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【第二章】新大陸 - 57:ツッパリ棒術

2014/10/14 17:04

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 四面楚歌。

 なんだかそんな言葉が浮かぶ。

 ニュアンスは微妙に違う気もするが、船から降りて十分足らずでもう一回戻り、閉じ込められて早半日。周囲はぐるりとヴァファムに寄生された人々に囲まれ、ほとんど篭城状態。

 ただ今緊急対策会議中である。

 ここは魚族の国ディラの首都イラ。デザールのあった大陸から船で入るにはこの港町が玄関となる……のだが。額に印があって目が虚ろな以外は普通に見える人々。イーアの故郷であるここはすでに完全にヴァファムの手に落ちている。

 結構な人数で来たが、この大陸で宿や食糧の調達はちょっとやそっとでは望めない。大陸の中心にあるセープ王国まで辿り着くまで、確実に一つづつの町を開放していかねば、進路すら開けない。

「うー、道案内は出来るんだけど、これじゃあ……」

 イーアも困り顔だ。

「まずここを開放せねばならんが、かなりの人口のようだなこの町は。一部寄生から逃れた人や女子供などはまた隔離されているだろうが、町全体が相手では厳しいぞ」

 まず口を開いたのはグイルだった。

 だが四面楚歌の逸話のように、このまま敵に囲まれて絶望するまで篭っているわけにもいかんし、打っては出ないといけない。まあ周りが全て敵であっても、絶望するような繊細な神経の持ち主はここにはいないがな。

「……いっそ役つきが一人でもいてくれると有難いのだがな。大きな町でもいつもの様に役つきに命令させればいいんだが……うう」

 結局最後まで船酔いしっぱなしだったルピアは、青い顔でへたり込んでいる。やつれきっているな。まあ、猫ちゃんになれば運んでやれるから問題は無いのだが。そしてマトモな事は言えるようだ。

「それはなかなかいい考えだ。一応国の首都だし、見たところ結構な都市だ。役つきの一人や二人いるんじゃないだろうか。玄関口だし」

 知将リシュルも頷いているな。またも偉そうだが仕切らせてもらう事にする。

「よし。ではまず私達だけで降りてみよう。耳かき部隊、残りの者は呼ぶまで船で待機」

 一週間にもわたる長い船旅で、皆体が鈍らないようにこつこつ基礎運動はしていたものの、運動不足で動きたくてウズウズしている。

 すっかり傷も癒えたゾンゲもグイルもやる気満々だし、ミーアもイーアも元気いっぱいだ。まずは船の周りにいる下っ端達を何とかし、この港部分だけでも解放したい。とりあえず地面に足を下ろさないと本気でルピアが船酔いで寝込みそうだ。

 ツッパリ棒の使い勝手もみてみたいしな。

 スリングで子猫モードのルピアを抱えた私、五種族の戦士のみで船を降りる。足場板を降ろしてもらうと、遠巻きに囲んでいた市民がわらわらと寄って来た。

 どの手にも木の棒や小ぶりの剣などを持っている。漁に使う銛を持っている者もいるな。

 不快なあの電子音のような音。仲間を呼び寄せているのだろう。

「オマエタチ、町ニ入レナイ」

 少し額の印の濃い大柄の男が一歩踏み出した。見張りクラスだろう。

「では大怪我をさせない程度に暴れるか」
「おう」
「そうこなくっちゃ!」

 展開!


 広さも充分ある整備された港の石畳の上、しばらくずっと揺れを感じていた足元に安定感のある地面は心地いい。

 ルピアを置いてきたほうが動きやすかったが、離れるとタダでさえ船酔いで弱ってる。死なれたら困るので子猫ちゃんでぶら下げたままだ。

「ふふふ、これをこう回してだな」

 きゅきゅきゅ。ツッパリ棒をそこそこの長さまで伸ばす。元々は一メートル半位だが、貼ってあるステッカーの説明に最大二メートル十五センチになると書いてあった。今は百八十センチくらいだろうか。棒術で使う六尺と同じほどだから扱いもいいし、強度を考えるとこのくらいがベストだろう。

