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【第二章】新大陸 - 68:囮作戦

2014/10/14 17:16

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 怪我人が犇く診療所では邪魔になると言う事で、近くの公民館のような所をお借りして作戦会議を開くことになったが……困ったことが一つ。

「議長である総司令が喋れないのだが」
「うにゃあ……」

 ルピアは依然猫のままである。

 何だかんだ言っても、ビンの中に捕獲したヴァファムの幹部達と意思の疎通が出来るのも、下っ端に従うように命令出来るのも、意外に切れる頭で皆を纏めていたのもこの王様だ。よくよく考えたらいないと困るナンバーワンがこいつだった。残念じゃ無いじゃん。

「まあこちらの言葉は通じている様だし、皆見た目はあまり気にしないように。でははじめよう」
「にゃん」

 真ん中の演台に鎮座する金色の猫を困ったような顔で見る一同。うん、気にするなといわれても非常に気になりはするな。

「にゃーにゃにゃ! うにゃにゃん、にゃー! うにゃにゃにゃっ!」

 何かルピアが演台をぱふぱふ猫パンチしながら、力強く訴えているが、残念ながら全く何をいっているのかわからない。

「……俺が通訳出来るかもしれない」

 そろーっと立ち上って小さく呟いたのはゾンゲだった。おお、そういえば同じ猫なら通じるのではないか? というか、早く名乗り出て欲しかったぞ。というわけで、若干恥ずかしそうにゾンゲがルピアの横で通訳と相成った。これで何とか話が進められそうだ。

「次のヴァファムの幹部を探し出して倒しにいくという重要事項の前に、まずは一部の過激な反ヴァファム市民組織を、出来るだけ穏便に抑えなければならない。寄生されているとはいえ、同じ人同士が傷付けあい命を奪うなど言語道断」

 ……さっきのうにゃうにゃ言ってたので、そんなに難しい事を言ってたのかルピア! 恐るべし、猫語。

「うにゃ、にゃぉんにゃー、にゃにゃにゃにゃぉーなごぉーにゃ?」
「そこで、次の犠牲者が出る前に、何とか村を襲った彼らと接触し、武器を取り上げるなり、正しい方向へ導く必要がある。何か意見のある者は?」

 通訳ゾンゲご苦労。大変にわかりやすい翻訳だ。どうも人前で喋るのは苦手なシャイなところがあるが、頑張っている。尻尾が震えているが。

「はぁい」

 ぶっとい手が上がった。

「にゃん」
「ちょっとお灸をすえてやらなきゃダメよぉ。若いコは自分達が一番正しいと思ってる。怖いもの知らずだもの。人のいう事なんか聞きゃしない」

 ゲンがくねっとしたオネェ言葉で、わりと迫力のある事を言った。ご尤もだが……お灸か。それは戦えという事だろうか。

「はい、議長!」
「にゃん」

 今度手を上げて立ち上ったのはグイルだった。

「オネ……ゲンの言うように確かに言葉では聞きはしないだろう。だが幾らやることが過激すぎ、犠牲者まで出しているとはいえ、根は同じ反ヴァファムの志を持った者だ。何とか味方につける事は出来無いのだろうか」

 こちらは職業軍人らしく、非常に慎重派な意見だ。

「にゃーにゃお……みゃごぅ」
「出来ればそうしたいところだが、簡単に行くとは思えない」

 そうなんだよな。実際に目の前で人を刺す所を見てるだけに、容易な事では無いと思える。

 私はどちらかと言うとお灸をすえてやるのは必要かと思う。会議と言うのは署でもオブザーバーを決め込む方だったが、そう黙ってもいられまい。

 手を上げると、びしっと肉球つきの手がこっちを向いた。

「どちらにせよ、直接話す必要はあろう。問題は彼等が私達が会いたいと申し出たところで聞いてくれるかどうかだ」
「うにゃぁ……」
「そうだな……」

 ゾンゲ、同じ角度で首まで傾げなくていいから。緊張感が全く無くなる。

「あの……」

 ひっそりと上がった声は、診療所から連れて来たローアだった。心配そうに兄を支えるイーアは黙ったままだ。兄がレジスタンスのリーダーであると聞かされたときのイーアは気の毒なほど驚いていた。

「先程彼らを呼び出すよう連絡を入れてみましたが、次の村への襲撃にしか以後応じないと返って来ました。他の班は改めて僕の指示に従ってくれるとの返答を得ました。そこで一つ、作戦を立ててみたのですが……危険が伴いますが宜しいでしょうか?」


