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【第1章】五種族の戦士 - 3:伝説の戦士

2014/10/14 14:09

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「起きろ」

 誰だ。乙女の眠りを邪魔する奴は。掌底打ちでアバラ折るぞ。

「……乙女は寝起きにアバラ折るなどと思わん」

 どこぞの声優の様ないい声ではないか。しかし、何故男の声が?

 恐る恐る目を開ける。

「目が覚めたか?」

 私は目を開けたな? だが何故、超至近距離に男の顔がある? しかも見たことも無い様な男前だ。まだ夢を見ているのだろうか。よし、もう一度起きるところからやり直しだ。

「おい、夢では無いぞ」
「……」

 チョイ待て。考えてる事まで読んでいないか?

 飛び起きると、男前はぶつからない様すっと後ずさった。その身のこなし、ハンパでは無いな。

 ざっと見渡したところ、私の部屋では無い。天井も床も眩しいほど白く、どこぞの宮殿の様な彫刻のある柱が見える。やたらと広くて豪華そうだ。その真ん中に私が寝ていた石の台がある感じだ。新手のラブホ?

「……ここは何処だ?」
「僕の城だけど?」

 城? ここのオーナーか何かか?

「……貴様、何者だ?」

 刑事スキャン始動。身長百八十センチ強、股下はムカつくほど長い。中肉よりやや痩せ型、推定年齢二十~二十五。性別男性。肩ほどの髪は見事な金髪でゆるいウエーブ、目は深い緑。彫りの深い顔立ち色白からヨーロッパ系民族と思われる。服装は白のドレスシャツに細身のグレーのパンツとシンプルだが上品。

 最近、外国人の犯罪者も多いからな。どこの組の用心棒だ。この私を拉致るとはいい度胸ではないか。

「我名はルピア・ヒャルト・デザール・コモイオ七世。君をこのデザール王国へ召還したマスターにして王」

「ご大層な名前だな。七世と呼べばいいか?」
「……いや、出来ればルピアと呼んで欲しい」

 そうか。外国の者は苗字と名前が反対なのだな。そういう問題では無いというツッコミはいらん。

 王国へ召還とか言ったな。えらく規模の大きい事を言ってるな。私に挙げられた暴力団関係者や窃盗犯の縁故で無くて、国際テロ組織とか? いやいや一介の県警の刑事なんぞを幾らなんでも……

「おい。酷く冷静にまるっきり見当違いな事を考えてるな」
「貴様、人の頭の中を読めるのか?」
「ああ。僕は君のマスターだからな」

 ……マスターだと? SとかMとかそういうご趣味の方? イッちゃってる? 王子様みたいな見た目なのに残念な……。

「残念なのは君だマユカ。僕と契約の口付けを交わしたのを忘れたのか? 自分の口で名を教え、口付けをした地点で契約完了だ」
「口付けだと? 貴様とか? 私が?」

 こんな外国人の男前とキスなどした覚えは無いぞ。

 キスしたのは子猫ちゃん。

 はっ! あの可愛らしい子猫ちゃんは?

「思い出したか?」
「私がキスしたのは金ぴか子猫ちゃんだ」
「僕だ」

 はいいいぃ? やっぱりコイツ頭の可哀想な残念君か?

 残念君はちょっとムッとした顔をしたと思ったら、しゃがみこんだ。次の瞬間には残念君が消えて、みゃ~と声がした。

 ぱふぱふ。私の足に爪を立ずに猫パンチしてるのは金ぴか子猫。

「これなら信じてくれるか?」

 多分、無表情のまま口をパクパクしてただろうな、私は。

 また子猫が消えて、残念君が立ち上がった。

「子猫にゃんはっ?!」
「だから僕だっつーの。さっきのも僕」
「……」

 子猫にゃんが……。

「現実を受け止めたまえ、マユカ。第一、君は自分の姿を見て何とも思わないのか?」

 自分のって。鏡あるわけでなし……ん? 私はパンツスーツを着てたよな? なんで足がこんなに露に? 腕もだ。肘や膝に皮の防具みたいなものが。若い子が履くような毛皮のブーツなんぞ持ってないぞ?

「鏡で見る? こちらへどうぞ」

 言われるがままに立ち上がってついて行くと、白い壁の一部が巨大な鏡になっていた。そこに映る自分の姿は……。

「……何だ、これは」

 顔はいつもの無表情な私だ。限りなく水着のような覆う所も少ない皮の服というより鎧? に、丸出しの太もも。二の腕には片方腕輪。肩、膝、肘から先には防具、脛は毛皮で覆われている。そしてあまり趣味のよろしくない額の飾輪。白いマントってどうよ?

 ……一言で言うと映画のアマゾネス。

 我ながら本当に無表情な横で、鏡に満足げに笑う残念君七世の姿が。

「勇ましい女戦士ではないか。なかなか似合う」

 さて、問題です。

 誰がこの鉄仮面の修羅を脱がせ、このような悪趣味なコスプレをさせたのでしょうか?

 ソイツ殺ス!

「いやいやいや、待て。脱がしてないし。王国に召還した際に伝説の戦士の姿に勝手に変わったんだし」

 ちっ。また人の考えを読んだな。超能力でもあるのかコイツ。

「伝説の戦士って何だ? 召還? 帰せ、今すぐ私を家に!」
「それは無理だ。僕との契約を果たさないと君は帰れない」

 契約だぁ? 契約書も何も読んでおらんぞ。契約前説明は必須ではないのか? クーリングオフは? 消費者センターに連絡だ!

「落ち着け。これから長い説明をしなければならないが……君が選ばれた事は間違いでは無い。数々の条件に全て適応出来たのは人間界で君だけだった。故に僕は君を選んだんだ」

 数々の条件をって……勧誘詐欺のお兄さんみたいな甘い言葉を潤んだ瞳で男前に言われてもな。

「条件一、女である。二、独身である。三、捨てるものが無い。四、表情で相手に気持ちを悟られない。五、素手で自分より大きな相手でも倒せる。六、黒髪である。七、冷静である。八、恐れられる存在である。九、身長が百六十七センチである。十、何よりも猫が好き……この全ての条件を満たすのが、まさに君。完璧だ」

 おい、身長って何だ。何故そう細かい。まさに私は百六十七だが。

「その戦士の鎧の都合上だな」
「……伸縮しないんだな」

 どんな条件だ。 後から取ってつけたように私にぴったりでは無いか。だが世界中探せば何人もいる気もするぞ?

「後から考えたのでは無いぞ。古文書に書かれている」

 私は現実主義者だ。例え目の前で金髪美形が子猫に変わろうと、人の考えを勝手に読もうと、自分がとんでもない格好をしてようと……。

「これが現実なんだよ、マユカ」
「……」

 認めざるを得ないってか?

「……わかった。契約の内容を聞こうではないか」
「物分りいいじゃないか」

 優雅に笑うな、残念七世。

「その前に一つだけ」
「何でもどうぞ」

 私は無言でクソ長い名前の残念君七世を一本背負いで沈め、崩袈裟固で押さえ込んだ。

 子猫の姿だったらやらなかったのにな。本当に残念だ。

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まいるどタブレット小説 Ver1.13