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【第二章】新大陸 - 67:仲間の素顔

2014/10/14 17:15

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 二日はあっという間に経過した。

 ミーアとリシュルはすっかり元気になったようだ。今もリシュルが中庭で太極拳のような動きでトレーニングしているのに、看護婦さん達が熱い視線を送っている。

「モテモテだな、リシュル」
「……嬉しくは無い」

 一見ひょろりとした無表情な優男だが、結構イケメンだし礼儀正しく品がある。なんといってもこの大陸で最大の国セープ王国の王子様だしな。聞けば七人兄弟の下から二番目と言う微妙な位置で、継承権は回ってこないだろうとの事らしいが、それ故に戦う術を学べ寄生から逃れられたのだから良かった。しかし七人って。頑張ったな王様にお后様。

 それに最近知ったのだが意外にも若く、まだ十八だそうだ。どこぞの猫の王様に比べて随分落ち着いているのでもっと上かと思っていた。

「ニルアちゃんとはいつの間に? 船の中?」
「マ、マユカっ?」

 あ、赤くなった。やはり本当だったのか。隅に置けないなぁ蛇王子。

「ふふふ、同郷の同種族だしいいじゃないか。応援するぞ」
「ひ、人の事より自分達はどうなんだ。少しは進展したのだろうか?」
「どうと言われても……」

 ここ二晩ほど一緒のベッドで寝ているのだが……これを進展と言ってよいのだろうか。なぁ、ルピア?

「リシュル、コレと何をどう進展させろと?」
「……」

「うにゃあ、にゃにゃん」

 ルピアは相変わらず変身が解けず猫のまんまで、人の言葉も喋らない。体のほうはかなり良くなったのか苦しそうにもしないし、元気に私が振るネコじゃらしと戯れているが、こうしてると普通の猫ちゃんにしか見えない。動物の持ち込み禁止の診療所内だから珍しいのか、皆に構ってもらっているし。

 本当にこのままだったらどうしようとは思うが、それはそれでルピアにとっては幸せかもしれない。色々と面倒で辛い事に直面しなくていい。

「一応連合軍司令だろう、猫王様は。大丈夫なのかこの先」
「そのうち戻るらしいんだが」

 思わずリシュルと思いきり溜息をついた。人の気も知らないでにゃんこは長閑に今度は蝶々を追いかけ始めた。

「今更だがリールも連れて来て欲しかった。ミーアが寂しがってたぞ」
「なんで……って、ええっ?」

 私だってその意味くらいは理解出来た。

 しまったぁ! こっちもカップル成立してたのかっ? そういや同じ鳥族だしタイプだとか言ってたし。美男美女で二人っきりで山越えしたりとか……ミーア、なんで言ってくれなかったんだ! お姉ちゃんは悲しいぞ。

 しかし皆なかなかどうして手が早いではないか。何か? そこら辺、動物の本能が残ってたりするんだろうかな?

「マユカが鈍……オクテ過ぎるのでは無いだろうか」

 わりとハッキリいうな、リシュル。すまんな。鈍くて。

「ミーアとリールには可哀想な事をしてしまったな」
「まあ、無事に帰れれば会えるし。そう思えば頑張れる」

 そのミーアは子供が多い他の患者さん達に囲まれて、同じ中庭の片隅で穏やかに笑っている。気が強く活発なイメージのあるミーアには意外だがそれもとても良く似合うと思う。

「アタシ、看護婦さんになりたかったんだよ、本当は」

 戦わなくていい時だったら、さぞいい看護婦さんになれるだろうな。あのリールみたいな大人しい男が似合いだし。

 こうしてよく考えると、私はまだまだ仲間のプライベートの事を詳しく知らない。ルピアの事も知らなかった。

 それでも私は彼等の事を無条件で信頼できる。これだけは確かだ。


 時々気になってイーアの兄のローアの元に行ったが、まだこちらのほうは動きが無いようで安心した。伝書鳩のような鳥が、病室の窓に手紙を届ける形で連絡しあっているそうだが、決起を待てと連絡をしてもらって以来返事は無いそうだ。

 午後には残りの部隊が到着すると、今朝電話でグイルから連絡が入った。首都のほうはかなり下っ端の殲滅作業が終了し、数十箇所に分かれて管理されていた女子供、お年寄り達も無事解放したとの事。

