期間限定短編集 - クリスマス~花蔦の伝説~
2017/12/25 21:55
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それはまだそう昔の事ではありません。そうですね、四代前の魔王様の時代くらいでしょうか。千五百年は経ってません――――。
「いやぁ……結構昔だと思うんだけど」
思わず零れた言葉にしーっと周りから声が上がった。ゴメン、小さい子達がちゃんと聞いてるのに大人が冒頭からツッコミを入れててはいけませんね。
お話は続きます。
ある寒い冬の日の事でした。
このドドイルの外れの小さな村で、一人の花蔦魔人の少女が震えていました。いつも温かいドドイルですが、その日はとても寒く、住む家も親もない働き者で優しい少女はお腹を空かせ、寒さで小さくなって枯れる寸前でした。
そろそろ新年の魔王節を迎えようという歳の瀬です。
すぐ横の家の窓を覗くと、温かい家の中で同じ位の子供達はお父さんとお母さんに甘え、温かい服を着て美味しそうな食事をしています。でも誰も窓の外の少女には気がつきませんでした。
……魔界版マッチ売りの少女……?
夜が来て、空からちらちらと雪が降り始め、薄紅に染まった世界は冷たく少女を包んでいきます。手は冷たく、頭の花はもう萎れはじめてしまいました。このままでは本当に死んでしまいます。
「たいへんらぉ~!」
「かわいしょぉ!」
真剣に聞いていた園児たちはもう泣きそうになってる。子供ってお話であっても本気で入り込んじゃうもんね。
しかし微笑を絶やさず、少女は魔王様に、魔神様に祈りました。
温かい手袋を一組ください。それが駄目なら死んだらお父さんとお母さんの所に行かせてください。お願いします、お願いします……。
「ううっ、な、なんて可哀想な話なんだぁ!」
部屋の隅で聞いていたエイジ君が号泣してますね。まあ気持ちはわからなくも無い。私も少しうるっときてた。横で何故か一緒に聞いていた魔王様も無表情のまま口を手で押さえておいでだ。微妙に眉がぴくぴくしている。
「お静かにお願いします」
ウリちゃん、あんたが思いきり感情をこめて読むからでしょう。全く、なんて朗読が上手いのだろうか。上手すぎて怖い。喜劇ででも人を泣かせられるんじゃないだろうか。
ぺらり、とページをめくってお話は続く。
少女が息を引き取る間際、雪の夜空に鈴の音が響いてきました。角の生えた獣に引かせたソリに乗ったおじいさんが空を走ってきます。
雪の中、少女の横に降り立ったおじいさんは、少女に優しく言いました。
あなたはとても優しいよい子ですね。私の手伝いをしてくれるなら温かい服をあげましょう。それから温かい家もあげましょう。お父さんとお母さんに会うのはまだ何百年も先になりますが、きっと願いは叶うでしょう、と。
それでも少女は手袋だけでいいと返事し、おじいさんは少女をそりに乗せ温かい手袋をくれました。
少女は冬の寒い日にだけおじいさんの手伝いをして世界中の子供達のところを周り、色々な物を届けに行きました。そして夢のように温かい服と、屋根のついた温かい家を得て、立派な花を沢山咲かせ、長い人生を幸せに暮しましたとさ。
「おしまい」
ぱたんと本を閉じて、堕天使様は微笑んだ。
「よかったのら!」
ぱちぱちと小さな手が拍手する。本日のお話の時間はこれでおしまい。
口々に感想を言い合いながら、子供達がまた園庭に自由遊びに散って行った後も、魔王様とエイジ君は教室の隅でむせび泣いていた。
それよりも今の話……。
「ちょっと違うけどサンタクロースのお話だよね。クリスマスにソリに乗って子供のところにやってくるおじいさん。魔界にもいるんだね」
「サンタクロース?」
本を読んでいた本人、スミレ組担任のウリちゃんはきょとんとしている。
「違うの?」
「今の話は魔王節(がんたん)の前にある花蔦の日の由来といわれています。伝承によると、当時の魔王様かその腹心だと言われていますが、真偽のほどはわかりません。ココナさんの世界にもこういう方がおいでなのですか?」
当時の魔王様……横を見ると魔王様はエイジ君と泣きながら、邪魔ですとモップを持ったメイア先生に追い払われている。いつもは毅然としておいでだが、子供が絡むと途端に過敏に反応しちゃいますよね。歴代こういう性格なのだったら充分にありえるなぁ。
「ああ、そうだ。子供が怖がるといけないので話を途中で終わってしまいましたけど……実はあの話には続きがあるんですよ」
本棚に本を戻しながらウリちゃんが笑顔を見せた。あ、なんか黒い方の笑い方に見えた。
「全身黒ずくめのおじいさんは、話の少女のように働き者でよい子のところには贈り物を、悪い子はソリに乗せて南の森に連れて行くという話なのですよ。南の森には怖い魔女がいて、延々説教をされるのです」
