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File №1 花園の実態 - その5

2015/03/10 21:02

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「あなた、男の子でしょう?」
「ど、どうしてそのような事を仰るの?」
「わかるわよ。同じニオイがするもの」
 え? 何その意味深な言葉。
 困ったな。どう誤魔化せばいいだろう。やっぱり抱き上げられたりすればわかるよな。男としては華奢でも女の子にしたら重いだろうし。骨太ですからとか言って言い逃れ? それともいっそ泣き脅し……きっぱり否定するタイミングを逃してしまった自分が悲しい。
 突然、玲が立ち上がったので、自分でもビクッとするのがわかった。
 逃げなきゃ。わーん、先生助けて下さいよ!
「上はちょっと詰め物すればバレないけど、ここは……」
 いきなりスカートを捲くられ、がっしり股間を掴まれた。
「やっぱりあるよね?」
 ガードルで押さえられてるだけでも相当な苦痛なのに、その上そんなにキツくされたら。痛くてじわっと涙が溜まるのがわかった。
「くうっ……!」
「痛いよねぇ。わかるわ」
 何がわかるというのだ。この苦痛はついていない女の子には決してわかるハズなんか無いぞ! 僕のお玉さん、潰れてないか心配。
「安心して。誰にもバラすつもりもないし、それで脅したりもしない」
「……」
 すり、とすぐ間近に迫る美しい顔。
「ふふ、ホント可愛い。怯えてる?」
 何も言えず、動く事も出来無い。何この気圧される様な存在感。
 手首を握られて、心臓がバクバクいう。この娘、手大きいな。細くて綺麗な手だけどすごく指が長くて……まるで先生の手みたい。
「バラさない代わりに、いい事教えてあげる。優華だけにね」
「な、何?」
 握られた手が、何故か玲のスカートの方へ引き寄せられた。ええっ? 何かこれってすごくエッチな状況じゃ? そんなお誘いは嫌です! 女子高だし、異性に飢えてるとかそういうんじゃ無いよねぇ?
 むぎゅ。スカートの中の股間に押し当てられてしまいましたっ!
 …………。
 あの。思いっきりありえない感触が。
 ショートのスパッツ? その下に何か入ってますけど?
「同じだから、私、いや俺もさ。だからピンと来た。朝一目見た時から」
「ああ、それで……って……はいいいいいいぃ?!」
 何か意識が遠のいたんですが、一瞬。朝からバレてた?
 違うっ!そこじゃないだろ。
 俺っていいましたか? 同じニオイって、女装男子って事ですか? う、いやいや、でもこんな美人さんが?
 どうでもいいけど、微妙にお股のモノがむっくりしてらっしゃるのは何故でしょう? もう離していい?
「マジ可愛い。その怯えた顔とか、周りのお嬢様達より綺麗な肌とかさ。どうしてくれんの? これ」
 どうしてと言われましても……自分で何とかしていただくしか。
 いつまでも触ってるのも何なので手首を思いきり捻ってみたら、やっと離してくれた。
「わりぃ。泣かすつもりは無かったんだけど。モロにタイプど真ん中だからさ、ついね。同じだってわかったら、少しは安心した?」
 ……バレた事に関しては安心したけどね、男とわかっててタイプど真ん中とか言われたら、それはそれで違う不安があるんだけど?
「いやぁ疲れるんだよな、実際。お嬢様ごっこも楽じゃないよね。これだけは言っとくけど、俺は好きでこんな格好してる変態じゃ無いから」
 完全に化けの皮を剥がしてるね、玲様。何と返していいやら。そう思って聞けば、ハスキーな声も女の子とはちょっと違うかも。
 しかし、まあこんな綺麗な男の子もいるんだな。随分と喋り方は男らしいし、どんだけでっかい猫を被ってたんだろう。
「優華ちゃんはまさかそういう趣味なワケ?」
「ち、違いますよっ。業務上内容は言えませんが仕事です。ここまでバレてるんでついでに言うと、多分あなたより歳上です」
「うそっ、マジ?」
 僕、何正直に言っちゃってるんだろう。うああ、先生に知れたら叱られるどころで済まない気がする。
「俺は名前も歳も偽ってないよ。性別だけ。じゃあ優華は……」
「本名は言えませんが偽名です。ついでに言うと成人式済んでます」
「……良くて十五・六にしか見えないけど」
 よっしゃ、いつも良くて十四・五と言われるのが少し上がったぞ! って喜んでる場合じゃなくてっ!
「絶対違うとは思うけど、刑事さん?」
「どうして絶対違うと思うんですか。正体は明かしませんが」
 これ以上は喋るとマズそうなので言わないけども。
「俺、すっごい嬉しかったんだよ、あんた見つけて」
 玲が何とも言いようの無い表情で俯いた。
「正直しんどかったんだよ。ここは純粋培養された箱入りのお嬢様達ばかりで、多少毛色が違ってもそれを受け入れてくれる。だから何とかバレすに来たけど、この頃背も伸びて来たし、いい加減声も怪しくなってきた。それにもう三年生で残り半年ちょい……その間に目的が果たせるのかって諦めかけてた」
「目的?」
 瞬時に頭の中に、さっき保健室で先生と話してた内容が蘇った。
 二年前の生徒の妊娠を苦にした自殺。畝織涼花。玲のお姉さん。
「……ひょっとして涼花さんの仇を取るために? 復讐が目的?」
 僕が言うと、玲がすごい勢いで顔を上げた。
「知ってるの? 姉さんの事を」
「二年前に自殺されたのでしたね。先日もここの生徒が自殺したでしょう? ひょっとしなくても関係があるのでは無いかと思います」
「あんた……何者だ?」
 言っちゃっていいかな? いいよね先生。
 玲は上手く行けば情報源になる。先生だって養護教諭他を味方につけてるんだし、僕にだっていていいと思う。生徒会長として絶大な支持を得ているこの畝織玲を味方につけておけば後々絶対に楽になると思うんだ。性別を偽ってまで自分で何とかしようって子だもの。悪い子では無いだろうし、根性も座ってる。
 何より、利害が一致する。
「秘密、守れる? 勿論僕は君の事をバラすつもりはないし、ひょっとしたら復讐するのに協力できるかもしれない」
 一気に立場が逆転した瞬間だった。
 自信に満ちていた玲の顔に、ほんの少し年相応の焦りみたいなのが見えて可愛らしく思えた。……男だけど。
「僕は刑事じゃない。探偵。正確に言うと助手。少し前起きた生徒の自殺の原因を探るために来た。本当は潜入調査中は身分を明かしてはいけないんだけど、特別にね」
「探偵……」
 あ、玲の目がキラキラしてる。やっぱり男の子なんだな。こういうの好きだもんな、男の子って。
「僕がこの学校にいる間、協力してくれるなら、お姉さんを自殺しなきゃいけないほど追い詰めた奴を一緒に追う。どう? 悪くないと思うんだけど」
「勿論だ。協力する」
 よっしゃ、人材ゲット~! 情報は多いほうがいい。
 その後、色々と事件に関する情報をもらいつつ、男子トークで盛り上がった。ああ、やっぱり素で話出きるっていいよね。それは玲も同じだったようで。一年生の終わりに編入して来て以来だから、玲は一年半ぶりの素らしい。年齢の事はさておき、すっかり仲良くなれました。
「ガードルって凶悪だよね」
「ああ、俺我慢できずに三時間目で脱いだもん。開放感がたまんねぇ」
「でもシリコンパッドってすごいよね、さわってもわかんないもんね」
「でも、汗かくと蒸れるんだぞ。喉仏目立たなくて良かったよな」
 ……何の話をしてるんだろうか、僕達は。
 チャイムが鳴ったので、生徒会室から出る。
 僕達はまた巨大な猫を背負う。優雅でお嬢様の猫を。
「それでは、仲良くして下さいませね、優華さん。困ったことがおありでしたらいつでも相談して頂戴ね」
「こちらこそお願いいたしますわ、玲お姉様。頼りにさせて頂きます」
 遠巻きにいる女の子達には僕らの密談を聞かれてはいないだろう。
 でも、そんな僕達を見ている人がいた。
「佐倉優華さん、ちょっと」
 げ、先生。