「わあ、伸びたー! おもしろーい!」

 ルピアが顔を出して目をキラキラさせて見ている。玩具じゃないからな、触らせてはやらんぞ。無駄に綺麗な男だが、中身は子供みたいなもんだ。きっとバネやネジがバカになるまで遊ぶに違いない。

「顔を引っ込めてろ。攻撃は受けんようにするから我慢してろ」
「うん」

 既にここの所不完全燃焼が続いていたゾンゲは張り切ってもう何人か伸してる。グイルもリシュルもきびきび動いてるし、ミーアも何人も蹴り飛ばしながら駆け回ってる。イーアは集めておいて一気に行く作戦のようだ。

 よし、負けてはいられないな。

「我が棒術、とくと味わうがいい」

 まずは薙刀と同じように上段に構える。

 日本武術における棒術の型は流派によって違うが、その多くは戦場において先の刃を失った薙刀で戦ったのが始まりとされている。だから共通点は多い。刃が無い分、思い切って振り回す事も突く事も出来る。

 既に周囲を数十人に囲まれているが、くるりと棒を回すと、一斉にかかってきた。

 旋回、打ち下ろし、突き。急所を避け、腹に武器を近づけさせないように体は反らさずかといって前屈みになる事無く。足はすり足、流れるように、舞うように。

 面白いほど周りで人が倒れ、飛ぶ。

 足を払う、突く。振りかざされた剣を絡め取るように回す。

 うむ、使えるぞ、これは。スチール製のツッパリ棒、行ける。警察で警棒術もやってたから短くしても使えるぞ。

「すごいな……」

 ゾンゲの声で気がつくと、ほとんどの者が地に臥せっていた。

「武器を使うのは本意では無いが、大人数や殺傷能力のある武器相手には使えるな」
「……いや、たぶんマユカしかそれはそのようには扱えんだろう」

 さて、他の皆も張り切って何十人もやったみたいだから、ここらで聞き込みといきますか。

 足元に倒れている一人を起し、活をいれて喋らせる。

「おい、この町に役つきはいるか?」
「オラレル」

 やはりいるのだな。

「名前は?」
「マキア……サマ」
「第三階級か、第二階級かどちらだ?」

 あまり手荒な事はしたくないが、

「マキアイア様ハモットウエ」

 何? もっと上?

 えっと、第三階級がルンカスとついていたな。で、第二階級がレア。イアといったな? 今まで名前にイアがついていた者といえば……。

 エルドナイアがいたな。コモナレアが「エルドナ様」と言っていたということは、イアというのが階級を指すのだろう。鍛冶屋の村にいた小女王! ということはこの町にいる役つきは……。

 えー? いきなり第一階級って!

 第一階級といえば少女王と同じ位ということか。女王は戦う事は無いから……オス? 男か?

「マキアイア様は強いか? 護衛がいたりするのか?」
「強イ。一番ツヨイ。ヨワイ護衛ナドイラナイ」
「……」

 へ、へえ~。

 多分顔には出ていないと思うが、ものっすっごーく焦っているのだが。

 一番最初の役つきが第一階級って。

 自滅してくれずに普通にやり合ってたら、第二階級のリリクレアでさえヤバかったのに。勝てるのか?


 その後、マキア様なる第一階級がいる場所を聞き出し、なんとか港だけは制圧することに成功した。やっと降りられた耳かき部隊の活躍もあって、百人近くの人間がヴァファムの寄生から自分の意思を取り戻した。

 港の倉庫を借りることが出来、やっと皆が地に足を着けて落ち着けたが、食事の時間になってもルピアは子猫ちゃんから人型に戻らず、スリングから出ようとしなかった。

「どうした、もう降りていいんだぞルピア」
「……」

 なんだか酷くぐったりしてるな。魔力も使ってないと思うのだが。

「……酔った」
「もう船から降りたのにか?」
「マユカ酔い……」

 スリングに入れたまま立ち回りをやったので、私の動きに嵐の船並みに揺すられて酔ったらしい。

 ルピアはやっぱりどこまでも残念な奴だった。

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