「ひぃいいい、何それ。怖いおじいさんじゃないの」
サンタさんじゃなかった! ってかブラックサンタさんというのを昔聞いた事があるが、まさにそんなカンジなんだろうか。
そして思った。魔王様じゃないな。これまた歴代魔王様の腹心の部下は堕天使の一族だそうだし、目の前の現役さんを見て納得した。
……おじいさんの正体はコイツの先祖だと……。
去年は新年を迎える前、冬休みになっちゃったので何もしなかった。なんか寂しいなぁと思っていたのはクリスマスが無かったからだ。まあキリスト教が関係ない魔界には縁がないからねぇ。しかも聖の逆が魔って事で。
でもなんか寂しい。先月子供の絵や作品を発表する作品展をやって以来、何も変わった行事が無く淡々と日々が過ぎた。新年の前後はお城も忙しくなるので幼稚園はしばらくお休みだし、城の慶賀行事で宰相様も忙しくてしばらくデートする間も無いし……。
「花蔦の日ってお祝いしないの?」
「街では結構盛り上がりますよ。贈り物をやりとりしたり、頭に大きな花を飾ったり。先程の少女の話にちなんで、子供は手袋を枕元に吊るして寝るんです」
……靴下じゃないんだ。手袋なんだ……。
でも、基本的にクリスマスと同じじゃないのよ、ノリは。よし!
「パーティしよう!」
「で? 何故私がそのサンタとやらの役なのだろうか?」
全身真っ黒……まあいつもだが……プラスもこもこファーつきの帽子とブーツ、なぜかおヒゲもつけて魔王様がちょっとふてくされておいでだ。色が違うのとスタイルが良すぎる以外完璧なサンタさんだ。すっごい似合いますよ、魔王様! ただし、子供達を恐怖のどん底に突き落とす、完璧なブラックサンタの出来上がりだ。もしくはサンタじゃなくてサタン。
「本当はウリちゃんにやってもらおうと思ったんですが……その衣装が似合わなさ過ぎて笑えてしまいまして」
本当は似合った事は似合った。髭を髪の色に合わせたら普通のサンタさんになっちゃったからとは言わない。
「素晴らしゅうございます」
「やはり魔王様だと威厳がおありですねぇ。カッコイイです。颯爽と現れてよい子のみんなにプレゼントを渡す主役はやはりこうでないと!」
悪い子はさらっていく魔のサンタ……。
「そ、そうか? そうだな、私がやらねば誰がやる、だな」
マーム先生、エイジ君めっちゃ上手いな。魔王様はすっかりやる気になられたご様子。そのエイジ君はなぜかトナカイさんの角があたまについている。ウリちゃんにも角がついてるがトナカイさんでなく一角獣だ。
実はサンタさん役は最初からパーティに参加出来無い。ある程度盛り上がった頃に現れるという事になってるので結構ソンな役回りなのだ。魔王様だけというのもお気の毒なので、強制的に男二人もご一緒に。
私は言いだしっぺなので厨房をお手伝いしてコックさん達とケーキを作ったり、飾り付けをやった。こっそり子供達に欲しいものを聞いておいたカードを元に、プレゼントも用意してみた。マーム先生とメイア先生は子供の数だけ手袋を用意してくれた。
一つだけ叶えられそうに無いお願いのカード。それが気懸かりだが、まあほぼ揃えられたし。
「ああ、そうだ。クリスマスツリーも用意してみました!」
クリスマスと聞いて、最も喜んだのが同じ日本人のエイジ君だ。兄弟四人のクリスマスは毎年盛り上がっていたそうで。思い入れもひとしおだ。
得意げに指差された方向を見て、一同固まった。まあ何と言うか……ツリーとは程遠いものがありましたとも。
「……笑いジラソレ? それに歓喜ヴェレット……」
自分で歩けないヴェレットは、でっかい鉢に入れられて全身の棘に色とりどりの飾りを付けられている。寄り添うように変なポーズで立っているジラソレも同。いつも笑い声を上げている彼等が、笑顔のままだが黙っているのはきっと嫌なんだろうなぁ。微妙に笑顔も引き攣っているように見える。ツリーというより謎のオブジェだ。
「な、なんか可哀想……それにツリーじゃないよね」
「そうですか? 華やかでいいじゃないですか。ウチ、いつもじいちゃんの盆栽の梅の木に飾りつけしてましたけど?」
エイジ君、草野家は何か間違ったクリスマスを過ごして来ていないか? 百歩譲って梅の木はツリーだ。だが彼等は花であって木では無い。畑に寂しくいるのも可哀想なんで参加させてやりたいという気持ちはあるども。
「ジラソレもヴェレットも動いてもいいんだよ。一緒にパーティしようね」
ほっとしたのか、わはは、おほほと声をあげ始めた彼等だった。
子供達がやって来た。今日の通園バス(ルウラ)は首に大きな鈴を付けてもらった特別仕様だ。しゃんしゃんと鈴の音を響かせて、夕方の空を飛ぶ白いルウラは、魔王サンタより余程クリスマスにふさわしい。
男の子も女の子も頭に色とりどりの大きな花をつけている。これが花蔦の日の慣わしなんだって。みんなすごく可愛い!
