見ましたねエリオさん△
2014/11/03 09:24
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何が何だかさっぱりわからないまま、妖精さんを追いかけてきたという精霊と戦う事になってしまった。
私は小さいものが好き。
この妖精のリオちゃんは小さくて可愛い。それに助けてって言ってる。
水の精霊だという水色の女の人は、人間を馬鹿にしているのか、上から目線の偉そうな物言いだが、凄い美人さんだ。
エリオさんが妖精さんを追いかけてきた理由を尋ねると、精霊はふふんと馬鹿にする様な顔で、しれっと言い放った。
「その者は魔王様のお顔を見たからだ」
あ、何か今ムカっと来たかも。
「何よ、それ? 魔王の顔見ただけで追いかけるの?」
「追うだけでは無い。始末する」
ぷつーん。
私、自分でいうのも何だけど、結構心が広い方だと思うのよ。でも今のはキレたね。うん、超腹が立ったよ。
顔を見ただけで相手殺すんなら、私は今頃大量殺人の犯人だぞ。酷い言葉も散々浴びせられて、手を出しそうになった事だってある。でも我慢してきたっていうのに。いや、顔を見せる事そのものが相手にダメージを与えるとまで言われていたが。
……ダメだ、ちょっと思考がズレてきた。
私が精霊に言い返す前に、エリオさんが剣を構えて立ちはだかった。
「そんな理不尽な理由で始末されるなど許せぬ。助けを求めるものを渡せるものか」
きゃー! カッコいい! 正義のヒーローのようですエリオさん!
そいでもって、精霊が魔法なのかな? 水の柱というか竜? を出して襲ってきたけど、それをキラッキラの金の髪を靡かせて剣で真っ二つに斬っちゃう姿も素敵すぎます! しばらくオカズ無しで御飯食べられそうですよっ!
とか暢気な事を考えてたら、斬られた水の竜が二匹に増えて、片っ方は私の方へ。
「お姉さん、怖いよ!」
ポケットから顔を出してたリオちゃんが震えながら引っ込んだ。
えーと、魔法で何か出そう。
「水……傘かな?」
自分の思考の残念さには呆れるが、咄嗟に傘を翳すと案外防げた。暴風雨の中で差してるみたいなもんだから、ヨロヨロになるわ傘は曲がるわだったけど。
こっちを心配して走って来てくれたエリオさんの後ろにもう一匹が!
エリオさんは慌てて斬ったが、また数が増えた。
うーん、何かこれって嫌な攻撃だよね。この精霊、女だけあってねちっこいんじゃない? 美人ってわりと粘着質の人多かったな、大学でも。
「面白い事をするな、女。魔法使いか?」
「魔女みたいです。一応」
マトモな魔法は使えませんが。物を出し入れするくらいしか。
魔王の配下だという精霊は、あまり妖精や精霊を敵に回したくないと思ってる私達に、容赦なく襲ってくる。夕方になったらぐっと気温の下がるこの辺り。濡れるとかなり冷えそうだ。
「濡れたくないよ~」
思わず溢した言葉はまた魔法になった。わーい、バリアみたいなので覆えたぞ。スゴイじゃん私。でも、さっき傘を出して疲れてる。どうもこのバリアは薄いみたいだ。すぐに破られそう。
そこで、エリオさんがライちゃんを大きく出来無いかと尋ねてきた。
「水には火属性が効くでしょう。奴の火炎なら何とかなるかも」
それは良い考えだと思う。というわけで、お願いします、ライちゃん。
「ライちゃん、やっちゃって!」
「がう」
ライちゃんの火炎は水の竜を蒸発させ、精霊を脅かしたけど、これはどうも精霊本体を何とかしないと何度でも襲って来そうだ。でも精霊さんも使われてるだけだから斬るのも可哀想な気もするんだよね。
「不細工な魔女共々波に飲み込んでくれる!」
精霊の声とともに、ざあっとものすごい波が来た。
「俺の……俺のユマ様を不細工などと言うなっ!!」
斬ったね。思いっきり本体ぶった切ったよね?
