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これは酷い△

2014/11/03 09:44

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 タイラさんの村に着いた。
 お風呂も入ったし、ライちゃんの背中が思いの外ふかふかで温かくて気持ち良かったため、ほんの少し眠くなって来た頃だった。
 上空から見ても村は結構悲惨な事になっていた。う~ん、これは酷いわ。ほとんど廃墟じゃない。
 とにかくデカイ魔獣と羽根の生えた馬は怪しすぎるので、少し離れた所に降りる。まあしっかし、カッコいい男が二人ペガサスに乗ってるなんてすっごい絵になるわ。何故かエリオさんは怒っているようだけど。
「どうしたの? タイラさんとケンカでもした? 顔が怒ってる」
「何でもありません」
 エリオさんは表情を隠すように慌てていつもの仮面をつけた。私も慌てて魔女っ子お面を被る。
「ユマ様まで顔をお隠しにならなくても良いのに……」
 タイラさんが言ったが、あまり見られたく無いのだ。幾ら美的感覚は違うとはいえ、まだ自分的には自信が無いわけで。エリオさんは違う解釈をしている様だが。
「ユマ様のお美しい顔をそうそう人に見せるのは勿体無いのだ」
「ああ、成程。美し過ぎて心臓に悪いからな。村人は弱ってるし。あんたは真逆の意味で心臓に悪いが」
「……本当に腹が立つ男だ」
 エリオさんはこれに怒ってたのか。うん、タイラさんは口が悪い。エリオさんに比べたら随分落ちるけど、自分だって似た様なもんなのにね。薔薇とチューリップくらいの違いだよ。どっちも綺麗だけどタイプが違うだけ。でもなんか割り切ってるというか、タイラさんは見てていっそ潔いかもしれない。
「いっそエリオさんもタイラさんくらい開き直っちゃえば楽かもよ?」
「たぶん、奴は鏡を見たことがないんですよ」
 ……かもしれない。
 ご機嫌悪そうなので、ちょっと勇気を出してエリオさんと手を繋いでみた。
「ユ、ユマ様?」
「えへへ。確かに素顔のエリオさんは心臓に悪いかも。素敵すぎてドキドキする。今隠れてるからこうやって手を繋げる」
「……」
 顔は見えないが、耳がちょっと赤くなってる。ご機嫌はなおったみたいだ。自分でも大胆な事をしたなと思うけど、お面つけてるから出来るんだよね。この手の感触にホントにドキドキするんだよ。
「ふんっ」
 タイラさんの声が聞こえた。
 手を繋いだまま、タイラさんの後をついて村に入る。魔獣の侵入を防ぐためだという低い柵に囲まれた村の中は、家の屋根が壊れてたり、焼け落ちたみたいになってて、上空から見たよりも更に酷いものだった。よく死人が出なかったものだと感心する。
「奥に魔族がいるわよ。なんかビシビシ感じる」
 ポケットからリオちゃんが小さく呟いた。
 村の中央付近に来た時、村の人達が何処からとも無くわらわら出て来た。
「タイラが生きて帰ってきたぞ!」
「遅かったじゃねぇか」
「早ようデデル様のところに行って出て行かんか」
 口々にタイラさんに向かって声がかかったが、何か命懸けで崖を登って癒しの水をとって来た人を迎える雰囲気じゃないな。
 ちょっとムカつくかも。でもタイラさんはニコニコとご機嫌だ。この人、神経太いんだな。ある意味感動すら覚えるわ。
「この村を助けてくれるというすごい人達を連れてきたぞ」
「何寝ぼけた事を言うとる。この村で一番醜いお前が大人しく連れて行かれさえすれば、さっさと魔族は出て行ってくれたんじゃ。誰が水を汲んで来いと言った。時間稼ぎだろうか」
「そうじゃ。さっさと行きやがれ」
 う~ん。なんだろうか、この殺伐とした雰囲気は。
「だがオレではいま一つと言われたじゃないか。そこで、オレよりも更に醜い男に来てもらった。きっと気に入ってもらえるはずだ」
「全く、自分の命が惜しいからと人様に迷惑かけるなんざ、見た目だけで無く中身まで腐っとるのか」
 ……これは酷いわ。村がこんな事になって気の毒だとは思うけど、いくらなんでもタイラさんが可哀想じゃないの。あの崖を登るのは命懸けだったと思う。本気で村の人を心配していたのにこんなの!
「お前、ちょっとこちらへ来い」
 私が飛び出す前に、エリオさんがタイラさんに手招きした。
「あまり言いたくは無いのだが、お前、村の人に嫌われてる?」
「……まあこの顔だからな。そこの所はあんたにだってわかるだろ?」
「自覚はあるんだな。ならいい。だがあそこまで酷い扱いを受けてまで、なぜ村人を助けなきゃならない?」
 エリオさんの言うとおりだ。放っておいてもいいんじゃない?
「病気のおふくろが世話になってるし、何だかんだでこの村で育ったし……こんな顔でも自信を持って生きなきゃ産んでくれた親に対して失礼じゃないか。だから我慢できる」
「……」
 ううう、ええ人や~! この人、本当に馬鹿な程いい人なんだ。
「くうっ!」
 エリオさん、仮面から水がぽたぽた落ちてますっ。ちょっと怖いです。この人涙腺緩いもんなぁ。
「よし、わかった! 俺が代わりに魔族の所に行こうじゃないか」
「ちょっとっ! エリオさん、それはあんまりな」
 ここにもいましたよ、馬鹿なほどお人よしの人がっ! でもそれは困る、困りますよ?
「勿論連れて行かれる気は無い。要はその攻めてきた魔族を倒せば良いのだろう。何故不細工な男を攫う必要があるのかも知りたいし、近づいてから戦えばいい」
「あー、そういう事ですか」
 ちょっとホッとした。
「って、ユマ、ホッとしてる場合じゃないよ? どれだけのが来てるかまだわかんないけど、余程の下っ端じゃなきゃ精霊よりも魔獣よりも強いのよ? そう簡単に勝てるの?」
 またもポケットからリオちゃんが言った。この中で一番詳しいのがこの子だ。でも何だかわからないが根拠の無い自信があるのだ、私には。
「んー、何か勝てそうな気がする。だって、どうせ魔王倒しに行かなきゃいけないんでしょ? ここは予習を兼ねて? 癒しの泉で今絶好調だし、魔法も使えそうだし。エリオさんも強いし?」
「ま、まあ。あんたの魔法はすごいけどさ……」
 私達で話してるのが面白くなかったのか、村の人達がイライラしたようにこちらに来た。
「だから早く……」
 タイラさんの肩に手を置いた村のおじさんの手を、エリオさんが掴んだ。
「な、何だ?」
「俺が代わりに行く。だから命懸けで崖を登って癒しの泉の水を持ってこようとしたタイラに謝ってもらおうか」
「あんた達は?」
 そういえば自己紹介もしてなかった。せえのでエリオさんとお面を外す。
 ひっ、という声が聞こえた。何人かはふらっと膝をついたものもいる。
「ルドラの神殿の美巫女様より黒魔王討伐を命じられた、神聖の魔女ユマ様と供の剣士だ。どうだ、この顔なら文句はあるまい?」
 うーん、どこぞの印籠を見せるご老公様一行みたいだね。お面とっただけなんだけど、キメ台詞っぽくてなんかカッコイイよエリオさんっ。
「案内してもらおうか魔族のところへ」
「は、はいいいっ!」

 魔族ってどんなのかな? ちょっと怖いけどワクワク?

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まいるどタブレット小説 Ver1.13