HOME

 

File №1 花園の実態 - その7

2015/03/10 21:03

page: / 14

「今野か……あれは食う気にはなれませんねぇ……」
「結構イケメンで女の子には人気ですよ?」
 いやぁ、先生? 他にも色々と接触する方法はあると思いますよ。ホストみたいな派手な男だけど、好きそうなタイプだとは思ったのにな。
「しかし思った以上に大きな事件ですね」
「そうですね……それより、いい加減放してくれませんか?」
 報告を済ませたのはいいんだけど、さっきからずーっと先生にがっしり捕まってます。
 何故二十歳過ぎた男が膝の上に乗せられて頭撫でられまくってるんでしょうか? 重くないんですか? ペットですか僕は。
「今日も一日女に囲まれて命が磨り減りそうだったので、優一郎君を補給しないと。しばらくこうしてましょうね」
 ましょうねって。僕を補給って何だろうか。意味がわかりません、先生。
「お風呂にも入りたいし、お腹も空きました。佐倉さんと二人で学園中掃除しまくりましたから」
「もう、我侭ですねぇ、君は」
 どっちがワガママですかっ。
 もうナデナデは勘弁してほしい。髪の毛が抜けそうです。禿たらどうしてくれる。でも……ちょっと気持ちいい。
「ああ、この手触りがたまりません。癒されます」
「猫ですね、僕」
「可愛い顔をして何てこと言うんですか、この悪いお口は。駄目ですよ、余所でそんな事を言っては」
 ?? 僕何か変な事言った?
 突然真顔になって違う話を始めるのも先生なんだけどね。
「児童売春斡旋、挙句に自殺に追い込む恐喝。上手くいけば殺人幇助ででも挙げられるかもしれませんね」
 でも手はナデナデ。
「警察の方に?」
「いや、まだですね。もう少し詳しく証拠を掴んで報告書を纏めましょう。ひょっとしたら教師の中にまだ共犯者がいるかもしれません。その辺りは今野やその周辺から聞き出すとして……」
 話の内容は非常に殺伐としているのに、まだナデナデ。
「届けは最終的に依頼主に判断願って。亡くなったとはいえ嫁入り前の娘さんのデリケートな問題ですからね」
「そうですよね……家族にはいじめよりもショックですよね」
 ふと玲の事を思い出した。彼も辛かっただろう。高校生という一番楽しいはずの時間を自分のために使うので無く、姉の復讐に捧げた青春時代か……悲しいな。性格もそう暗そうじゃないし、結構真面目でいい子だ。共学だったって女の子にモテモテだっただろうに。
 イヤ、でも待て。男だってわかっててタイプど真ん中とか言われたんだけど。って事は玲って……ひょおおっ?
 思わず触られたお股の辺りがくすぐったくなった。
「何ですか? いきなり赤くなって」
「い、いえ……何でも」
 髪を撫でていた手が止まって、両頬を手で挟まれた。指が長くて大きな手だけど何の荒仕事もした事が無いような柔らかい掌。ちょっと冷たくて気持ちいい。
「一緒にいる時、私以外の人の事を考えたら嫌です」
 どきん。顔が近いよ、先生。ああ、くらくらする……。
 自分はどうなの? こんなに近くにいても、こうして触れ合ってても何を考えてるのかさっぱりわからなくて。
 でもそんな所が好き。
 僕って変だよねって、自分でも思うんだ。
 黙ってしばらく撫でられてたら、お腹がぐうって鳴って、一緒に笑った。丁度いいタイミングで食事の用意が出来ましたと、お手伝いさんが呼びに来てくれた。

