどうも。私は東雲麻友花という。無表情は褒めるな」

 無言での睨みあい。イーア、グイルは口も開かず横に立っている。

 知的な顔の美人さんだ。虫に意識を支配されているように見えないのが不思議だ。『役つき』というのは下っ端とは全く違うのだな。第三階級とか言ったが、それがどの位の上位なのかはわからない。だが、まだ上がいるという事だな。ここでこれとは……考えただけで恐ろしい。

「異世界より来た貴女に、女王様の素晴らしい世界の創造を邪魔をして欲しくないのです。痛い、辛い思いをなさる前に自分の世界にお帰り願えれば嬉しいのですが」

 帰れるもんなら帰っておるわと即答したかったが、流石に横にグイルとイーアもいるので我慢した。

「……脅しか」
「脅しでは無い、事実です。我らが世界になれば、争いも自己の欲望により人を貶める事も無い、完全な秩序と管理の元、平等で平和な世界になるのですから」

 どこぞの二流政治家の様な事を。そういうのは嫌いなんだよ。

「統制がとれ、管理の行き届いた社会というのも悪くは無いと思うが、寄生し、人の意思を無くすというのが気に喰わん。繁殖のために女子供を飼うというのもな。あれのどこが平等だと? 平和などというものは管理されて成される物では無い。人は己の欲望も競争もあってこそのものだ」

 慣れない難しい事を言って、ちょっと舌噛みそうになった……。

「……話し合いは無理のようですね」

 美人さんがデスクの前に出てきた。

 一見ロングドレスに見えたが、フレイとやらがばさっと手を翻すとするんと脱げた。おお、早変りのようでカッコイイではないか。

 現れたのは結構露出高めのぴっちりスーツ。エナメルっぽい真紅ってどうよ? しかもハイヒールのブーツって。しかもいつの間にか先が幾本にも別れた鞭を持ってるし。

 ……女王様……勿論虫の女王じゃなくて、夜の女王様の方。

 顔が知的な淑女風なのに、ぽんぎゅっぽんの女性らしい見事なスタイルがエッチだな。ヒールのある靴は動き難そうだが、当ると痛そうだ。

「ふふ、緊張しておいでですね」

 緊張ってより、そのいわゆるボンテージの格好に呆れてるんだよ。

 この威圧感。背中に般若のプリントのあった○○組の組長よりも迫力あるかもな。だが以前ガサ入れの時にそういう格好のおじさんの遊びの最中に出くわした事もあるしな。それと比べれば綺麗なもんだ。

 じり、と間合いを計る。『役つき』との初の対峙。

 グイル、イーアもそれぞれ囲むように広がっている。いい間合いだ。

 この部屋はそこそこ広いが、デスクにソファーもあって障害物が多い。さて、どう戦うか……。

 まず動いたのはフレイだ。鞭を撓らせて私の方にかかってくる。早い! 間一髪でかわした鞭が床でぴしっ! と大きな音を立てた。

「へえ、かわすとは」

 驚いたように言いながら、第二、第三の攻撃が来る。かわすのがやっとで、なかなか懐に入れない。こいつ、すごく動きが早い。一対一の綺麗ごとでは倒せないかもな。

 ちら、とグイルの方を見たら、何も言わずにすうっと後ろに回りこむように動いた。よし、挟もう。

「何人ででもかかってらっしゃい」

 余裕の笑みを浮かべながら、更に私の方へ来る。今度はヒールの足が高速で蹴りに来たが、これは肘で受けた。すかさず床についてる方の足を払ったが、バランスを崩しかけても体操選手の様に前転飛びで逃れられた。

 すごいな。今までの奴とは桁が違う。俄然燃えて来た。

 鞭はこの際喰らうのを覚悟で組みに行った。いいタイミングでグイルが後ろから蹴りを入れて来る。

「うわっ!」

 びしっと撓った鞭がグイルに命中したが、その隙に腕を取った。よし、行ける。思いきり投げたが、くるりと回しただけで綺麗に着地されてしまった。だが、空いた脇にイーアがすかざず触れる。

「ぐ……!」

 少しは効いたみたいだ。フレイルンカスが膝を着いた。腕を握ってた私も一緒に痺れたがな!