精霊と大きな波は消え、大雨の様にざぁっと水が降り注いだ。
そしてころんと一つ青い石みたいなのが足元に。
「殺すつもりは無かったのだが」
エリオさんはちょっと悲しそう。
でもリオちゃんが、精霊はこの石みたいな核を砕かないと死なないと言った。今は力を使い果たして眠ってるだけだって。良かった。
「じゃあ、精霊さんも連れて行っちゃおう」
水の精霊ゲットだぜー! とか叫んでみたかったけど、それどころでなかった。
「お姉さん、服乾かさないと風邪ひいちゃうよ?」
リオちゃんに言われて、気がつくと本当にびしょ濡れだった。
「エリオさんも濡れちゃったね」
何故かエリオさんが私の方を見た途端ばったり倒れた。
どうしたの?! 疲れたの?
「エ、エリオさん?」
慌てて抱き起こして膝に頭を乗せると、うっすら目を開けた。
「ううっ!」
思いきり目を開けたと思ったらまた気を失ってしまった。どうしたんだろう、顔が真っ赤なんだけど? 早くも熱が?
あまり道のど真ん中に放置しておくのも可哀想なので、せめて草の上にと思ったが、エリオさんは細身だが流石に男の人だけあって重い。
何とか引きずって草の上に寝かしたけど、びしょ濡れだね。風邪ひいちゃうといけないよね。
「がぁうあ?」
ライちゃんが火で乾かしてやろうかと言ってくれたが、加減を間違えると黒コゲになっちゃうので丁重にお断りしておいた。
うーん、脱がす? 脱がさなきゃ着替えさせられないし。
ボタンに手を掛けるが、何だか手が震えて上手く外せない。だって、だってよぉ? この前まで男の人と手を繋いだことすら無かったのに、この目の前の超絶綺麗な男の人と、儀式とはいえキスはするわ一緒のテントで寝るわ……その上服を脱がせちゃうなんてっ! 恥ずかしくて出来無いよぉ。しかも何か透けて逞しい胸とか見えるし。結構筋肉ついてるのねぇ……じゃなくてっ! 生で見たら鼻血出そう。
「何やってんのよぉ」
リオちゃんが小さい手でボタンをせっせと外してくれる。
「ってかさぁ、お姉さん今のうちに自分が先に着替えちゃいなさい。風邪引くしスッケスケで中まで見えて恥ずかしい事になってるよ?」
う……! 本当だ。生地が薄いからぴったり貼り付いて肌の色がわかるほど! 胸とか大変な事に!
ひーん、思いきり丸見えだったよぉ。恥ずかしいよ~。絶対見たよね、エリオさん。ってか、頭を起こしてあげた時なんか目の前数センチにほとんど丸見えの乳があったわけで。
恥ずかしいを通り越してもう何だか悲しい。
しくしく言いながら『何でもポケット』から濡れてない服とタオル、毛布なんかを取り出す。背の高い草むらに入って着替えようと脱ぐが、貼り付いてなかなか脱げない。しかも冷えてきたし。
「……水攻撃、最悪だよ……」
「アタシはお姉さんの胸攻撃の方がこのお兄さんにとどめを刺した気がするんだけどね。顔は面白いけどすっごい色っぽい体してるのね」
面白い顔で悪かったわねぇ。でも何でかこの妖精さんに言われてもそう嫌な気がしない。
タオルをぽいと投げると、ストライクでリオちゃんに被さった。
「むう、重いよっ」
「ごめん。でも今脱いでるから服着るまで待って……」
その時、エリオさんが目を覚ました。
「……何故肌けて?」
自分の半分脱げかけの格好を不思議に思ってるみたい。おおっと、このままではっ! 慌てて草むらにしゃがみ込んだ。
「風邪ひくから着替えさせてあげようと思ってたんだけど、濡れててなかなか脱げなくてさぁ」
「それは済まなかった。ユマ様は?」
いるから! ここにいるから立ち上がらないで!
そう思ってるのに気持ちは伝わらなくて。
「……」
目が合ってしまった。服はまだ着てない。
胸を押さえて半分裸で草むらから見上げる私と、上半身肌けてる文字通り水も滴るいい男。みつめあうこと数秒。
「す、す、すみませぇええええん――――!!」
あ、夕日に向かって走って行った……そしてコケた。
その晩、二人でテントの隅と隅でくしゃみの合唱をして、ライちゃんとリオちゃんに呆れられた。
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