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【第1章】五種族の戦士 - 7:戦士の初陣

2014/10/14 14:13

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 ヴァファム。

 それは第六の種族。

 知的レベルは他の種族に比べ非常に高く、高度な知能を誇る。好戦的で他を攻撃する事に躊躇いが無い。

 目に見えないと言われているが、実際はとても小さな実体を持っていて他の種族に寄生することでコミュニケーションを図り、増殖する。

 小さすぎて力も無いので寄生した相手を操るしか、生産も移動もましてや戦闘など不能なため、寄生主を殺す事は無い。

 乾燥に弱く、高温多湿を好む彼らにとって、人の体内は過ごしやすい。最も、多湿を好むと言っても水には弱いので、血液・体液に触れる完全な体内には侵入しない。鼻腔、あるいは耳穴に主に寄生。

 ヴァファムは昆虫から進化した。

 神から力の石を授かったいずれかの種族の体毛に付着していた虫が、零れ出た光を共に浴びて進化した……そう伝えられている。


「とまあ、こんな感じだ」

 腕を吊ったルピアが、分厚い本を片手で不自由そうにめくって説明してくれた。何故そんな痛々しい姿になっているかは、自業自得だ。ちょっと捻ってやっただけの事。

「虫……」

 帰りたい。この東雲麻友花、血も刃物も背中にプリントのある殿方も銃や猛獣も怖くは無いが、一つだけ苦手なものがある。

 昆虫。特に這うやつ。羽があって足のあるものならまだ少しは許せる。遠目に蝶やトンボを見るのは可愛いと思わなくも無い。だが触るのは勘弁だ。

「ふうん、修羅にも怖いものがあるんだ」
「また思考を読んだな」

 もう一方の手も捻ってやろうか? プライバシーの侵害だぞ。

「怖くは無い。だが気持ち悪いではないか、虫と言うのは。他の動物はまだ何を考えているか僅かなりともわかるだろう? 驚いてるとか怒ってるとか。だが虫だけは全く感情がわからん」

「うんまあ、そう言われてみればそうだが。感情を表に出さない君に言われるのは、虫も面白く無いかも……って、おい待て! 顔色一つ変えずに拳をかざすなっ!」

 ちっ。いちいち腹が立つ事ばかり言うな、この男は。

「で、王様は忙しいんだろう? 何故私の側から離れないんだ」
「言ったろ? 僕は君のマスターだ。あまり離れると後で色々と面倒でな。言っておくが決して昨夜のベッドに侵入したのも、やましい気があっての事では無いぞ」

 ほおお。では一体どんな気があって入った。

「契約の秘術で思いきり力を使ってしまったから、君の体内に蓄積された異界の魔力を補給をしないと、僕はいずれ死んでしまう」
「……死ね」

 それと夜這いと何の関係がある?

「ちなみに聞いておくが、魔力の補給と言うのはどうやればいいのだ? 一緒に寝ればよいのか? それだったら断るぞ」

「口付けをしてくれれば。毎日」
「……やはり死ね」

 酷い~! とか言ってるが知ったことではないわ。ラブリーな子猫ちゃんだからしてやったが、こんな無駄に美しい男とキスなど! 恥ずかしくて出来るかっ。

 さあて、朝食の前に軽くゾンゲ氏に柔道の基礎だけは叩き込んでおいたしな。残りの面々も個別にもう少し戦闘力を知る必要がある。

 とっとと終わらせて帰るために。


 それぞれの適性はわかった。問題は数だ。たった六人で、しかも素手で何が出来るのか全くわからない。

「ヴァファムに寄生されている者を実際に見てみたい」

 我ながら積極的に打って出る事にした。何でもいい、早く帰りたいのだ私は。

「隣のママム国で何人かが寄生されたとの噂が出ている。数を増やし軍隊を結成される前に叩いておきたい」

 既に隣国まで来ているのか。それは急がねばならないな。というわけで、早速お隣の国に行く事にした。結構近いらしい。

「早馬を用意させた。マユカは馬に乗れるか?」
「……乗った事が無い」

 乗馬は無いな。私が乗れるのは自転車とバイクだけだ。関係ないが四輪の免許も持っていない。

「まあいい。では初陣と行こうではないか!」

 なぜか一番やる気満々なルピアの合図で、初めての戦いの場に行く事になったのだが……。

「何故、お前も来るのだ? 王が国を離れていいのか?」

 現在馬に乗っている。私の乗っている馬の手綱を握っているのはルピアだ。つまり密着して相乗りしているのだ。

 前にはゾンゲ、グイル、リシュルの男性陣の馬がそれぞれ。横にはミーアと小さいイーアの女子供が一緒に乗った馬がいる。

「言っただろう? マスターの僕と君は離れられないんだ」
「という事は、この先もずっと一緒なのか? 敵と戦ってなお王様の護衛までしなければならんのか?」

 マジか。どう見てもこの王様は戦えそうに無いぞ? さっきから落とされては堪らんので必死で背中にしがみ付いているが、引き締まってはいるがこの背中は鍛えられた筋肉じゃない。

「大丈夫。これでも猫だから動きは早いよ。自分の身くらいは守れる。マユカは敵を倒すことだけに専念すればいい」
「……」

 今、ちょっとだけ格好いいと思ってしまった自分が憎いぞ。

「私も乗馬を覚えねばな」
「いいじゃないか。どうせ一緒に行くならこうやってくっついてるのも。僕は大歓迎だよ」

 ……前言撤回だ。エロいかも、コイツ! 次はゾンゲ氏と乗ろう。

 お隣の国まで何時間か馬を走らせ、小さな村を目前にした森の中で、先頭を行っていたワンコ青年のグイルが馬を止めた。

「嫌なニオイがする」

 彼に従って皆馬を下りる。

 犬族は鼻がいいらしい。耳もぴくぴくしてる。

「ルピアは馬と待っていろ」

 木の向こうに何人か人がいるな。気配は私にもわかる。後の面子も何か感じているみたいだ。

「武器を持っているわ。これからあの村を襲う気かもしれない」

 鳥女のミーアだ。こいつは目がいいのだな。

「よし、武器を持っているとなると寄生されてるんだろう。行くぞ」

 皆、足音も立てずに広がり、近づく。よし、使えるなコイツ等。捜査部に欲しいくらいだ。立ち位置もいい。

 私はイーアと共に横から回り込んだ。十人近くいるな。皆一見普通の人間に見えた。だが手には大きな剣らしきものを持っている。ルピアが言った様にこの世界の人間は武器で殺し合いをしないのなら、あからさまに怪しい集団だ。

「目が虚ろでしょ? あと額に痣みたいなのが浮かんでる。あれがヴァファムに寄生されている証拠だよ」

 小さな声でイーアが教えてくれた。

 ではヴァファムのお手並み拝見。

「おい」

 私が声を掛け、剣を持った男が虚ろな目でこちらを向いたのを切欠に、初の戦いの火蓋は切って落とされた。

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