特にお話の少女と同じ蔦魔人のかー君は、まさにこんな感じだっただろうと思える似合いっぷり。確かにこんな可愛い子が枯れそうになってたら助けたくなるよね。
「……ベンちゃんは盛りすぎじゃないかな?」
皆頭に一つだけ大きな花をつけている中、巨人族のよっくんに抱っこされてるベンちゃんは、全身に小さな花をいっぱいにつけてまるで手の生えた花柄のだるまのようだ。
「大きいの一つつけたらひっくりかえっちゃうからって、ママが」
足が無いから重心が上に行くとバランスが悪くなるからって苦肉の策なんですね、お母さん。納得しました。華やかでいいですけどね。
これまた大きな真っ赤な花をつけた食べちゃいたいほど可愛いユーリちゃんと一緒に、子供達を引率してパーティ会場の幼稚園につくと、賑やかな声が出迎えてくれた。
「わははははは~! 皆よい子かな~?」
ツリーから司会に変更になったジラソレが大声で笑っている。
「よい子れ~しゅ!」
「美味しい料理にケーキを食べて、みんなで楽しみましょうね」
「あう!」
マーム先生もノリノリだ。今日は赤ちゃんも一緒。もう一人で這えるようになった赤ちゃんの頭にも赤い大きなお花がついていて超可愛い。にょろにょろと楽しそうにお兄ちゃんお姉ちゃんをお出迎え。
一応名目は花蔦の日をお祝いするという事になってるのだが、私の中ではクリスマスパーティだ。
ジュースや吸血鬼用の血で、大人は軽めのワインでかんぱーい。
私が作った巨大ブッシュ・ド・ノエルも好評で瞬殺で消えた。ゴメン、魔王様達、ケーキもう無くなりました……甘党なのでものすごく楽しみにされていたのに。
美味しい料理や簡単なゲームなんかをして宴もたけなわ。
仕込んでおいたクリスマスソングを皆で唄う。オルガンに合わせて子供達が大きな声で唄い始めた。
「ジングルベール、ジングっベーっ、すっずが~なるぅ~♪」
横では揺れる生フラワーロック。踊ってる子もいるし、とっても楽しい! 歌詞が結構ぴったりだと思うのでこの歌にしたんだけどね。
さあ、そろそろ来るかな、サンタさん。
「みんな、ほら、お耳を澄ませてごらん」
途端に静まるみんな。少し会場の明かりが落とされる。
しゃん、しゃん、と近づいて来る鈴の音。
「お願い事したよね? ソリに乗ったおじいさんがみんなのお願いを聞いてプレゼントを持ってきてくれたんじゃないかな?」
しーん。
みんな喜ぶかなと思っていたが、意外にも子供達は固まっている。というより怯えているような。
あれ?
「こ、ココナせんせー? わ、悪い子はちゅれてかれるんだぉね……」
ウリちゃん、みんな知ってるじゃないのよ、あの話の続き!
