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男の事情▼

2014/11/03 09:41

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 ユマ様と一緒に風呂……!
「うん。一緒に入ろう。大丈夫見ないから」
 いえ、見ないと仰られても。そう言う問題ではございません。
「ぬ、脱ぐんですか?」
「お風呂は裸でしょう? 見ないってば。なんなら水着着る?」
 水着とは如何なる物かはわからぬのだが、とりあえず裸でないのならば良いか。一度に入ってしまえばどちらかを待つ時間も無いので、この後湯冷めするまでに街に行けるという意見も頷ける。
 昨日は熱でかなり汗をかいたので、すっきりしたいとは思う。
「気持ちいいよ! 早くおいでよ二人とも」
 妖精と魔獣は長閑に先に湯の中でちゃぷちゃぷいわせて遊んでいる。
 二人っきりでは無いし良いか。
「えーと、水着になあれ~」
 ユマ様が詠唱なさると、着ていた服がばらんと脱げ、下着の様な姿になった。あ、いや、何ですかコレは!
「……あれぇ、ゴメン。何故かスクール水着になっちゃった」
 カレシいるわけでもないから海とか行かなかったし、学校のプールの記憶しか~となどと意味不明の事を仰ったが、紺色の伸縮する不思議な布で出来た体にぴたりと沿うこの格好の淫らな事! まさに大事な部分を隠しただけのようなこれが水着なる物なのか。
 滑らかなユマ様の体の曲線が露にっ! な、なんという夢のような絶景……いやいやっ! 見てはならんっ。
 それに俺……あまり反応するとこのピッタリした履物では、至らぬ物をお見せしてしまうかもしれない。こうなったら早々に湯の中へ入ってしまわねば。盛り上がってしまう前に!
「では癒しの泉とやらに浸かってみましょう」
 なるべく平静を装う。頑張れ俺の何か。
「おい、我は放置か?」
 水の精霊が石のままで何か言っているが、ああ、放置だ。それどころでは無いのだ、今はっ。
「はぁ~! すっごい気持ちいい」
 ゆっくり湯に浸かられたユマ様が、幸せそうに息を点かれた。少し離れて入ろうと滝になっている所から遠くに腰を下ろそうとして、飛び上がった。
「あっつぅ!」
 うう、ここは泉の湧き出し口だったか。
「火傷したら大変だからもっとコッチに来てよ、エリオさん」
「は、はあ」
 癒されるどころか疲れそうだ……。
 ユ、ユマ様と腕が触れる。つるんとした肌触りに胸がドキドキする。
「細身だけど割とムキっとしてるね、エリオさん。私なんかへにょへにょ」
「女性は筋肉など無くても良いと思います」
 そう。あの抱きしめた時の、ふわふわでくにゃんとした感じが良いのだ。他の女性など触ったことも無いから偉そうな事は言えないが……っておい! 馬鹿っ、考えてはいかんっ。
「うひゃっ!」
 すうっと肩にユマ様の手が滑り、思わず変な声を上げてしまった。
「色白いよね。それにスベスベ」
「そ、そそそそんな事無いです! ユマ様の方が綺麗な肌でっ」
 マトモに喋れない。
「うがうぁうぅ?」
「むふふふふ」
 な、何だチビ共。ナゼそんなにニヤッとした顔で見ておるのだ。
「やだなぁ、ライちゃんったら、エッチ」
 何を言ったのだ魔獣っ? ユマ様なぜ照れていらっしゃる? そして裸で俺に乗るな妖精。何か小さなモロモロが当たって気持ち悪い。
 髪が濡れて肩に張り付いてるのが何とも言えない。頬が赤みを帯びているのも色っぽくて……見てはいけないと思いつつどうしても見てしまう。それに、俺のほうが座っても背が高いから、どうしても上から覗き込む事になってしまうので、流石に谷間は見えないがその、胸の形とか、ほんの僅かだけ湯から出ている膝とかがああああっ。
 これはいかん。昨日寝込んでたくせに、どこぞやは大変元気だ。癒しの泉とは言うが、これを鎮めてはくれんのだろうか?
「背中流してあげようか?」
「いえ、結構です。触らないでください」
 い、今触られるととんでもない事になりかねない! 察して下さいユマ様。経験が無いとはいえ、知識としては知っております。一応体は健康ですので、ちゃんと反応も示します。男は外からでも体の変化が見えるものなのです。そして、そろそろ大変なのです!
「……ゴメン」
 あれ? なぜか少し離れて悲しげに顔を伏せてしまわれた。
