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ゆっくり、ずっと△

2014/11/03 09:49

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 エリオさんが拗ねている。
 仮面をつけているけどご機嫌が悪いのが伝わってくる。最近ずっと傍にいるからわかるようになったのだが、エリオさんは怒ってる時は右肩がぴくぴくするのだ。
 勝手にせっかく倒した魔族を復活させちゃったからだろうか? それとも今、イケメン達に囲まれているからだろうか。しかも皆自分の事を棚にあげてエリオさんを不細工だと言ったからだろうか。全部かもしれないけど。
「ユマ様と申されるのですか」
「ああ、なんとお美しいお方……」
「僕の女神様……」
 隣の部屋に閉じ込められていた、近隣の村から連れて来られていた男の人達を助け出したのだが……うん、エリオさんには遠く及ばないが、確かに皆さん若くて綺麗な人ばっかりで。醜男ですかこれは。どこのアイドルグループですかという感じだね。確かにこういう線の細いのが好みなのなら、同じ美形でもタイラさんはちょっとワイルドすぎたんだろうな。
 女魔王、贅沢にも程があるぞ! あー、まあこの人達はこの世界でいう所のどうしようも無い不細工さん達なのだが、私からしてみたら福眼だ。いい男がいっぱい~。
 いやっでも! やっぱりエリオさんが一番素敵だと思う。強いて言うならトップスターとそのバックダンサーくらいの違いだ。どうでもいいけど。
「あのぉ頑張ったのは私でなくエリオさんなんで」
 それでもイケメンズはエリオさんを一切見ずに私から離れようとしないので、いい加減抱っこしていたデデルちゃんがむずがりはじめた。
「ふええぇ……」
 エリオさんもぷいっとむこうを向いちゃったし。
 とにかくこの屋敷を出よう。あの甘い匂いはこの人達が暴れないように大人しくさせるための香だったらしく、部屋に入った瞬間にどぉっと力が抜けるのを感じた。私達が早々に戦えなかったのも、僅かながら影響を受けていたのかもしれない。
 エリオさんはすでに部屋を出て行こうとしていた。
「ユマぁ、私達でチビ見てるから、エリオ構ってやんなよ」
 リオちゃんがポケットから顔を覗かせてこっそり言った。そうだよね、なんか魔族とは言え赤ちゃんをポケットに入れていいのかとも思わなくも無いが、ライちゃんやリオちゃん、精霊さんも快適だと言ってるくらいだからいいんだろうな。自分でも中はどうなってんのかわかんないけど、精霊さんは女の人だし子守くらいしてくれそうだ。
 そんなわけでデデルちゃんをポケットに入れてみた。ひょっとしなくても私達のパーティ、これで全種族コンプリートでは無いだろうか。まあこれもどうでもいいっちゃ、いいんだけども。
 ぽかーんとポケットに赤ん坊を入れた私を呆けたように見ていたイケメンズについて来てとだけ言い残して、慌ててエリオさんを追う。
「エリオさん、なんか……色々ゴメンね」
「なぜユマ様が謝るんですか」
「だって、エリオさん怒ってるもん」
「怒ってなんかいません」
 うそ。肩がぷるぷるしてるもん。こっち向いてくれないもん。仮面つけたまんまだもん。
 そーっと腕を伸ばして、横から仮面を取ってみた。
「な、何を……」
 慌てて目元を隠しながらコッチを向いたエリオさん。気持ち耳が赤い。
「隠さないでよ。エリオさんの顔見たいの」
「こ、これから外に出ますし、その……」
「もう村の人も顔見てるじゃ無い。タイラさんみたいに堂々としてればいいの」
「でも……」
 眉間に皺よってるよ? 面白くなかったんだね。ゴメンね、不快な思いをさせて。
「誰がなんと言おうと、エリオさんが私にとって一番素敵だって本気で思ってるのは間違いないです。だから笑って」
 そう言うと、やっとはにかんだように微かに微笑んでくれた。
 ああ、やっぱり綺麗だ。それにほっとする。
 私も大概、大胆な事を言うようになったものだなぁと自分でもやや呆れる。

