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正直な妖精△

2014/11/03 09:37

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 ばちん、と平手打ちした様な音が響いた。
 それと同時にエリオさんが仰け反って、仮面が派手に飛んで行った。
 手綱を引っ張る形になったので、馬が急停止する。私はびっくりして落ちそうになった。
 何が起きたのかよくわからなかったが、前方から飛んできた光の玉がエリオさんの顔面にぶつかったのだという事だけは理解出来た。
「くう……」
 おでこを押さえてるので、相当痛かったのだろう。でも仮面つけてて良かったね。少しくらいはクッションになっただろうか。
 さっきの光は一体何だったのだろうか。何がぶつかったの?
「エリオさん、大丈夫?」
「は、はい……」
 あ、ちょっと涙目になってるのが萌えー! じゃなくて。
 傷になってないか確かめようとした時、かさかさ音がした。
「いたぁ~い!」
 甲高い声がして、見下ろすと草の中でぴかぴか光るものが動いていた。
 何? 喋ったよね、今。
 二人で馬から飛び降りて、そーっと近づく。
「もうっ、何でよけないのよっ!」
 ぴかぴかが文句を言っている……。
「よけたが、同じ方向に来たでは無いか」
 普通にエリオさんも言い返してるし。
 見に行こうとしたらエリオさんに止められた。
「俺が見てきますので、ユマ様は離れていてください。危ないものだといけませんので」
 まだ痛いのか手はおでこを押さえたまま。それじゃ、剣も持てないよ?
「ちょっと待って。痛いところみせて」
「へ、平気ですよ」
「ダメ。怪我してたら大変でしょ?」
 手を退けると、白い額が少し赤くなってた。傷は無いが折角のお顔がたんこぶになっちゃったらどうするのよ。
「痛いの痛いの飛んでけ~」
 まあどうしようもないので、とりあえずナデナデしておいてあげた。
「治りました!」
「え~お呪いしただけだよ?」
 ホントだ。赤いのが無くなった。代わりに頬が赤くなってるのはわからないが。ひょっとして魔法になったのかな?
「ちょっとぉ、アタシにもそれやってよぉ!」
 おお、ぴかぴかさんを忘れていた。
 エリオさんが草を掻き分けると、そこには小さな小さな人がいた。リカちゃん人形ぐらいだろうか。えっと……トンボみたいな羽根があるね。
 丁度蔦の上に落ちたのか、絡まってもがいている。
「なんだ。妖精か」
「なんだは無いでしょうがっ!」
 妖精! こういうの、絵本で見た事ある! ホントにいるんだぁ。
 ……そっか、人間と魔族の国の間に妖精や精霊の国があるって言ってたもんな。こんなのなんだ。
「わぁ、可愛いのねぇ」
「ちょっと面白い顔したお姉さん、可愛いとか言ってないで助けてよっ」
「あ、ゴメン」
 面白い顔……うん、なんか久々に聞いてホッとするのは何でだろうか。
「貴様、ユマ様に何と失礼な事を!」
「いいの。なんか正直でいいじゃない」
 そっと手を伸ばすと妖精さんはびくっとしたが、すぐに身を任せた。
 本当に小さくて、無理矢理蔦をひっぱると壊してしまいそうなので、慎重に慎重に。やっと自由が利くようになると、小さな人は私の指に掴った。
 ひゃああ、ちっちゃい手! でもちゃんと指も揃ってるし、すっごい綺麗。短い髪は薄い紫で肌は透き通るほど白い。丈の短いワンピースみたいなのを着てて、そこからはすらっと長い足が伸びてる。小さいけどすごくスタイルがいい。エリオさんとはちょっと違う感じだけど、とっても美人さんだ。男か女かはわからないけど……。
「思いきりぶつかったからアタシも癒してよ」
 あ、そうか。そりゃ痛いわよね、全身でぶつかったら。
「痛いの痛いのとんんでけ~」
 何処が痛いのかもわからないので、指先で頭を撫でてみた。
「ありがと。すごいのねぇ。あー酷い目に遭ったわぁ」
 私の掌にちょこんと胡坐をかいて、肩をコキコキしてる仕草は妙におっさんっぽい……。
「ユマさま、妖精に不用意に触ると悪さされますよ」
「ナニよぉ? お兄さんアタシ悪さなんか……」
 言いかけて、エリオさんの顔を見た妖精さんは固まった。
「……あんた人間?」
 どういう意味だろう。
 あ、ほらエリオさんが明らかに落ち込んだ顔になった。
「こんな不細工な妖精にまで言われるとは……」
「リオ不細工じゃないもんっ! 不細工っていうのはこのお姉さんみたいな顔の事なのっ!」
 ぷう、と頬を膨らませてる妖精さんは確かに可愛いが、随分と酷い事を言われている気がしなくもない。
「言うに事欠いて、何という事を。ユマ様ほどお美しい方はおられないというのにっ! この妖精め、斬り捨ててくれる!」
 おいおい、エリオさんっ。剣から手を放そう。思わず妖精さんを胸に抱き寄せて隠した。
「斬っちゃダメだって!」
「お姉さん顔に似合わず優しいね~」
 ん、マテ。
 えっと……頭が混乱しているのと、不細工って言われるのにもう慣れてしまっているせいか、すぐにはわからなかったのだが、この妖精さんの美的感覚は私が知っている世界の普通の反応では無いのだろうか。
 で、さっきエリオさんに人間かと訊いたのは、人間に見えないほど綺麗だという意味で……だったら頷けるぞ。
「妖精さん?」
「リオだよ」
「リオちゃん、エリオさん綺麗だよね?」
「あのお兄さん? うん。性格悪そうだけど人間には勿体無い男前だよ」
 やっぱり。
「私は不細工だよね?」
「う……愛嬌はあるけど美人じゃないよね。人間の基準じゃどうか知らないけど、妖精の国ではね」
 なんか……嬉しい。
「ユマ様、そいつをコッチへ渡してください」
 エリオさん怒ってるねぇ。
「イヤ。いじめるでしょ?」
「……いじめません」
 負けずに頬をぷうとしてるエリオさんが超可愛い。
「ところで、どうしてあんなに急いで飛んでいたのだ?」
 エリオさんに訊かれて、リオちゃんが思い出したように慌て出した。
「そうだった! 逃げてるのっ。追いかけられてたのよぉ!」
「え?」
 その時、馬に残ったままだったライちゃんが奇声を上げた。
「うぎゃうおっ!(またなんか来る!)」
「ひっ、魔獣っ!」
 ごそごそっと私の服の胸元に隠れようとしたリオちゃんは、エリオさんにひょいと掴れた。
「こらっ! どさくさに紛れて何処へ潜っているっ」
「がぁうぐぁう!」
「……ライちゃんが、それどころじゃないと言ってるけど……」
 何なんだ、このどたばた劇は。
 ライちゃんの様子が尋常じゃ無いので、リオちゃんを私に渡し、エリオさんは剣に手を掛けて馬の方に走って行った。
 案外、あの二人信頼関係が出来つつある気がする。ってか、それどころじゃないよね?
 今度は何が来たのよ。リオちゃんは何から逃げてきたのよ?
「お、お姉さん。リオを助けて」
 私の指にしがみ付いて、ぷるぷる震えてる。
「何か怖いのに追いかけられてるの?」
「うん。魔族の手下になった水の精霊が……」
 リオちゃんの言葉が終わる前に、さぁっと辺りが翳った。
「来るよぉ!」
 湿った風が吹きつけてきた。
 ぐるる……とライちゃんが唸っている声と、エリオさんが剣を抜く音が聞えた。

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まいるどタブレット小説 Ver1.13