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【第1章】五種族の戦士 - 9:討伐の旅路

2014/10/14 14:14

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 体制を整え、私達は本格的に行動に出る事にした。

 一つ安心したのは、ヴァファムも女子供をむやみに殺す事はしないそうだ。殺してしまえば寄生するための体を増やせない。だが、捕えて『飼う』。命を粗末にしないのは偉いが、胸くそ悪いったりゃ無い。

 一刻も早くそういった者を助けに行きたい。無理矢理連れて来られたとか、もうこの際どうでもいい。いっそルピアに感謝さえしている。

 私は一般人を、社会的弱者を、助けを求める者達を守るために警察官になったのだ。それは救われなかった自分自身を救うためでもある。世界が違おうとその信念は貫きたい。人を泣かす奴はこの手で叩き潰す、それだけだ。

 まずは、猫の国のあるこの大陸からだ。基本的にこの大陸は猫と犬、魚族が多い。バラバラだった大陸がくっついた様子がわかる。

 デザール王国はこの大陸の西に位置し、陸地の四分の一を占める大国である。その向こうの海寄りには海岸線に沿って魚族のミーナレ国が細長く位置している。私の知っている世界で言えばチリのような形だ。いざとなれば海に潜れる魚族は比較的ヴァファムに分がいいらしい。よって僅かなりとも海からの守りになっている。南北にも小国があるが猫族の国で、デザールとは良い関係を築いている。海と反対の東はこの前ほんの国境近くまでだけ入ったママム国。ここも同じ猫族の国。この前寄生されていた数人はどうもその向こうのキリム国から来たのだそうだ。

 キリム国は大陸の半分を占める犬族の大国だ。以前は小さな独立国に分かれていたそうだが、それぞれが同盟を組む形で連邦制になっているそうだ。なかなか社会的に進んでいるのが犬族だとわかる。

 グイルはそのキリムの中央政府から派遣されて来た職業軍人だ。

 基本この世界の人間は呆れるほどの平和主義者だ。戦う時はその身一つで、殺傷能力のある武器は使用しない。これは動物達がそれぞれ人に進化した時からの神との約束事らしい。私達の世界も見習って欲しいものだ。とはいえ、一応各国に軍隊は存在する。

 殴る蹴るのスペシャリストを養成。うーん、つくづく国同士の戦争の様子を見てみたいものだ。怪我人は出ても死者は出ない戦争。素晴らしいではないか。

「マユカ様が猫の王に召還されたという事で、キリムの議会は協力に消極的でしたが、実力の程を報告しました所、全面的に協力すると返事がありました。国境等も行き来自由ですし、補給も無償で提供いたします」

 マッチョイケメンな犬青年に畏まって言われると申し訳ない。グイルも耳を触らせてくれるもふもふ君だ。犬もよいが、触り心地はやっぱり猫の方が断然良いのだが。

「遠方の国への連絡などの手段は?」
「大きな街には電話があるよ。まだ全域に普及はしていないし、マユカの世界の様に携帯出来るものは無いが」

 ルピアが気に入った様子の耳かきを手に長閑に言った。

 ほう、電話があるのか。このお伽話のような世界もそれなりに進歩はしているのだな。最速移動手段が馬というのが何とも言えないが。

 というわけで、只今移動中。戦士六人と、ルピアを隊長とする耳かき部隊、支援のためのデザール王国の兵士から選りすぐった者、合わせて五十人規模の結構な大群となった。既にヴァファム侵攻の著しいキリム東部に向けて進んでいる。途中、キリムの兵も合流するらしいから更に大群となろう。

 私達は二頭立ての幌馬車に乗っている。西部劇みたいだな。

「もうすぐキリムに入る。中央はまだ無事だが、辺境から順に『下っ端』が入り込んでいる。警戒はした方がいい」

 幌馬車の中で修行僧の様に微動をだにせず、目を閉じて胡坐をかいていたゾンゲ氏が口を開いた。

 うむ。先遣隊がママムまで来ていたのだからな。それはあるな。いい加減体を動かしたい。

「というわけだ。いい加減どいてくれないだろうか、ルピア」

 揺れるから危ないぞというのに、先程から私の膝枕で『ほじほじして』ポーズのままの王様。城で教えるためにやってやって以来、すっかりハマったご様子だ。元々器用なのか覚えも早かったが、くっつきすぎでないだろうか。

「もうちょっとこのまま。君の太股は夢見心地だ……このまま口付けしてくれたらすぐにでもど……」

 皆まで聞かず立ち上がった。無駄に美しい残念な王様の頭は木の床にゴトンと音を立てて落ちた。ついでに軽く踏んでおく。

 幌馬車の後ろから覗いてみると、辺りは広々とした穀倉地帯だった。金色に輝く麦の穂が綺麗だ。日本ではあまりお目にかかれないが、外国の郊外という感じで、こうして見ていると異世界という気がしない。