 その作戦を私達は満場一致で受け入れる事にした。

 そして即刻行動開始することにした。

 流石は病室でほぼ寝たきりの身でありながら、レジスタンスを纏めて来ただけの頭脳だと感心する。そして短い時間に何度も伝書のやり取りをしてくれていたことに驚いた。

 考えてみたら一番最初に病室に行った時も、彼はベッドに座って窓の外を見ていた。あれは外との連絡の鳥を待っていたのだろう。

 本当にローアが動けないのが残念でならない。元気であったならずっと参謀として連れて歩きたいものを。


 診療所から三キロほどにある小さな村。

 ここも既に完全にヴァファムの手に落ちているという事は、一目見ても明らかだった。アリの行列のようにキッチリと列を成して小麦粉らしき袋を運ぶ人々。ゴミ一つ落ちていない石畳の道。

「やんちゃ坊や達が来るまで見つからず隠れてろよ」

 村を囲むように隠れる私達。既にローアの呼びかけに応じ、穏健派の一つの班が彼等の派閥につくと見せかけて武装して合流済みだ。そこに混じってデザールからの耳かき部隊数人、私とお馴染みのメンバー、グイル、ゾンゲ、リシュルの三人と新入りゲンちゃん。ミーアとイーアは少し離れた所でローアに付き添っている。まさかローアまで実際に現場に来るとは思っていなかったので、ヒミナ先生に外出の許可をもらうのに一苦労した。

「あー、もう! アタシも行きたいわよ!」

 意外と武等派の先生だったようだ。仕事が忙しくなかったらぜひ同伴願いたかったが、なんせ襲撃され重軽傷を負った村人が多数運ばれてきているので、医者は大忙しだ。ちなみにデザール、キリムからの我が軍の医師団、兵士達も診療所でお手伝いに借り出されたままだ。もうほとんど野戦病院の有様だったからな。

 この村、そして他の村や町もあんな状況にしたくない。

 そこで、オトリ捜査ならぬローア発案によるオトリ作戦に出たのである。

 ここの村を襲えと情報を流す。更に、レジスタンスの中でも実力行使の強行派とローアの指示に従う慎重派で派閥争いのようなものが出来上がっているらしく、今回武装蜂起に出たのはごく一部の強行派。彼等の味方に他の者が着くように見せかけ、信用をさせる。いざ事を起そうとした瞬間に、私達が現行犯逮捕……じゃなかった、それを抑えると言う事で。

 ついでにこの村の下っ端の掃討も同時に行う。勿論無血で、だ。

「にゃん、にゃ」

 ルピア……結構重くなったな。スリングでぶら下げるのも長時間になると重いかも。それに静かにしててくれよ?

「来たみたいだぞ」

 猫王様専属通訳ゾンゲは何故か私にくっついている。うん、いいんだけどな、さり気に肩に手が回っているのはどういう事だろうか。茂みに身を隠している状況では仕方が無いといえばそうなのだが、一度告白めいた事を言われたしなぁ。正直タイプではあるし、二匹の猫にくっつかれているのは嬉しいのだがな。

「ふーっ!」

 ほら、ルピアがヤキモチ妬いてるし。やっぱその辺残念なルピアだった。

「しーっ」
「にゃ……」

 そうこうしているうちに、少し賑やかになって来た。かちゃがちゃと剣が擦れるような音。例の武装集団がやってきたとみえる。

 勿論村人に寄生した下っ端も、見張りも黙ってはいない。きーんという警戒の警戒の音をたて、仲間に危険を知らせている。配給の食糧の袋を律儀にキッチリ積み上げて、下っ端達が揃って一方向に向き直った。

「ここか。へえ、小さい村じゃん」

 気の強そうな若い男の声。他にもあと数人の気配。

 先に同じ組織のこちら側の人間が躍り出た。

「先に来て待ってました」
「おう、やっと本気になってくれたのか」
「でも殺すのは良くないと思うんです」
「甘っちょろい事言ってんじゃねえよ。行くぞ!」

 ちらりと見えた強行派の頭らしい男。何処から調達したのか、物騒な武器を持ってるな。成る程、死者が出たわけだ。

 刑事スキャン始動。

 身長175~8センチほど、細身。頭髪は黒。推定年齢十七~八。服装も黒ずくめで黒いシャツに黒のパンツ。ゴツイ軍靴のようなブーツ。

 手にした武器は柄の長い鎌。

 その姿は若い死神のようだった。

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