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お父さんじゃない▼

2014/11/03 09:49

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「あはははは! もう可笑しすぎてお腹が痛いよぉ。ぷくくっ」
 くそーっ、そこまで笑わなくてもいいじゃないか。妖精め。腹を抱えて転げまわってやがる。しかも精霊や魔獣まで笑ってるだろ? 表情は今一つわからんが目が笑っているからな。
「エリオさん、流石に見ただけでは子供は出来ませんよ?」
 俺でもそんな事は知ってますよ! ユマ様までなんですか。
「あぶぅ、ぶぅ。ちゃん?」
 ……そう、全てはユマ様が抱いている赤子のせいなのだ。

 何だかんだで本当に酷い目にあって、ユマ様の魔法で脱出し、精霊や魔獣の力を借りてデデルを倒したが、緊張が途切れた瞬間、あった事をいろいろ思い出した。
 吊り下げられ、恥ずかしい格好をさせられた。全部脱がされた。ユマ様に無様な姿を見られた。
 それだけでも死にたい位だったのに。あろうことかユマ様までっ!
 目の前で目に涙を溜め、真っ赤になって素肌を、全てを曝け出されたユマ様の姿は……うああ、思い出したら……もう、もう……。
 ぷつん。
 刺激が許容範囲をこえてしまったので、情け無いことに気を失ってしまったらしい。男の事情が暴走しなかったのと……その辺は若干不安はあるが……鼻血を出さなかっただけ良かったと思う。
 どのくらい気を失っていただろうか。
 目を開けるとそこには顔があった。
「あうぃ!」
「……」
 なぜ目の前に赤子がいるのだろうか。若干見た事のある顔をしている気がするが、こんな子は知らんぞ?
「お利口。お父さん大丈夫って言ってるのねぇ」
「うぷぅ」
「……」
 お父さん?
「おめでとう、エリオ。お父さんになったねぇ」
「…………」
 うん。まだ目が覚めていないようだ。どんな夢だこれは。もう一度目を閉じてみた。そして開けるときっと普通にユマ様が……。
「きゃい」
 やっぱりいるし!
「……何故?」
 身を起すと、まだあのデデルのいた部屋だった。
 銀色の髪で色白の赤子を抱いたユマ様が機嫌よく笑っておいでだ。妖精や精霊、魔獣もポケットから出たままだ。なぜか非常に和やかな雰囲気だ。
「俺は長く寝ていたのでしょうか?」
「そんなには。もう大丈夫なの? どこか痛い? 痛いの痛いのする?」
 ああ、前にやってくださった治癒の魔法ですか。少し無理やり引っ張れていた股関節が痛いといえば痛いですが、こんな所を撫でていただくわけにはいかないので遠慮しておきます。というか、撫でられたらもう一度気を失うことでしょう。
「ええと、その赤子は……」
「可愛いでしょ?」
「あうぃ!」
 ……答えにはなっておりませんが?
 さっき妖精が俺の子だとか言いやがったし、あれだけの魔法を使われるお方だ。ひょっとしなくてもユマ様が……。
「産んだんですか?」
 ……で、冒頭に戻る。

「冗談だよぉ。もう。わかるでしょうが」
 妖精はとりあえず鷲づかみにしてやった。
「で? この赤子は何なんですか?」
「デデルちゃんだよ~」
「!」
 な、なんですと!? 奴は消滅したのでは……。
「精霊は核を消滅させないと死なないのと同じで、魔族も寿命で死ぬ以外は灰になった状態でも生きてるんだって。で、灰を集めてちょこっと魔力を与えてあげたら再生したの」
「何故助けたんですか?」
「だってさぁ、幾ら村を襲ったり人を攫ったり酷い奴だったとは言え、一人の村人も殺したわけでも無いし、魔王に命令されてやってたんでしょ? 魔族だったって可哀想だなぁと思って」
 ……本気で殺してやろうと思っておりましたが? 俺やユマ様にあんな恥ずかしいことを……って思い出すな俺!
「赤ちゃんからやり直したらきっといい子になると思うの。ね~?」
「あうぃ!」
 ああ、しかしなんてお優しいのだろうか、ユマ様は。罪を憎んで人を憎まずという事ですかっ!
 まあそれは良いとして。
「で? どうなさるんです、赤子にしてしまって」
「どうって。放っておいたら可哀想だし、魔族の国に戻してあげないといけないと思うのよ。それまで私とエリオさんで育てるのは駄目?」
 駄目? ってそんな首を傾げられてもですね。
「いいじゃん。もう悪さも出来無いしさ。本番に備えて今から育児を練習しておくのもいいんじゃないの二人とも」
 おい妖精! 本番ってなんだ! そ、そ、それはもしかして俺とユマ様の子がとか言うんじゃ……ええと、子供をつくるにはだな、その前にそれなりの手順が……。
「ぶぷぅ。あうぅい」
 ぺちぺち。ちいさな手が俺の手の甲を叩いている。そんなぷくぷくの手で叩かれても痛くは無いけど……何だろうか、心が痛いと言うか。
「まあ、お二人の邪魔をしないように、アタシらも協力するから」
「がう」
「やだリオちゃんもライちゃんも。お邪魔って」
 俺を置き去りになぜか盛り上がっている面々。むぅ。小さい子は嫌いでは無いのだがあの魔族だというのが……ほらっ! さり気無くユマ様のち、乳を触っておるではないか!
「うーん、ごめんね。おっぱいは出ないわねぇ」

 ……ユマ様。俺、ちょっと泣きたい気分なんですが。

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まいるどタブレット小説 Ver1.13