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【第1章】五種族の戦士 - 8:特殊部隊結成

2014/10/14 14:13

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 どか、ばき、ごき。

 戦闘……といって良かったのだろうか。

「弱い。弱すぎるぞ、コイツ等」

 相手は十一人いた。こっちの約倍のちょっとした団体さん、しかも剣をもっていたのたがからっきし弱い。瞬殺とまではいかなかったが、せいぜい数分で片付いてしまった。

「ぶう、僕の出番が無かったぞっ!」
「アタシもぉ」

 イーアやミーアまで回らなくて、ほぼ私一人でやってしまったが。

「こいつ等が弱いというより、マユカが強すぎるんだと思うぞ」

 何となくグイルとゾンゲが怯えてる様に見えるのは気のせいだな。

「逃げられないよう縛っておきましょう」

 蛇男のリシュルが、器用に気を失った男達に縄をかける。その横で怖々の手つきで武器を集める鳥女と魚少年。

 縄を掛けられた中で、一人気がついた奴がいたので近づいてみる。我ながら偉そうに顎で合図すると、ゾンゲ氏がそいつを抱えて座らせた。

 三十代半ばくらいか。男。座っていても私の刑事スキャンは大体の身長はわかる。百七十五という所だな。何となく犬っぽい顔をしているから、犬族の人間だろう。ぼうっとした目つきは、気を失ってたからだけでは無いとわかる。特徴だとイーアが言っていたが、額にうっすらと図形の様なものが浮かんでいる。痣というよりは軽い鬱血のような薄いものだ。

「おい、喋れるか」

 一応尋問してみよう。私の本職だしな。

「オマエ、ナニモノダ」

 操られている男が、虚ろな目で口を開いた。何だか機械音声みたいな不愉快な声というより音だ。

「こっちが訊きたい。この寄生した体を使って村を襲う気だったか?」
「ソウダ。ナカマ増ヤス」

 うう、生理的に受け付けない虫が増える図を想像してしまった。

「武器など持って、物騒な事だな」
「カラダ選ブ。弱イモノイラナイ」
「!」

 思わず他の皆の顔を見てしまった。私は非常に驚きと困惑を浮かべていたつもりだったが、多分無表情のままだったろう。

 それは……つまり、殺すという事か?

『我々の世界では戦争でも武器で殺しあう事は無いのだ』

 ルピアはそう言っていた。だが、このヴァファムという奴らはそれに躊躇が無いというわけか。しかも弱い個体はいらないなどと言いやがったな。身体的に弱い者……女、子供、老人……最も守るべき者達ではないか!

 この世界の危機……成程、コイツはヤバイ奴等だ。

「マユカ、わかってもらえたか。ヴァファムがいかに危険か」

 いつの間にか側に来ていたルピアの手が、私の肩に乗ったが振り払う事はしなかった。それどころか、とても助かった。勢いに任せて、男にもう一度蹴りを入れそうになってたから。相手は自分の意思で喋っているのでは無い、操られているというのに……。

「まあ、数が少なかったのもあるが、倒せなく無い相手だとわかった。それより一つ訊いていいか?」
「何だ?」
「この……寄生された人間は元に戻せるのか?」

 ルピアは殺さないと言っていた。私だって嫌だ。皆元は善良な一般市民だからな。家族もいよう。だが、戻せないのならこの後どうすれば良いのかわからない。

「戻せるよ。寄生してるヴァファムを体から取り出せばいい。だから素手で戦える君を召還したのだから」
「取り出す?」

 うん、と小さく頷いて、ルピアが人差し指を伸ばした。その爪がしゅっと伸びて、猫の爪どころでない長さになった。

「ヤメロ!」

 男の耳に、その爪を差し込んでむにゅむにゅやってる。見ていて気持ちのよいものではなかった。

 暴れるのでゾンゲとグイルのマッチョ組が押さえつけている。

「あ、ごめん。ちょっとひっ掻いちゃったけど……あ、いたいた」

 数秒後。ルピアが爪を戻すと何か小さな黒いものが出て来た。掌にそれを載せて、私に見せてくれた。正直見たくは無かったんだが。

 丸い、黒い虫。一見地味なてんとう虫の様にみえる。足があるからまだなんとか見るのに許容範囲だ。

「こいつはまだ下っ端だな」
「うん、役つきじゃないね。だから弱かったんだ」

 覗きこんだ面々が口々に言ってる。

 後で訊いた所によると、ヴァファムは虫だけあって、頂点の女王の下にピラミッドの様に、キッチリした秩序の上下関係が築かれているのだそうだ。末広がりの末端に位置するこの下っ端は、軍隊で言う最前線の一般兵だ。役つきと呼ばれる強い個体は、その寄生主を選べ、その分、身体的に優れた人間になる。寄生されている体も強いので、こんなに簡単に倒せる相手では無いという事だ。

