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【第二章】新大陸 - 58:議事堂の幹部

2014/10/14 17:09

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「下っ端からの情報では、第一階級の役つきは国の議事堂にいるらしい」
「ここは王制ではないのか?」
「この国は小さいが数十年前に全世界に先駆けて王制を廃止して、議会制にした進んだ国だ。中でもこの首都は交通・貿易の要所だからな」

 ふうん。ルピアも結構知ってるんだな。こういう難しい話をしている時はやっぱり若くして国を治める王様なんだと納得できるのだが、他の面が残念すぎてなぁ……。

「議事堂か。まあ、この事態で議会は止まってるだろうが国の中枢部だな。たった一人の役つきが全体を治めるにはそうなるか」
「イーアは議事堂の場所はわかるか?」
「うん。任せて」


 五種族の戦士最年少の魚族代表、イーアはこのディラの国の出身だ。今いる港町イラの生まれでは無いが、隣の町なのでほぼ地元民である。よって今回は道案内はばっちりみたいだ。

 今までの経験を元に、下っ端が家に引っ込む時間、正午をついての移動。それでも区域ごとに見張りが数人ずつは立っていたが、簡単に撃退できた。

 やはりと言うべきか、見張りは警察官が多かったので速攻虫を取り出して味方につける。船で一緒に来たデザールの兵と共にどこかで閉じ込められているだろう女子供を解放に行ってもらう。

「段々と手際が良くなって来たな」
「慣れて来たんだな」

 出来ればこんな事に慣れなくてよければいいのだがな。

 向こうの大陸に比べるとアジア的な佇まいの町は、本当に昔の日本にタイムスリップしたような錯覚を覚える。海と山に挟まれた地形も日本ににているからだろうか。

 やや近代的な石造りの建築物の並ぶ表通りから一歩入ると、長屋の続く裏路地。郷愁をそそられるような眺めだが、綺麗に塵一つ無く掃除され、遊ぶ子供も表で立ち話しているお年よりもいないのが気持ち悪い。まるで昔行った事のある明治時代の街並を模したテーマパークの閉館後のようだ。

「えっとね、こっち」

 イーアがそれこそ水を得た魚という感じで、すいすいと路地を先導する。

 他にももっと強い者もいただろうに、なぜまだ子供のイーアが選ばれたかは、リシュル、ミーアもそうだが、こちらの大陸がほぼヴァファムの監視下に置かれている中、自力で逃れるだけの力があったからだ。それだけでもたいしたものだが、魚族の中でも電撃を使えるものは限られている。身も軽く頭もいいイーアは生まれながらに選ばれた戦士なのだ。

 いつも一緒にいる仲間だがルピアを除く誰も生い立ちやプライベートな部分は私もほぼ知らない。訊こうとも思わない。だが、こうして故郷に限りなく近い所に来ると気にはなる。

「イーア、両親や家族はいるのか?」
「父ちゃんも母ちゃんも僕が小さいときに死んだから。でも兄ちゃんがいるよ。脚が悪くて病弱だからヴァファムには憑かれてないと思うけど」

 ……結構苦労して育ってきてるようだな、イーアって。

「お兄さんは捕まってるのか?」
「どうなんだろう。病院に入ったまんまだったからね。病院はたぶん一番安全だから僕も安心して任せてるけど」

 どうしてそう無邪気に笑っていられるのだろうか。しっかりした子だとは思っていたが、ここまでだったとは。きっと心配で仕方ないだろう。なのに一人で海を越えて来たのだ。考えると胸がぎゅっとなった。

「寂しくは……無いのか?」

 少し声がかすれたかもしれない。別に憐れんでいるのではない。

「僕は強くなったよ。兄ちゃんを守ってあげないといけないから。それにはマユカ達と一緒に大女王を倒さなきゃいけない。だから寂しくないし頑張れるよ」

 腹のスリングの中で、ルピアがぐすんと鼻を鳴らしている。結構涙もろかったりするんだな、猫のくせに。気持ちはわかるけどな。感動したんならちょっとは見習え、ルピア。

「兄ちゃんをマユカに会わせてあげたい。きっと生きる勇気が湧いて元気になると思うんだ!」

 そんなご利益は無いと思うが、私も会ってみたいな。

「早くこの国を取り戻そう。そしてお兄さんに会いに行こうな」
「うん!」

 よし。気合が入ったぞ。一つ目的が出来たからな。まずはこの国を解放する。そしてイーアを兄に会わせてやろう。

 そのためには、まず第一階級の役つきを倒さなければならない。


 思ったよりあっさり近づけ、目指す議事堂はすぐ目の前だが……。

「でかっ」

 なんじゃこりゃ~! 日本の国会議事堂みたいなのを想像していたが……まああれもデカイけどな、それどころじゃない。

「まるでお城じゃん」
「そうだよ。だって昔王国だった頃はここに王様が住んでたんだもん」

 ……イーア、そういうのは先に言っておこうか。

 城といっても、某ネズミさんがおいでの夢の国にあるような西洋風の城ではない。かといって日本の城とも違う。どちらかというと中国や韓国の王宮みたいな感じだ。

「門は開いてるな」

 朱塗りの壁に囲まれた敷地の前には大きな門が見え、その向こうには何万人も入れそうな広場が見える。そのまた奥には、何段かの階段の上にどどーんと壁のように豪華な建物。

「お邪魔しまーす」

 一応挨拶くらいはしておかないとな。誰に? そんなツッコミはいらん。礼儀というものだ。後ろでグイルやミーアが呆れているっぽいが。

「何者!?」

 おお、門番立ってたんだな。って、もうゾンゲとリシュルに手刀喰らってるし。

「マキアイア様に用があるのだ。何処にいる?」
「奥……」

 石畳の王宮前の広場はそう、こういうのカンフー映画で見た! ここで沢山の兵が皇帝に跪いてたり、御前試合をやったりするような。だが今はがらーんと人けの無い広間は閑散としている。