 生徒会室の次は準備室……僕、授業受けなくていいんでしょうか。
 一応、生徒会室での顛末を先生に話した。叱られると思ったけど、意外にも先生は怒らなかったし、驚かなかった。
「あの超美人さんが男の子ですよ? 驚かないんですか?」
「学園には上手に誤魔化してありますがね、戸籍を調べればわかることです。知っていましたよ」
 ひどっ。何で先に言っておいてくれないんだろう。本当に意地悪だな。
「星野さんの事も気になるので教室に戻りたいんですけど」
「報告は家で……ですか?」
「はい。バレちゃいましたが色々聞けましたよ。畝織玲は味方につけておいた方がいいですよね? 全く関係ない訳では無さそうですし」
 はぁ、と珍しく先生が溜息をついた。
「私が心配しているのはそこではありませんよ。畝織玲はそもそも私が取り込む気でおりましたし」
 う。今聞いてはいけない事を聞いた。玲、逃げてっ! 即逃げて! この人女じゃ無い相手なら、謎の光線出すからっ。溶かされるからっ!
 何故か先生にすごく強く抱きしめられた。あのぉ、誰かに見つかったらセクハラ教師ですよ?
「私以外の者と二人きりで部屋に篭ったりしないで下さい」
「……」
「心配で禿そうでした」
 どうなの、この我侭さんは? 女に近寄るのも男でも駄目ですか?
 ヤキモチ妬いてくれたんですか?
 タイプど真ん中と言われた事は内緒にしておいた方がいいよね。

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まいるどタブレット小説 Ver1.13