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【第1章】五種族の戦士 - 20:内線1番の男

2014/10/14 14:31

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 ぴんぽんぱんぽーん。

「清ク正シク勤勉ナル市民ノ皆様、正午ヲオ伝エイタシマス。昼食ヲ摂ル時間デス。一時間ノ休憩ノ後、速ヤカニ午後ノ作業二移ッテ下サイ」

 街の街灯と共に設置してあるスピーカーから流れる放送。

「学校か刑務所みたいだな」

 それが第一印象だった。面白くも無いアナウンスだが、これも今向かっている放送局から流されているのだろう。外は大変な事になっているというのに、長閑な事だ。

 警察署を出て有線放送局に向かう途中、私達は下っ端に寄生された市民に囲まれた。警察官のロキル君に寄生していた第三階級の役つきの虫を捕獲したのはいいが、近くにいた見張りが上役の危機を同胞に知らせたみたいだ。

 こちらも結構な数の兵力がいるので一気に立ち向かう事も出来たのだが、時間が惜しいし負傷者もいる。出来れば一般市民を傷付けたくないので、地味にルピアがバリアみたいな魔法障壁とやらを展開して私達一行を包んだ。そうこうしているうちに、先程の放送である。

 だが、私達を取り囲んでいたとんでもない数の下っ端達は、放送を聴いた途端にさっと散った。ええっ? と思ったが、意外と周りは平然としている。

「ああ、そんな時間か」

 それで終わりなのか? こう、もっと感動とか無いのか?

 昼御飯に戦闘休止って。暢気だな、ヴァファム。でもって、誰もそれを当たり前に受け取る味方。何て健全な世界なんだ、ここって……。

 でも一時間待ってやる筋合いも無いので、この隙に気を取り直して放送局へ向かう。

「しかしすごい事が出来るのだな、流石は連合軍指揮官」

 珍しくグイルやリシュルまでルピアを褒めている。

 ほう、連合軍指揮官だったのかルピア。それは知らなかった。

「で? 何でルピアは猫ちゃんに戻らんのだ。ほれ、頑張ったからスリングでねんねしてていいんだぞ?」

 無駄にゴージャスな男前のまま、馴れ馴れしく私の肩を抱いて歩いている残念な王様。手を払いのけても、まだしれっと抱き寄せられ、もう面倒臭くなってきた。それに魔力を使ったからか微妙にフラフラで肩を抱くというより寄りかかっているのが正しい。

「だって、どちらかと言うとこっちが本当の姿だから」
「疲れているようだから運んでやろうと言っているのに」

 むぅーと口を尖らせて、縋るような目で見られてもな。まあ、言いたい事はわかっているのだが。

「マユカ、魔力補給は?」
「全力で拒否する……と言いたいが、その弱り様だ仕方が無い」

 途端にキラキラした目になる猫王様。わかりやすいな、コイツ。

「でも、猫ちゃんに戻ったらな」
「なんで~? このままの方が色々といいカンジなのに」

 色々と何だって? 肘を食らわせたいがぐぐっと我慢だ。

 にっこり笑ってやると、ひぃっと小さく漏らして子猫ちゃんになった。

 最近必殺技になりつつあるな、私の笑顔は……そんなに怖いのだろうか? 今度鏡でじっくり見てみよう。

「はい、ちゅう」

 ついでにもふもふぷにぷにを補給しつつ、ちっちゃな牙のあるピンクの口にキスをしておいた。こっちも癒されるなぁ、この手触り。

 何だかんだで持ちつ持たれつな関係なのかもしれないな、私達は。

「これで、また魔法が使えるよ」
「期待してるぞ、ルピア」

 今度は相手の武器が事前情報でわかっている。こちらも素手では勝てそうにないので、ゾンゲに先程のグレアから徴収した刺叉を、ミーアに以前フレイからもらった鞭を持たせてある。

 耳かき部隊には医療関係者や、デザールの王族直属の癒し専門の魔導師がいるので、五種族の戦士全員すでに回復済みだ。

「全員で行くのか?」
「幾ら強敵とはいえ、一対六は無いだろう。第一、同士討ちになっては困るから戦いづらい。交代出来る様、素手の四人には控えていてもらう。私、ゾンゲ、ミーアでまず様子を見よう。あ、ルピアはまた隅っこの方でよろしく頼む」