「イーアにもう一度会える。隠さずに自分の事を言うといい」

 ローアは何も言わずに頷いた。

 別にこそこそしなければいけない事をしているわけではないのだ。ヴァファムに自分達で立ち向かおうとする人々を支援するのは悪い事では無い。体は動かなくともかなり頭は回るようだし、人が何かの目標に向かって結束するには『飾り』であってもリーダーがいた方がよい。言い方は悪いが、このローアのようなか弱く庇護すべき人間が勇気を見せる発言をすれば、多くの者が心動かされるのは自然なことだと思う。

 だが、幾ら自由を勝ち取るためとはいえ命を奪うのは避けたい。国、種族同士の小競り合いの多いこの世界でも、戦争の場においても殺し合いはしないとルピアも言っていた。武器を使わず、その身だけで戦うと。

 軽部がこの世界のほうが私達の世界より素晴らしいと言っていたのがわかる。私達の生まれた世界では、いつもどこかで人が人を殺していた。戦争の場においては、個人の特定すらなされず、女も子供も関係なく犠牲になる。寧ろ守るべき子供や弱いものが犠牲になる。ここではそれが無いのだ。

 ヴァファムは確かに武器を手にすることに躊躇いが無いが、彼等とて殺しはしない。それを止めるのに命を奪うというのは言語道断だ。しかも元々は同じ普通の市民同士である者を。

「ローア、お前も立派な戦士だ。私達と一緒に戦おう。それは武器を持って対抗するのではなく、他の方法もある」
「はい。しかし、なぜ連絡が無いのでしょうか。そこが気になるのです」

 一日に一回はあったという連絡の伝書鳩があの夜以来届かない。

 ローアがわかってくれても、末端まで意志が伝わらなくては意味が無い……。

 あまり疲れさせても気の毒なので、イーアが着いたらまた来るからと寝かせてローアの病室を後にした。

「にゃ、にゃにゃっ!」

 廊下に出ると、金色にゃんこがすごい勢いで走って来て私に飛びついた。

「元気そうだな、ルピア。でも廊下は走らないほうがいいぞ?」
「ふぎゃっ! にゃにゃっにゃんっ!」

 また猫パンチで何か必死に訴えているようだが、残念ながら言葉がわからない。

「何か慌ててる?」
「にゃ!」

 うんうん、と頷くルピア。

「そろそろゾンゲやグイル達も着くんじゃないか?」
「にゃにゃん! にーっ!」

 何だろう。ものすごく焦っているようなんだが。

 少し進むと、診療所の入り口付近が異常に賑やかだった。急患?

 白衣を羽織ながらヒミナ先生が走って行くのが見えた。

「ヒミナ先生、どうした?」
「重傷の患者が大勢運ばれて来たの。貴女達のお仲間が連れてきてくれたんだけど、数名亡くなった人もいる。悪いけど貴女の部隊の医師や兵士にも手を貸してもらうわよ!」

 バタバタと行きかう看護婦や兵士達。担がれている人、担架に乗せられて運ばれる人……皆一目みただけで酷い怪我だ。

 担架を運搬する中に良く見知った顔を発見した。

「グイル、ゾンゲ! 何があった?」

 とりあえず奥の処置室に運び終えてから、グイル、ゾンゲ、そしてゲンが駆け寄ってきた。

「来る途中で武装した集団に襲われてる村を見つけたんだ。止めに入ってびっくりしたけど、襲ってた方が普通の人で、襲われてたのがヴァファムに寄生された人達だった。怪我人や犠牲者は全員寄生されてた側だ」
「もう……わけがわからない」

 余程酷い状況だったのか、グイルが難しい顔をしている。

「あのときの坊や達みたいなのがついに立ち上がったって感じねぇ」

 ゲンがそうつけたした時。

「マユカさん!」

 杖をついたローアが青い顔でやって来た。

「たった今これが……」

 手に握り締めていたのは手紙らしきもの。そこには殴り書きのような文字と、血だろうか、赤茶色の染みがあった。

「ローア……これは」
「完全武装した数十名がヴァファムに完全に支配されている村に乗り込んでいったと……止めようとしたけど止められなかったと」

 何てことだ。これがその結果なのか!

「僕が合図をするまでは動くなと言っておいたのに……しかも村の人を皆殺しにしようとしたって……」

 リーダーの合図を待たず、勝手に動いた班がいるようだ。

 ヴァファムの幹部と戦うよりも、寄生されていない過激な若者達を止めるほうが厄介なようだな。

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まいるどタブレット小説 Ver1.13