「耳かき部隊、合同軍は合図をするまでここで待機。私たちだけで奥に行く」

 こういう所で命令なんかした日には、女帝になったような気さえするぞ。

 強いから護衛などいらない……港の下っ端も言っていたが、本当に守りが手薄だ。正面から堂々と乗り込んだにも関わらず、ほとんど襲って来る者もいない。要所要所に見張りをしているものは立っていたが、こちらは無傷で倒してきた。

 だが何と言うか……広すぎる! これどんだけ廊下を歩かないといけないんだ。

「迷子になってない?」
「そんな気もする……」

 よし、次見張りを見つけたら道を聞こう。そう思っていたら広い場所に出た。

「お、かなりの数いるぞ」

 槍、剣を持って待ち構えていたのは、数十人の身なりのいい男たちだった。ひょっとして議員さん達? むう、こんな時だが見張りって顔で選んでるんだろうかと思うような、結構な男前揃いだな。

「マキア様ノトコロニハ行カセナイ!」

 男前集団が一気にかかってきたが……。

 どか。ばき。ごき。

 うーん、弱かったけどな。五人と私でものの数分で倒してしまったが。

 足元に倒れた男を捕まえて、揺すってみたら目を開けた。

「マキアイアというのは何処にいる?」
「シャベラナイ」

 頑なに首を振り、口を割ろうとしない男に笑いかけてみた。

「マ、マキア様ハ……」

 効果てきめんすぎて、微妙に心が痛いので使いたくは無いのだが、もう私の笑顔は必殺技になってしまったのだろうか。怯えた様に男が喋り始めた時。

 キーンと響いたのはヴァファムの幹部の『声』か。突然伸びていた見張りたちがしゃきっと立ち上ったので、一瞬身構えたが、皆そろえた様に一斉にお辞儀をした。な、何事?

「案内シロトノ御命令ダ。ツイテコイ」
「……」

 予想外の事にあっけに取られたが、歓迎すべきことなのだろうか。だが、このタイミングをみれば。どこかで監視されているという事か。私達が入って来た事はお見通しらしい。


 通されたのは案外近代的な西洋風の部屋だった。ふかふかと毛足の長い豪華な絨毯を除いては、ゴテゴテした装飾も無いシンプルな部屋。広いが中央に小さな応接セットがあるだけだ。そして白を基調にした壁に、大きな海の風景画が掛けられていて、その手前にデスクと革張りの椅子。恐らくこの国の首相あたりの執務室かと思われる。

 デスクの椅子は壁のほうを向いている。私達に背を向けるように。壁の絵を眺めているように。その椅子に誰か座っていた。

「お招きありがとう、とまずは言っておこう」
「……」

「お前がマキアイアか?」
「……」

 返事は無い。僅かに金の髪が見えるだけの人物は、大きな背もたれの革張りの椅子に掛けたまま、壁に掛けてある絵の方を見ている。

「返事も無しか? せめてこちらを向くくらいはよいと思うのだが?」

 それでも動こうとしない相手に少しイラッとなった。

「聞えないのか?」

 少し声を荒げると、やっと動きがあった。

「聞えてるわよぉん。ギャーギャーうるさいコ達ねぇ」

 椅子から立ち上がり、くるりとこちらを向いた男。

 ううっ!

 ぞぞぞっと背中に冷たい物が這ったような不快感。よぉんとか言ったが毛の生えていそうなものすっごい野太い声なのだが。

「そーよぉ? アタシがマキア。南方第一司令マキアイアよ」
「……」

 け、刑事スキャン……したくないのだが始動。

 身長およそ百九十センチ、推定年齢二十代後半。性別は……男。無駄な贅肉は一切なさそうだが、ボディービルダーのようなムキムキ筋肉質なので推定体重は九十五~百はあるだろう。分厚い胸板と割れた腹筋がわかるぴっちりしたピンクの短めシャツに、これまたぴっちりした裾の開いた白のパンツは臍が見えるほど股上浅めででっかいバックルのベルト。何故かピンヒールのミュールには飾りに花がついている。短く刈りこまれた髪は金髪、決して不細工な顔では無いのだがイカツイ。そのイカツイ顔に細く整えられた眉、バッサバサのつけマツゲにラメラメアイシャドーは紫。そしてグロスでツヤツヤ光る薔薇色の唇。

「あらぁん、可愛い子猫ちゃん♪」
「ま、マユカっ、怖いいいいぃ!」

 ルピアが全身の毛を逆立てて私にくっついている。

 うん。怖いな。私も色んな意味で怖いぞ。


 ……最高位幹部マキア様は王宮に相応しく無いきっついオネェだった……。

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