「ユマ様―! ご無事でしたか!」
 村長の館を出ると、タイラさんが走って来た。他にも村の人も一緒だ。
「もう大丈夫。それに捕まってた他の村の男の人達も無事だよ」
 そう言うと、タイラさん達は目を丸くした。
「あの魔族は?」
「エリオさんが倒したよ」
「えええっ! すごい! 顔に似合わず本当に凄い剣士だったんだ」
 タイラさん……素直に言いすぎですよ。なんかもう慣れちゃったけど。
「……ほとんどユマ様の魔法だ。殺してはいないが、もう悪さは出来ん」
 怒らないんだね、エリオさんも。もう諦めちゃったのかな。
 それから、ポケットからデデルちゃんを出して、皆さんにお見せしてみた。
「幾ら魔族で、村を無茶苦茶にしたといっても、誰も殺したわけでも無いし、魔王に命令されてたので、赤ちゃんにしてみました」
 一同ぽかーん。
「きっと今度はいい子になれると思うから、許してあげてね」
「だぅ」
 さすがに、赤ん坊相手にキレる人達もいないようで。
 村の女の人がミルクとオムツを持ってきてくれた。
 優しい人達でよかったね、デデルちゃん。

 精霊さんが頑張って村に癒しの水の雨を降らせてくれて、村の人達はすっかり元気になり、もう魔族に怯える事もなくなったからか早々に壊れた家の再建に取り掛かった。
 タイラさんに酷いことを言っていた村の人達も、私達をここに連れてきた彼の功績を認めて口々に謝罪してくれた。別にタイラさんの事を嫌いだというわけでもなく、差し出さないと自分達の命がかかっていたのだから仕方が無い。
「オレは別に気にしちゃいないから」
 笑って済ましちゃうタイラさんは真っ直ぐでいい男だと思う。またエリオさんが目頭を押さえている。
 近隣の村の若者たちも礼を言いながら帰っていく中、色々あってくたくたになった私達は、唯一破壊されずに残された村長の家に泊めてもらった。
 同じ部屋に別々のベッドに入っても、なんか思いきり裸見て見られてを思い出して恥ずかしさで眠れないかと思ってたが、結構魔力も使ったし、エリオさんも疲れてたのか、あっという間に寝ちゃった私達ってたいしたもんだと思う。

「ユマ様、ほんっとーにお気をつけて。おい、剣士、ユマ様を危ない目に遭わせたり泣かすような事をするんじゃねぇぞ。まあその顔で浮気は心配ないけどな」
 最後までタイラさんの口調は健在だった。
「馬鹿者。俺はユマ様ただ一人に誓いをたてたのだ。言われるまでも無い」
 ……照れ屋さんのくせに、しれっとものすごい事言ってますけど、きっとエリオさんは気がついて無いだろうな。ひゅーっと周りで村人さん達が囃してますけども。
「オレももっと頑張ってみるよ。また会えるといいな」
「ああ。元気でな」
 エリオさんとタイラさんが握手してる。うんうん、なんか最初はケンカしてたから心配したけど、どっちもいい人だもの。よかったね。

 そしてまた二人っきり……ポケットの中には、いっぱい仲間がいるんだけど……私達は草原の中、旅に戻る。
 しばらく無言で定位置で馬に揺られてた。私が前でエリオさんが後ろで手綱を持って。これがすっかり落ち着くポジションになってる自分に気がついた。後ろから伸びてくるエリオさんの手と背中に人がいる温かさ。
 ……落ち着くな、なんか。
「あ、あの、ユマ様?」
 突然エリオさんが声を掛けて来た。随分思い詰めたような声で。
「何ですかエリオさん?」
「……良かったんですか、これで」
「え? どういうこと?」
「もしかしたらもっと早くに魔族の国に行けたかもしれないのに……結局また遠回りの旅に戻ってしまいましたけど。妖精が止めたのも、他の村の男達を助けると言うのもありましたけど……俺は別に良かったのに」
 うーん、そうよね。でもね、エリオさんが女だっていう魔王にエッチな目的で差し出されるってのが嫌だったっていうのは言えないし……それより。
「やっぱりエリオさんともっと旅してたいから……ゆっくり、ずっと一緒に居たいです」
 思い切って言うと、馬の手綱を持ってたエリオさんの手が片方、私の肩に乗って、わけもなく胸がドキドキした。
「……俺もです」
 そしてその手は抱きしめるように私の首元に回った。
 初めてだね。自分から抱きしめてくれたのは。すごくすごく手が震えてるけど、温かくて嬉しかった。
 ずっと、こうしてて欲しい。
 不細工で、誰にも相手にされなくて、寂しかった私に幾ら価値観が違うと言ってもこうして優しくしてくれるエリオさん。
 本当に好きかもしれない。もうこの人しか考えられない。いつか別れが来るとしても、今だけはこのまま……。
 とか、乙女モードに入りかけていた私を、直後にポケットから聞えた赤ん坊の泣き声が現実に引き戻した。
 あー、そうだった。何にもして無いのに、私達パパとママになっちゃったんだった。

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まいるどタブレット小説 Ver1.13