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【第1章】五種族の戦士 - 24:もふもふとの遭遇

2014/10/14 15:01

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 見渡す限りの草原に、遥か彼方に霞むのは山脈。

 人が住んでいる気配は感じられず、爽やかな風が吹きぬける。

「この先なのか……」
「あの山脈の麓だよ」

 既に解放された街や村、役つきのいないところはキリムの軍をはじめとする各国からの志願兵に任せ、私達は先を急いだ。

 捕獲した第二階級のユングレアの情報によると、この先の小さな山間の村に女王の一人がいるとの事だった。

 舟が沈みそうな時は、穴を塞がないと水をかき出すだけではやがては沈む。湧き出す水を止めなければやがては溢れる。とにかく、これ以上寄生される者を減らすには、卵を産み続ける女王を何とかしないと一向に前には進まない。

「綺麗な所だな」
「ああ。この辺りはある希少な野生動物の保護区になっているから、市街化はおろか、観光客も滅多に来ない」

 キリム国民であるグイルが説明してくれる。

「野生動物?」
「運が良ければ出会えるよ。とても可愛らしいんだ」

 おお、可愛い! もふもふだったりするんだろうか?

 少し楽しみも出来たので、良い気分で歩く。

 現在、私達は馬で無く歩き。馬の兵達の部隊は二手に別れ、草原の外を回りつつ遠回りで移動。イーア、ミーアがそれぞれ部隊についている。残りの野郎組と私、ルピアの五人だけが真ん中を突っ切っての歩き。

 女王の産んだ幼虫を運ぶ下っ端がいるはずなのだが、何処を通るかわからないためだ。一番出会う確立が高いのが私達が通る近道。馬の大勢の部隊はもし外れた時のための保険。三ルートを押さえておけば迂闊には通れまい。

 それに先に言っていた保護区には、馬を入れられない事になっている。キリム政府から許可は下りているが、出来うる限りは決まりを守らねば。現場に急行するパトカーでない限り、交通ルールを守らねばならないのと同じだ。その喩え合ってるかというツッコミはいらん。

 今は移動中とはいえ、空気もいいし景色も綺麗でほとんどピクニック状態だけど。メイドちゃん達がお弁当も入れてくれたし。

 だが、一つだけ非常に心配な事がある。

「何かなぁ……運び屋には遭いたくない」
「おや、マユカにしては消極的な」

 お腹のスリングからぴょこんと顔を出したルピア。おや、起きたのか。暢気にぐうぐう寝てたのに。

「だって、只でさえ虫苦手なのに、幼虫って……」

 しかも沢山いるんだろう? ああ、考えただけで鳥肌が立つ。うにょうにょしてたりしたらもう……ぎゃ~嫌だ、想像するな私。

「こんなんじゃ無いから安心しろ」

 ぴょこっと出された金色のちっちゃな手のピンクの肉球の上。何かが蠢いている。緑色の……芋虫っ!?

「きゃあああああっ! ルピアっ、ポイしろっ! 今すぐっ!」

 その前にスリングをひっくり返してルピアをぽいしてやったがな。

「肘にくっついてたからとってあげたのに」
「う……!」

 ちょっとくらっとした。

「マユカも女の子らしい所あるんだ。驚いてても顔はかわらないのがちょっと怖いけど、今の悲鳴はかなり可愛かった」

 どういう意味だルピア。そしてしれっとスリングに戻ろうとしない。歩きなさい。足四本もあるんだから。

 ……ふと横を見ると。グイルとゾンゲ、リシュルが無言で張り合うように肩をぶつけ合っている。何、ケンカか?