 女子高生生活四日目。
 昨日は普通に授業をこなし、今野に命令されたからか、星野さんが仲良くしようと声を掛けて来た事以外は動きは無かった。こちらも大きく動く事無く動向を見守る立場を貫いた。三年生の徳永の方は、同じ三年生の玲にさり気に動きを見張ってもらっている。今野は先生に任せてあるんだけど……。
「ちょっと、佐倉さん、お聞きになりました?」
 全自動情報源であるお喋りの児島ちゃんが、休み時間に声を掛けて来た。次は美術室に移動という所で、昨日からべったりの星野さんと一緒に向かう途中だ。
「何を?」
「ほら、フランス語のビノシュ先生のこと」
 どきっ。先生がどうかした?
「物理の今野先生に酷く絡まれてらっしゃったご様子。お綺麗でいらっしゃるから仕方ないのかもしれませんけど。今野先生も素敵でいらっしゃるけど少し派手でしょう? 流石に男性に迫られてはお困りでしょうね」
 いや、女に迫られるよりは喜んでると思うよ。
「それはお気の毒ですわねぇ……」
 一応言ってみるけどね。
「そうそう! 私も見ましたわ。腰に手が回ってましたわよ」
 木下ちゃんまで。
 ふうん。食う気になれないとか言ってたわりに落としましたね、先生。さぞや詳しい話を聞けるのでしょうね。視線一つでそっちの趣味の無い相手まで虜にするあれはもう魔法ですよね。そうですか、そう来ましたか。じゃあ、お任せしておきますからバッチリ仕事をお願いします。
 しかし、この娘さん達、同性がつるんでてもあまり嫌悪感は無いんだな。まあ、お姉様とか言っちゃってるしな。怖いわぁ、お嬢さん達。
「星野さん、参りましょうか」
「そうでございますね、佐倉さん」
 四日目でも、まだ正体に気付かれていない僕。段々とお嬢様が板についてきたのが怖いよね。朝、思いっきり玲に笑われたしね。
 気がつくと、星野さんが手を繋いできた。ひゃっ、流石にあまり接触すると男ってばれる。僕の手は割と小さいけど女の子よりは大きい。タコとかあるし。
「案外硬い手ですのね」
 ひゃああ。マズイ。
「ほら、体が弱いので少しでも鍛えようと色々やってましたら……」
「ご苦労なさっているのですね」
 誤魔化せたのかな、うん、誤魔化せたようだ。
「ねえ、佐倉さん。放課後少しお時間あるかしら? いつも可愛がってくださる三年のお姉様方がお茶会をなさるそうなの。お友達も一緒にと言われたのだけど、私、あまりお友達が……」
 来た。
 星野さん、お茶会に誘うのに膝が震えてるのはおかしいよ。徳永達の所に連れて行く気だな。そういう事なら、乗ってみようじゃないか。
「私などでよろしいの? あまり大きな声では言えないのだけれど、今少し親が大変で……こっそりアルバイトを探してますの」
 星野さんの顔がぱっと変った。あ、意味深に笑ってるね。
「これも大きな声では言えませんが、そちらも力になれるかもしれませんわ。お体が丈夫でないのにお外で働くのは大変でしょう? 簡単ないいアルバイトを知ってますわ。お姉様方がご親切に教えて下さいますわよ」
 よっしゃ。決定的な証拠を押さえることが出来るかもしれない。

 お昼休み。つわりだろうか、食欲が無いと言った星野さんを教室に残し、児島ちゃん、木下ちゃんと食堂に向かう途中、廊下で先生に会った。今野と一緒だ。
 ちらっと目が合ったが、先生は何も言わなかった。横で軽薄そうな笑みを浮かべている今野に、ちょっとだけムカッとした。
 でもこっちはこっちで僕に後ろから手が伸びてきた。
「優華、捕まえた」
「畝織様……今日はお付きの方は?」
「優華ちゃんと一緒するからって、遠慮してもらったのよ」
「……」
 玲、どうでもいいけど放して。後ろからがっしり抱きしめられてるんだけど。それなんかヤダ。ほら、児島ちゃん達逃げて行っちゃったし。
 あ、先生と今野が一緒に行っちゃった。もう一度ちらっと僕の顔を見た先生は微笑んでいたが、ちょっとあれは機嫌が悪いときの顔。僕が玲にくっついてるのが気に食わなかったんだろう。
 もう、自分の事は棚に上げといて、人にだけ嫉妬するんですね……。
 玲と二人で生徒会室に篭った。ちゃっかりサンドイッチと飲み物を用意している辺り、午前の授業をサボって買って来てたに違いない。
「徳永、あいつはマジでヤバイな。そういい家のお嬢様でも無いくせに、異常に金回りがいい」
「やっぱね。今日、僕、放課後会うよ。星野さんと一緒に」
 ぱくぱく。うーん、美味しいな。根っから庶民の僕にしてみたら、こういう普通の食べ物ってありがたい。
「後さ、科学の桐生。おばさんだけどさ、今日俺にも声かけて来たぜ。放課後話があるとかでさ。ひょっとして一緒の用件?」
 ……。
 これだけ綺麗な子だからな。今まで声が掛からなかったのが不思議だったんだが。客が待ってるって言ってたもんな。でもなぁ、何か笑える。新しく目をつけたのが二人とも男って。見る目が無いと言うか……化けるのが上手すぎると言うか?
「玲は処女?」
「ぶはっ!」
 あ、ジュース噴いた。思いっきり真っ赤になってるのが可愛い。
「な、なんちゅう事訊くんだよ?」
「いや、新品じゃないとダメだって今野が言ってたし」
 そう言う問題じゃなくて、多分女じゃないのが一番の問題だと思うのだけど……先生に言わせたらどっちでも構わない相手も多いから気をつけろとの事だったけど。
「とりあえず僕は行くから。玲は生徒会が忙しいとでも言って逃げておいた方がいい」
「でも何か優華だけじゃ危なくないか?」
「言ったじゃない、僕こう見えて成人式済んでるって。一応これでも合気道は有段者だよ」
 多分身を守るくらいは出来ると思うんだけどね。
 一応、先生にも連絡を入れ、玲には待機していてもらう手筈で、僕は放課後を待った。

「待ってたわ。佐倉優華さんね?」
 お上品に笑う三年生の徳永と、科学の桐生先生。
 お茶会……ね。
 学園の近くにあるホテルのロビーでお茶会ですか。
 何か後ろの席に外国人のおじさん達がいる。あの人達がお客さんかな?
 ポケットの中の携帯を探り、保存してあったメールを先生に送信する。

『件名:メインディッシュ
 本文:ミディアムレアでお願いします』

 中まで火が通るまでに来てよね、先生。

page: / 14

 

 

HOME
まいるどタブレット小説 Ver1.13