 現場担当者として、ちゃっちゃっと仕切らせていただく。何故に私はこの様にやる気になっているのだろうか。

「では行くぞ」

 警察署長を取り戻しに。


 有線放送局……とはいえ、そこそこの規模のあるラジオ局の様な趣の建物内は静まり返っていた。ひょっとして見張りもお昼休み……なワケは無いよな。

 入ってすぐの正面には手動のエレベーター、ロビー奥の受付に、内線電話らしい物があった。結構ハイテク(?)では無いか。木造のパネルと差し替えるプラグが泣かせるがな。『じーころころ』ってするダイヤルすら無い。このコップみたいなのに喋って聴くんだな。

「よし、司令様を呼び出してみよう」

 一部屋ずつ探すのも何なので、出るかはわからないがかけてみる。

 周りに呆れられつつ、内線1番にかけてみると、

「ユングレアだっ」

 いきなり司令ご本人が出た。思ったより太い声だな。

「貴様は既に包囲されて……じゃなかった、第三階級グレアルンカスは倒した。現在受け付けにいる。出てきてくれるとありがたいが」

 それは無理だろうーと後ろから声を受けつつ、返答を待つと、

「わかったっ。今行く!」

 あっさり返事が返って来た。マメな司令だな。

「司令、来るって」
「……マユカ、笑ってもいいか?」

 既に笑ってるではないか、ゾンゲ。ってか、笑ってる場合じゃないし。そういうワケで、打ち合わせ通り展開し、私とゾンゲ、ミーアで待ち構える。恐らくエレベーターで来るだろう。数人デザールの兵が横手の階段の方に身を隠している。

「うぉおおおおおおっ!」

 ものすごい熱い声が近づいて来た。

 え? 階段を走って来たのか、司令様?

「とおっ!」

 ひゅん、と踊り場から何か巨大なものが飛んで来た。同時に階段の所にいたデザールの兵士が紙の様に飛ぶ。

 ずしーん。

 目の前に着地したのは、巨大な男。手にはたった今目にも止まらぬ速さで振り回され、兵士達を吹き飛ばした*三節昆。

 刑事スキャン最速バージョンで始動。

 性別男。身長二メートル十五センチ、推定体重百キロ。既にマッチョと言うのでもない、岩石のような筋肉の固まりだからもっと重いかもしれない。腕周りだけで私のウエストほどある。年齢は三十から三十五というところか。予想外にノースリーブのシャツに短く切った半ズボンというラフな格好。しかも裸足。とりあえず警察署長にはとても見えない。中途半端に長い黒髪に、暑苦しく太い眉の濃い顔に犬耳、フサフサ尻尾という犬族の特徴も濃い……。

 や~め~て~! 似合わんっ、その黒い可愛い犬耳が勿体無い~っ! もふもふへの冒涜っ! と心の中で叫んでおく。

「お前かぁ? グレアを倒したという奴はぁ!?」

 喋り方も暑苦しくゾンゲに絡んでますね。グレアの刺叉持ってるもんな。気の毒に豹男の尻尾はしゅんと垂れてしまってる。怖いよな、うん、怖いよっ。

 そーっと無言でゾンゲが私を指差した。見るとルピアもミーアも、遠巻きに見てる奴も皆私を指している。いや、あのぉ、押さえ込みまではしたけどグレアにとどめ刺したのリシュルなんですけど……?

「女っ! この細っこい女にやられたというのかああああぁ!」

 濃い、濃いよ、ユング様。私はこういう暑苦しい男は嫌いでは無いが濃すぎるよ、あんた。胸焼けしそうだ。

 細っこいって初めて言われたぞ。微妙に嬉しい。でもグレアも怪力ではあったが超華奢だったぞ?

「彼女は異界より召還された伝説の戦士だからな」

 もしもし? ルピア、しれっと焚き付けてるんじゃないっ。

「ほおお、お前が伝説の戦士とやらか。我名はユング。女王様の崇高なる理想郷を実現すべく遣わされた西方方面司令、第二階級ユングレアだっ! 覚えておけ」

 ……夢にも出てきそうな濃さなので忘れはしないよ。

「私は東雲麻友花だ」

 一応名のっておこう。

「相当な自信だな、すました顔をしおってぇ。女と言えど容赦はせん、泣いて許しを請うまでやってくれるわあっ!」

 がちゃり、と鎖の音を響かせ三本の棒の両端を握って、ユングレアが構えた。その目は私しか見ていない。

 さて、どうしたものかな。



*三節昆|(さんせつこん)
長さ50cmほどの3本の棒を紐や鎖で繋いだ武器。振り回して相手を殴打するフレイルの一種かな? 連結部を繋げれば一本の棒状にもなる。アニメや漫画ではお馴染みのマニアの多い武器だが、実際にお目にかかる機会は少ない。

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