「なあ何やってるんだ?」
「いや、出来ればマユカの隣を歩きたいと思って」
「なにぃ? 俺がっ」
「いやいや。私が」

 ……コイツ等アホか……。

 そっか、野郎ばかり固めるとこうなるのか。ミーアを置いとけば良かった。華が無い。まあ一応私は女としては見られているのだな。嬉しいのか悲しいのかわからんが。

「ふふん、マユカの横を歩いていいのは僕だけだ。ねー?」

 しれっと人間に戻ってルピアが肩に手を掛けて来たが、さっき芋虫を触ってた手、洗ってないじゃないかっ。

「触るなっ!」

 うん、綺麗に決まったな、袖釣込腰。

「私と並んで歩くとこうなるぞ」

 以後、男共が大人しくなったのは言うまでも無い。

 こうやって私は婚期を逃して来たような気がする。


「さて、お弁当でも食べようか」

 随分歩いて、少し見える山が大きくなって来た頃。綺麗な小川が見えたので、その傍でお昼にしようと休憩。

「おおっサンドだぁ」
「ちゃんと手を洗えよ、ルピア」

 敷物しいて、お茶のポット出して、バスケットを開いて……まるっきりピクニック。たまにはいいか、こういうのも。

 小川の冷たい水で手を洗っていたら、向こう岸からすごい視線を感じた。え? 全員後ろにいるね。

「マ、マユカっ……」

 ルピアの声が少し震えている。

 そーっと顔を上げると、思いきり何かと目が合った。

「……」

 ひくひく。動くピンクのお鼻。

 ぴくぴく。ゆれるひげとお耳。

 うるうるっとした真ん丸の黒いおめめ。

「……グイル、保護動物って……コレ?」
「ああ。運がいいな、こんなに近くに来てくれるなんて」

 おおおっ、もっふもふだ! 確かにすっごい可愛い。だが……。

「でかっ!」

 見上げるほどでっかいウサギさんだった。レアの警察署長位あるぞ。

 私の声に驚いたのか、向きを変えてぴょんぴょん跳んで行った。

「もふもふが行ってしまった」
「臆病な生き物だから」

 ウサギの毛も猫と同じくらい柔らかくていいよなぁ。

 もうちょっと見たかったなぁと思いつつ、トマトのサンドに齧りついていたら、またも視線を感じた。

 後ろにも前にも、気がつくとかなりの数のウサギが。囲まれてる。それぞれデカイのでものすごい圧迫感。

 怖がらせてはいけないので、皆気付かないフリをしてお弁当を食べているが……。

「見てるなぁ」
「何か壁に囲まれてるようで……」
「喉が詰まりそう」

 草食動物は見る。思いっきり見る。何もして来ず見る。

 何だかんだで、肉食獣ばかりだからな、この一団。

 食べ終わり、よっこらしょと立ち上がると、巨大ウサギ達はびくっとしてぴょんぴょん行ってしまう。

「何なんだ」

 だが、よく見ると一匹だけ逃げないのがいる。

「どうした? 怖くて動けんのか? どっか怪我でもしてる?」

 ルピアが近寄っても、びくっとはするが逃げない。

「どこも怪我してる様子も無いが。可愛いな、お前」

「もふもふしてもいいかな?」

 見ただけでグレーでつやつやした毛は、柔らかそうだ。さ、触りたい。

 そーっと近寄ると、目を閉じてふるふるしてるが、逃げないので思い切って撫でてみた。

 うおおっ、この手触り! たまらん気持ちよさ! 子猫にも劣らんぞ。

 撫でていると、すこし気を許してくれたのか、鼻をすり寄せてきた。ううっ、デカイがすっごい可愛い。

「うふふふふ~。いい子だ~。もっふもふ。ウサギも良いなぁ」
「マユカ、それ、嬉しいのか?」
「すごく嬉しいのだが。超可愛いではないか!」
「顔が全く嬉しそうじゃない……」

 放っておけ。もう形状記憶合金の様になっているのだ、私の顔は。

『お姉さん、お母さん助けて』

 突然、頭に声が響いた。

 え~と? 誰?

『お母さん、虫に捕まった』

「お前が喋ってるのか?」

 ウサギに訊いてみたら、頷くように瞬いた。

「虫って……ヴァファムの事かな? この子のお母さんが捕まったから助けてと言っているが」
「人間以外を? ヴァファムが?」

 これは何か事件な予感がするぞ。

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