 それは見た目でわかるらしい。そして、ほとんどの場合は耳穴に寄生しているため、このように簡単に取り出す事が出来るのだそうだ。

 耳から虫を取り出された男を見た。ぐったりとしているが、額の印も消え、顔色も悪くない。

「聞えるか?」
「は、はい! ありがとうございました!」

 おお、目も正常になった。でもちょっと耳が痛そう。血が出てるだろうな、可哀想に。

「残りも何とかしないと」
「結構大変なんだよ。わりと繊細な作業だから。何かこう、道具でも使えれば痛い思いをさせずに取り出せるのだが……」

 どこから出したのか、ビンを手にルピアが肩をコキコキしている。虫はそこに入れておくのだな。

「ちょっと見せろ」

 他のまだ気を失ってる男の耳を覗いて見た。う、虫が見える以前に、耳掃除してやりたくなる汚れっぷりではないか。

 私は耳かきでこちょこちょするのが好きだ。これで結構評判よいのだぞ、上手だと。上杉などは目が怖いといって断固拒否しやがるが、藤堂さんあたりはマイ耳かきを暇な時に差し出してくる。

 マテ。耳かき……。

 ぴきーん。

 閃いた、今何か某アニメみたいに頭の中に閃光が走ったぞ。

「ルピア、城に帰ろう。数十人手先の器用そうな者を集めてくれ。医療関係者、理髪関係の者でもいい。後、細かい木工細工の出来る職人もだ。特殊部隊を編成する」

     ***   ***

「なかなか良い出来だ。さすが国一番の職人」

 これから来るべき大人数との戦場で役に立つ品を、早速作ってもらった。ルピアが手配してくれたのは、王室ご用達の装飾品の職人。

「こんなものをどうなさるのですか?」
「ん、この世界では耳かきという物は無いのだな。耳掃除は綿棒だけなのか……勿体無い。こうやって使うのだ」

 正座して、とんとんと膝に手をやると、藤堂警部似の職人(♂、推定五十歳、アメショ風)は恐る恐る私の元に来た。

「頭を乗せてみろ」
「え、ええ? いいんですか?」
「ああ。別にやましい事をするわけでは無いから安心しろ」

 簡単に図に描いたとおりに作ってくれた美しい耳かき。膝枕している男の耳にいざ、イン。

 こちょこちょ。うん、使い勝手がいい。

「はあああっ……なんて気持ちがいいのでしょう!」
「そうだろう。結構綺麗に掃除はされてるが、これはハマるぞ」

 グレーのシマシマ尻尾がぱたぱたしている。

 こちょこちょ。ゴロゴロ。うにゃん。へへへ、猫ちゃんは気持ちいいのに弱いな。後でメイドちゃん達にもやってやろう。猫耳も良いかも。尻尾もふもふさせてもらえるかもっ。そうだ、ゾンゲ氏の顔は全体に毛が生えてるからたまらんいい眺めと触り心地かも……いやいや、萌えてる場合じゃなくて。

「これを他の種族の職人と共に大量に作って欲しいのだ。見た目はこだわらなくていい。戦場で特殊部隊に持たせるのだ。耳穴に寄生したヴァファムを、相手に痛がらせずに効果的に取り出すために」
「それは……よい考えです、マユカさま……」

 終わって離れてからも、もっとやって欲しかったという目でうっとりして、ゴロゴロ喉を鳴らしているおっさんがなんか可愛い。

「オホン」

 思いきり咳払いが聞え、振り返るとルピアが難しい顔で立っていた。

 他の男を膝枕していたのが気に入らなかったのか、それとも自分もやって欲しかったのか……王様はご機嫌斜めだ。

「後でやってあげようか?」
「わーい」

 単純な男だった。


 メイドちゃん達も含め、二十数名に講習を施し、ここに以後戦場で大活躍する事となる、耳かき部隊が結成されたのである。

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まいるどタブレット小説 Ver1.13