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【第1章】五種族の戦士 - 16:秘密兵器登場

2014/10/14 14:23

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 だんっ。

 自分より大きな男を投げるのは気持ちがいい。

「気合が足りん」
「はいっ! もう一度!」

 朝一に指導を請われて組み稽古。爽やかだ。気持ちが引き締まる。

「暑苦しい事だなぁ」

 一向に引き締まらない男が一人いるがな。何処の誰よりも一番精神的に鍛えてやりたい男、ルピアに暑苦しいとか言われたくない。

「皆が真面目に鍛錬していると言うのに、いいご身分だな」
「だって僕、王様だから」

 ……ああ、そういうご身分だったな、確かに。皮肉も効かん残念な王様に何を言っても無駄だとわかっているのに。

「戦いに備えて体力を置いておくほうがいいのでは無いのか?」
「何も努力をしないで強さは手に入らん。日々の精進があって初めて恐れずに戦えるのだ。邪魔をするなら姿を見せるな」

 おお、さすがは~とか皆言って、一層頑張っているが、残念様には響かない言葉だったようだ。

「僕は僕で魔力を鍛えているから」

 新たな戦略を展開する上で、明らかになった事が一つある。

 この世界には魔法が存在するらしい。

 まあ猫に変身する王様がいたり、違う世界から私を連れてきたくらいだから、当たり前と言えばそれまでなのだが。どうも、ルピア以外にも使えるものはいるのだそうだ。

 とはいえ、私が映画やテレビで見た事があるような、魔法使いが呪文を唱えると火が出たり、雷を落とせたり、相手を凍らせたり出来るようなファンタジックで派手なものでは無い。手を翳すといきなり魔方陣が出たりする訳でも無い。呪文の様なものは唱えはするが、古文書を読み上げる形で使うのだそうだ。

「何が出来るのだ?」
「攻撃は出来無いが、守りは得意だ」

 そう言えば先日、ルピアがバリアを張って子供達を守ったと言っていた。その様な事なのだろう。

 最も魔力が強いのが猫族なのだという。次いで蛇族、魚族。犬族、鳥族はほとんど魔力を持たない。身体的に優れている部分が多いため、魔力とは違う方向に進化した故だという。

 各国の王族と言われる者は特に魔法を使うのに長けた一族で、領民を守るために古代の秘術を伝承しているのだそうだ。昔の人は凄かったのだな。

「猫族、魚族の魔導師を総動員して各軍に随行させる。一旦解放された街や村には守りの呪(まじな)いをしてもらう。先日マユカも言っていた、一旦寄生から解放された者、これ以上寄生される者を出さないための方法の一つとしようかと」

 凄いじゃないか。そんな事が出来るならもっと早くにやっていれば良かったのに……と思わなくも無いが、難しい事もあるのだろう。

「魔道師の数は年々減ってきているから。本当は我猫族に次ぐ数の魔導師を有している蛇族の協力が得られれば良かったのだが、向こうの大陸は既にヴァファムの手に墜ちているからな」

「だが、そんなに魔力の強い蛇族が最初に支配されたのは何故だ?」

 素朴な疑問。リシュルを見ればわかるが、身体能力も低く無さそうなのに。

「女王とその側近には魔力など歯がたたないという事だよ。そして強いが故に狙われたのだろう」

 あ、ルピアがちょっと真面目モード。なるほどな、それは言える。女王ってのは一体どんな奴なのだろう。日々卵を産み続けているという、絵面を想像したくもない事を聞いてはいたが……。

「ちなみにセープにいるのは大女王で、役つきや強い者も生む大ボスだ。その下の特級クラスに大女王が産んだ小女王が何人かいて、下っ端はそれらが産んで増やしている」

 はぁ? 女王って一人じゃないのかっ! 何だ、大だの小だの。トイレの話では無いなどというお下品な事は口に出さないがな。

「これだけキリムに侵攻してきている所をみると、小女王は結構近くにいると思う。下っ端の駆除を他に任せたのは、ますは一人でも小女王を倒さねばならないからだ」
「はあ……」