「村が見えて来たわよぉ」

 幌の上にいたミーアが声を上げた。とにかく身軽で目のいい鳥女は、風を感じる上がお気に入りらしい。良い見張り役でもある。

「ん? なんか……様子おかしいわよ」
「どういう風に?」
「村の人が皆一列に並んでる」

 は? なんだ、それは。

 まだ少し遠いが、御者に命じて馬を止めさせた。

「ひょっとしたらもうヴァファムに制圧されてるのかもしれない」
「よし、見てこよう。まず、私達六人で行く。残りは後で来い」

 何だかんだで、超偉そうに仕切っている私だった。捜査の時はよく班長だったからな。ついクセで。

 それぞれの種族の戦士と共に村へ向かう。広い一本道に両脇麦畑というロケーションだ。身を隠す場所も無いので堂々と行く。なぜか道いっぱいになって皆で並んでいるのは、サングラスもトレンチコートも無いが大昔の刑事ドラマみたいだと頭の中に主題化が流れていた。何故、この歳で知ってるんだというツッコミはいらん。DVDで見た。

 勿論、村人も気がついたようだ。

「やっぱヴァファムのニオイだ」

 グイルがちょっと唸り声を上げている。

 よく見ると数人剣を持ってる奴がいる。残りの村人は食料の袋らしきものを担ぎ、お行儀良く行進している。まるでアリの行列のように。

「典型的な寄生された者の村だ」

 リシュルが青白い顔で言った。もう一つの大陸にある彼の故郷は完全にヴァファムの手に落ちたらしい。

「よし、手始めにここから解放しようでは無いか」

 何事も最初の一歩からだ。護身用に始めて、全てに黒帯や段位まで精進した武道がこんな形で役に立つとはな。

「おい、虫」
「ナンダ、オマエ達」

 無表情なのが気味が悪い。額に例の印がある。他の村人にもだ。

「虫退治に来たのだ」
「……邪魔者ケス」

 見張りの男が私に剣を突きつけて来たのを合図に、戦士達が散った。

「見張りについてる奴は下っ端よりは少し上だ。気をつけろマユカ」

 ゾンゲ氏がぴたりと私の背中についた。

「村人にはそう手荒な事はするな。昏倒させるだけでいい」

 そう言いながら、一人目の剣を持った奴の手に蹴りを入れて武器を落とさせ、そのまま背負い投げで倒す。それでも気を失わないあたり、下っ端よりは強いと言える。寄生されている者には悪いが、とどめに鳩尾に肘を入れておいた。

 今度は数人が一度にかかって来た。ゾンゲと一緒になって突きと蹴りで武器を落とし、体勢を崩した男の後頭部に手刀を入れつつ違う奴には顎に蹴り。ゾンゲに教えておいた体落としで沈められたのを最後に、見張りは全員のした。

「ミーア、ルピアの部隊を呼べ」
「了解っ!」

 赤毛の鳥女は羽根を羽ばたいてふわっと舞い上がり、ついでに数人に蹴りをかましておいて小屋の屋根に上がった。

 懐中電灯の様な物をチカチカするのが合図。尤も、馬車組ももうすでにコッチに近づいているのが音でわかった。

 イーアが数人の大人に囲まれているが余裕の顔だ。ぽん、ぽんとただ触れるだけに見える攻撃というよりタッチで、次々と下っ端に寄生された村人が倒れていく。

「加減したか?」
「出力下げてるから大丈夫だよ」

 電気で相手を痺れさせるのがイーアの能力なのだ。そんな魚いるな。

 リシュルも何とも言えない動きで、村人を次々と一箇所に追い込んでは気絶させている。文学青年みたいな優男だが、この動きはカンフーに似てる。そういや蛇拳っていうのあったな。

 グイルは正統派のファイターという趣だ。さすがは軍人。

 掛かってくるのを鳩尾に拳、後頭部にチョップでのしながら、皆の戦いっぷりを良く見せてもらった。この戦士達なら、一人頭五十人位は任せられそうだ。という事は五百人位の大群までは私達でなんとかなる。

「マユカ、計算があわんぞ」

 あ、ルピアいつの間に。

「五十の六倍は三百では無いだろうか?」
「私が二百五十倒せば良いのだ。計算は合う」
「……その通りでした」

 さて。隊長ルピアの号令の元、耳かき部隊が活動開始。

 私も一緒になって次々と耳の虫を取り出していく。イーアとミーアがちょこちょこと回収用のビンを持って走りまわっている。

 しかし……言い出しといて何だが、ばたばたと人が倒れている中で正座して耳かきをする面々。かなりシュールな眺めではあるな。

 中にはもう虫がとれたというのに、メイドちゃんの膝枕から離れない不埒な男もいたが、半時ほどで掃討作業も終了。

「本当にありがとうございました!」

 奥の広い家屋に閉じ込められていた女や幼児を解放し、初めて一つの村を取り返す事に成功した。

 しばらくは、こんなカンジで進むのだろう。

「卵を産む女王を倒すのが最終目的だ。そろそろ役つきも来る」

 ルピアのいつに無く真面目な声に、この先が少しだけ不安になった。

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まいるどタブレット小説 Ver1.13