「ねーたん、こあいぃ」
ユーリちゃんにもこれは秘密にしてあったので、魔王様、ウリちゃんがなぜいないかを仕事だと納得していたので、まさかこれから現れるとは思っていないから怖がって私にしがみついている。うう~ん、放してくれないとユーリちゃんのプレゼントの用意が出来無いよぉ。
しゃん、しゃん。
近づいて来る鈴の音。わくわくよりも恐怖がMAXになった時。
ばたーんと勢い良くドアが開き、会場は悲鳴に包まれた。
「きゃー! こあいいぃ!」
「よっ、よい子にしましゅから、連れて行かないで~!」
「ごめんなちゃい、ごめんちゃい! おねちょちてごめんちゃい!」
「しゅききらい、もうしましぇん!」
「ケンカしません~!」
「ちっこでた~!」
「うぎゃああああああん!」
「わはははははは!」
「おーっほっほほほほほ」
泣き出す子もいるし、火を吹いてる子もいる。チビっちゃった子もいるみたいだ。拍車をかけるように皆の勢いで驚いたマーム先生の赤ちゃんが泣き叫んでるし、ジラソレとヴェレットの笑い声さえ不気味に聞える。
楽しいクリスマスパーティは阿鼻叫喚の懺悔&恐怖劇場と化してしまった。これにはソリ係のウリちゃん、エイジ君、そしてサンタさんの魔王様もオロオロだ。
「エイジ、もう少しドアは丁寧に開けろといつも言っているのに……」
「いや、そういう問題じゃ無いと思いますよ魔王様」
これはマズイ。これでは本当にブラックサンタさんだ。
「ここにいる子は皆よい子だから連れて行かないぞー」
魔王様が少し大きな声で言われると、子供達がぴたりと静まった。
「……ホント?」
「本当だとも。皆に贈り物を持ってきただけだ」
だけ、を酷く強調されましたね、魔王様。子供に泣かれるわ、楽しみにしていたケーキもう無いですもんねぇ。
「そうです。悪い子と言うのは人や動物を殺したり物を取ったり、家に火をつけたりするような子です。皆さんはそんな事はしませんね。だからいい子です」
一角獣ウリちゃん、それは悪い子というより犯罪者です。相変わらず笑顔で説明が怖すぎます。
「あ、ウリたんせんせーら。しょれにエージたんら」
やっと気がつきましたか。でもなんでか魔王様は気がついてもらっていない様子。似合いすぎるんでしょうか、帽子におヒゲが……。
「はい、みんな手袋ですよ」
メイア先生とマーム先生がそれぞれに手袋を渡す。中には先日訊いて書いたお願いカードが入っている。それを出して、サンタさんに見せて、ソリに積んであるプレゼントと交換という手はずなのだ。
やっとみんなが落ち着いた様なので、私は一人こっそり抜け出す。
一人だけお願いカードの中身がソリに積んでないユーリちゃんのお願いを叶えるために。さて、急いで着替えなきゃ。
「絵本!」
「積み木!」
着替えて大きな布を被って部屋に戻ると、もうプレゼントを貰った子供達がほくほく顔で喜んでいる。目印として、貰った子は頭の花をとってトナカイさんに渡すのでよくわかる。
「次はてんちゃんだね。何々……」
カードを見たエイジ君が固まった。あー、やっぱりねぇ。
「何と書いてあるのだ、早く読めトナカイ」
魔王様は気忙しい。
「……ゆーしゃさまの口付け……」
「早く叶えてやればよかろう。ほれ」
魔王様に角を毟られたトナカイさんは真っ赤な顔をして、わくわく顔で待っている吸血鬼のレディの前に跪いた。
「失礼」
小さな手をとって、手の甲に口付けするエイジ君は照れまくっている。だが、オマセさんはそれでは満足できなかったご様子。
「違うの、こっち!」
首に抱きついたと思うと、てんちゃんは思いきり口にちゅーしました。
「おおお~」
なぜか拍手する一同。大胆ですねぇ、女の子は。
「き、牙刺さりました……」
よろよろ帰ってきたエイジ君は耳まで真っ赤。ご馳走様です。
気を取り直してプレゼント交換会は続きます。
「ベンちゃんは……靴?」
まだ足の生えてないベンちゃんは何故か靴が欲しかったようです。多分足が生えてきた頃には小さいと思うけど、皆が履いてるのを羨ましそうに見てたもんね。
絵の上手なよっ君はクレヨン。スケルトンのまー君はお帽子。狼族のみぃちゃんはお人形。火竜のくーちゃんはお菓子。マーム先生のところの赤ちゃんはオルゴール。それぞれもらって嬉しそう。もうすっかりソリの中身は空っぽになってしまった。