 朝稽古に朝食の後、私達は早々に次の町へ向かった。

 キリム第二の都市、リア。

「これはまた大きな町だな」

 ヨーロッパの古い町という趣だ。

「ここにフレイが言ってた第一司令という奴がいるのだったな」
「ああ、情報によると一つ上の第二階級らしい。ここまで大きな町だ。一緒に第三階級もいるかもしれないから、気合を入れないと」

 一番気合を入れて欲しい奴に言われたくないぞ、ルピア。

「そんなわけで頑張るので魔力の補給をっ」

 タコちゅーみたいな顔をするなっ。

「すごく元気そうなので拒否する。いよいよになったら仕方なくしてやるから、気合で頑張れ」

 では参りましょう。また役場か重要な施設にいるだろう。

「道案内は任せろ」

 グイルはこの町のすぐ近くの村の生まれなのだそうだ。頼もしい。そして心配だろうな、故郷がすでに侵略を受けているというのは。

 町役場、警察署、有線放送の局のいずれかにいると推測を立てた。有線放送があるというのが意外だが、他の村や町に比べて非常に進んでいる感じがする。建築物もほとんどが石やレンガ出来た堅牢そうな物で、集合住宅と思しきやや高層な建物も見られる。道も綺麗に石畳で舗装されていて、街灯もキッチリ整備されている。

 今回は、大きな街なのでまず出来るだけ近くまで馬で行く事にした。重要な施設はほとんど町の中心部にあるとの事。区画毎に警備の者がいるのは同じで、リアル犬のおまわりさん達が波の様に襲って来たが、軽くいなして馬を急がせた。

 随分と来た所で、教会らしき建物の前の広場で皆馬から降りた。

「二手に別れよう。下っ端が襲ってきたら場所を聞き出し、確認できたら合流する。第三階級はともかく、その上となると実力はわかりかねる。無駄に戦って犠牲者を出したくないからな」

 というわけで、今回はグイル、イーア、ミーアをデザール兵、耳かき部隊の三分の二と共に警察署方面へ、私、ゾンゲ、リシュルとメイドちゃん達数名の耳かき隊で町役場へ向かう事にした。上位をひっ捕まえて命令させれば下っ端は言う事を聞くと前回学んだので、無駄な戦闘は極力避けたい。但し、寄生から逃れた者、集められている女子供を見つけた時は保護する事は約束だ。

「よし、ルピア子猫になれ」
「?」

 私が考えた王様を守りつつ、邪魔にならず連れて歩く方法。

「じゃあ、お願い」
「了解しましたぁ」

 ロシアンブルーのメイドちゃんに秘密兵器を出してもらい、肩から掛ける。スリング、用意してもらいましたとも。その中にぽいっと金色子猫ちゃんを放り込む。すっごく可愛いぞぉ、ルピアちゃん。

「まてまてっ、これでは赤ん坊の様じゃないかぁ!」
「私と密着できるのは嬉しくないのか? 寝ててもいいぞ」

 ボスが出てきたら降ろすけどな。

「……マユカ、笑っていいだろうか?」

 リシュルとゾンゲの肩が震えている。私に次ぐ無表情な二人だが、笑えるんだな。

 この先、赤ちゃん抱っこスタイルで私は戦場を駆ける事になった。これでルピアとの距離を考えなくて済む。そして意外に役に立つのだ。


 前もそうだったように、やはり人の姿を見かけない静か過ぎる町の中を黙々と行く。店も営業しておらず、通行人もいない石畳の道は寂しく、綺麗好きのヴァファムが掃除して回ったのであろう、ゴミ一つ落ちていない事ですら、寒々しさを感じた。

 複雑に入り組んだ路地の向こうに一列に並んで行進する人が見えたが、下っ端に寄生されている市民は極力避けて、大通りだけを行く。目指す町役場はもう目の前だ。

 立派な五階以上はありそうな石造りの建物は、西洋の城を思わせた。

「ここにいるかな?」
「さて、中を見てみないとわからない」

 表に耳かき部隊を残し、私達三人プラス一匹は町役場の中に踏み込んだ。


【後書き】
スリングとは、輪になった布に赤ちゃんを入れて運ぶための育児補助グッズ。新生児から入れられるのでちょっと便利。

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まいるどタブレット小説 Ver1.13