「ゴメン、マユカ!」
「……いい。よくやった」

 多分顔には出てないだろうが、私も相当効いた。渾身の一撃だったんだなイーア。髪が逆立ったのがわかったもん。

 本気で怒ったのか、ボンテージ女から今までとは比べ物にならない殺気が。びしぃ! と大きな音を立てて床を鞭で打って立ち上がる。

「この私に膝を着かせるとは……!」

 いや、最終的にはおねんねして頂かなければならんのだが。

 グイルも起き上がったがかなり痛そうだ。鞭の威力は侮れないみたいだな。華奢なイーアに当ったら大怪我しそうだ。ってか、この子はこういう場には向かない。味方がヤバイ。ゾンゲを行かしたのをやや後悔。

 そんなわけで、危ないからと下がってもらう。

 鬼の様な形相で、鞭を振り回しつつフレイ様が襲ってくる。かわしつつ隙を探って二・三発蹴りを入れてみたが、当ったのは一回だけで、最後は鞭で絡めとられた。

 げ、片足上げて恥ずかしいんですけど。って、そんな場合じゃない。

「ふふ、こんな状況でも表情を崩さないとは。余裕だな」

 余裕なんかないのだがな。表情筋死んでるのかな、私。

 ぐいっと引っ張られ、バランスを崩して床に尻をついてしまった。でも何か一瞬光明が見えた気がする。

 鞭を両手でぐいっと引っ張った形で首を押さえられた。

「この強い体は女王様に差し上げたいものですね」

 興奮したように上気した、美しい女の顔が近づいてくる。首を押さえられて息が苦しい。

 女の背後にグイルが迫っているのが見えた。勿論フレイも気がついた様で、一瞬鞭が緩んだ隙に、片足を腹の下に入れて巴投げ。

 見事に飛んで行ってくれて、ついでに重そうな執務用のデスクにぶつかってくれた。

 こんなもんで倒せるわけは無いので、すかさず追いかけ、グイルが鞭を取り上げる隙に鳩尾に一撃拳を入れておいた。

「ぐはっ!」

 役つきとはいえ、寄生されている女性にここまでするのは多少気が咎めるが、それでもまだ気を失わない。

 何かきーんとする音が聞こえた気がした。この女の口から出てる?

「イーア、もう一回痺れさせて」
「了解~!」

 とどめはびりびりでした。死んでないよね? うん。大丈夫みたい。

「強いのだな……役つきというのは」
「ああ。第三階級という事はまだ役つきの中でも下の方だ」

 うっ、マジか? それに三人掛かってこの苦戦? 本物の女王様って一体どんなんだよ?

 まあ、今回のこちら側のダメージの半分は味方からだが。イーアは大人数相手にだけ使おう……。

「そうだ、ルピアの所に行かねば」

 イーアが執務室の窓を開けて狼煙を上げる。

 このフレイ様はぐるぐるに縛って、グイルに担いで行ってもらうことにした。う~ん、ボンテージの上に縄って、何だかとんでもない眺めなんだけど……この世界の者はそんな事知らないだろうからまあいいか。

 流石に私も疲れたし、鞭が当ったところはミミズ腫れになってる。まだ腕はビリビリ感もちょっとあるし。

「大丈夫かマユカ?」

 心配そうにイーアが覗き込んでる。

「大丈夫だ。お前は怪我をしなかったか?」
「うん。マユカはやっぱり強いんだね。僕のビリビリで顔色一つ変えなかったのはマユカだけだよ」

 腕が痺れてるのは黙っとこう……この子も頑張ったんだもんな。

 役場から出た所で、ゾンゲ達が馬で掛けて来るのが見えた。ゾンゲの腕の中で金の髪が揺れている。

 なぜか胸がずきんと痛んだ。

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