「やっぱりホントは嫌だよね、私なんかに触られたら。気をつけるね」
「そっ、そう言う意味では無くて! むしろ逆っ!」
 な、何を言ってるんだ俺! 意味がわからんではないか。
「ユマ、男心察してやんなよ。このお兄さんもさぁ、かなり奥手みたいだけどちゃんと男だから。ユマにそんな体の線丸出しの格好で密着されて大丈夫なワケないじゃない。息子さんが大変になっちゃうのよぉ」
 妖精、言いたい放題言ってくれるな。その通りなのが悔しいがな。やはり半分でも男の部分があるからかよくわかってるな。
「息子さんが大変?」
「……真顔で訊かないでください」
 そうか。ユマ様は男と手を繋いだのも、口づけするのも初めてだと仰っていた、清らかな乙女なのだ。ひょっとしたら男というものを全くご存知無いのかも。だったら余計にこの様な物お見せするわけには。
「息子さんっていうのは、お股についてるこれ……ごぼっ」
 妖精が空中でユマ様に自分の物を見せようとしたので、思わず湯の中に叩き落とした。俺、今の動きは早かったと思う。
 ごぼごぼ言いながら妖精が沈んでもがいて浮かんできた。
「ちょっとっ! 溺れるかと思ったじゃないのよ」
「清らかなユマ様の目にそのような貧相なモノをお見せするな」
「貧相って何よっ。そう言うからには随分とご立派な物をお持ちなのでしょうねぇ。見せてみなさいよっ」
 馬鹿者っ、そんなもの見せられるかっ!
 ほれみろ。ユマ様がきょとんと首を傾げておいでではないか。
「ユマが何にも知らないのはわかった。あんたも慣れちゃいないのもね。でもさぁ、本当に好きなら、いつかは抱き合ったりするんじゃないの? どっちも若いんだしさ。だったら知識も必要だと思うのよね。あたしってさ、名前でわかると思うけど愛の妖精だから」
「だっ、抱き……っ」
 ええええ? 何を言っておるのだ、このエロ妖精!
 ユマ様と、俺が? いつかそういう仲になると……?
 だが、ユマ様はそこでは無い所にひっかかられたみたいだ。
「へえ、愛の妖精なんだ、リオちゃん」
「うん。リオっていうのはね、妖精の言葉で『愛を説く』って意味なのよ。このお兄さんの名前と似てるって言ってたよね。『エ』は一人をって意味だから、このお兄さんのエリオって名前は『ただ一人に愛を説く者』って意味なの。きっと名付けした人が妖精の言葉に詳しい人だったのね。きっと見た目が人間で無く妖精に似てたからじゃない?」
 そうなのか。俺って、自分の名前に興味無かったけど……そんな意味だったんだ。生まれた子の顔を見て、早々に見切りを付けた両親にかわって名前をつけてくれたのは祖父だ。若い頃先代の巫女様にお仕えしていたという神官だった人。妖精に詳しくてもおかしくは無い。唯一分け隔てなく俺を可愛がってくれた肉親。だが早くに祖父が死んでからは地獄のようだった。
 ただ一人に愛を説く。まるで俺が神殿に選ばれ、こうして神聖の魔女に誓いを立てる事を見越していたように、この名をつけてくれたのか?
「素敵な名前なのねぇ、エリオさんもリオちゃんも」
「ユマって名前は意味あるの?」
 よし妖精。そのまま先程の息子の話から違う方向へ持って行け。
「ん? 由真の由という字は、もののいわれ、そこから出てくるという意味。真は本当のってこと。でもお母さんの由美子とお父さんの真二から一文字ずつもらっただけの深い意味は無い名前なのよ」
 本当のもののいわれ。奥が深いまさにその通りという名前ではないか。
「深い意味の無い名前なんて無いのよ、ユマ」
 なんだか、少し妖精を見直したぞ。そして名前が似ているのもそういう意味があるのならば嬉しい事ではないか。
 少し気がそれたので、男の事情の下半身は目撃されずに済みそうだが……どうでもいいが、そろそろぼうっとしてきたのだが?
「おーい、我もそろそろ浸けて欲しいのだが……」
 おお、そういえばあの女の姿の精霊を忘れていたな。
「そろそろ上がりましょうか。のぼせちゃうといけないから。精霊さんも戻してあげないといけないし」
「そうですね」
 ユマ様と意見が一致したので、立ち上がったその時だった。
「おおっ? なんだ先客がいるのか?」
 崖のほうから人の声がした。

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まいるどタブレット小説 Ver1.13