「ユーリの分が無いが?」
魔王様も心配そうですね。ユーリちゃんのお願いはソリには乗らないものだったから。そして魔王様にも内緒だから。
最後にモジモジしながら、カードをウリちゃんに差し出したユーリちゃんは、お願いが叶うとは思っていないようだ。でも、少しでも叶えてあげたい。たとえ余計に傷付けてしまうかもしれなくても。
「王子のお願いは……」
はっとしたように私の方を見たウリちゃん。うん、ほんの短時間だけの魔法をお城の人達にかけてもらって用意したから。
「お願いは、一目だけでいいからお母さんに会いたい、です」
「それは……」
魔王様もお困りのご様子。さて、そろそろ出番かな。
「今日だけ、ほんの少しの時間だけ戻ってきましたよ」
頭から被っていた布を脱ぎ捨てて、私が一歩前に踏み出すと、魔王様の目が大きく見開いた。お城の人達のお墨付きだが、やっぱりちょっと違うかな? 髪の色と長さ、目の色を変えてもらって、ドレスに着替えただけだし。
「おかあたまなの? ホント?」
喋るとボロが出そうなので、微笑んで頷いておいた。
抱きしめるとユーリちゃんは泣くかなと思ったが泣かずにニコニコしていた。この子が生まれると同時に亡くなったお母さん。だから一度も本物を見たことが無いからだと思う。
「お願い事が叶えられる時間は短いの。でも今だけは一緒」
「うれちいよ、おかあたま! ね、おとうたま?」
「あ、ああ」
魔王様、流石にユーリちゃんにはバレてましたね。
「こうして歩きたかったんだな?」
おヒゲと帽子をとった魔王様がユーリちゃんの左手を、私が右手を握ってユーリちゃんを挟んで手を繋ぐ。カードだけじゃなく、会えたらこうしたいって絵を描いて説明してくれたユーリちゃん。余所の両親揃っている家では当たり前の光景。今、まさにその状態を再現してみた感じだ。
ささやかな願いすぎて、でも難しい願いすぎて酷く悩んだ。騙すようで本当に可哀想だけど、魔王様も私だと気がついていらっしゃるだろうに何も言わず協力して下さる。
「ユリレア、私の願いも一緒に叶ったよ。一目でいい、会いたかった」
少し涙目になっていらっしゃるような魔王様は、付き合いがいいな。ゴメンなさい、きっと奥様の綺麗な思い出を汚してしまった事でお怒りだろうに。後で本気で謝りますので今だけは許してください。
しばらく三人で何も言わずに部屋の中を歩いた。
「良い子にしててね。まだまだ先だけど、きっとまた会えるから」
「あい!」
さて、そろそろ時間切れかもしれない。作り物だが天使の白い羽根を広げて足元に転移陣を出してみる。行き先は隣の部屋。
「ユーリ、愛してるわ」
消える間際、笑顔で手を降るユーリちゃんと泣きそうな顔の魔王様が見えてすごく心が痛かった。
また大慌てで着替えて、なにくわぬ顔で部屋に戻る。
サンタさん御一行も変装を解いて、パーティに加わって、さらに盛り上がって、もう一度お歌を唄って、そろそろお開き。
「すごくすごくうれちかったにょ!」
こんな笑顔のユーリちゃん、久しぶりに見た。そして複雑な顔をした魔王様も。
でも、みんなの願い、叶って良かったね。
子供達が笑顔でルウラに乗ってお家に帰った後、片付けは明日するとしてウリちゃんとお城の屋根で月を見ていた。魔王様は早々にユーリちゃんと部屋に篭ってしまわれた。
「魔王様はお怒りでしょうね」
「いえ、お怒りどころか……きっと今頃泣いておいでですよ。きっと魔王様の願いも本当に叶ったと思います」
だといいんだけど。明日ちゃんと謝ろう。
「本当にユリレア……王妃様が帰って来られたのかと思いました」
「そんなに似てた?」
「ええ。魔王様のあの顔をご覧になったらわかるでしょう?」
そっか。私って髪の色や目の色が違うだけで王妃様に似てたのか。だから魔王様はあんなに……。
「……でもわたくしは少し面白く無かったです」
ぷい、と横を向いた綺麗な顔が切なかったので、思わずその腕に抱きついた。いつも温かいドドイルだけど今日はとっても寒い。腕から温かい体温が伝わってきてほっとする。
「良い子のウリエノイル君にもプレゼントをあげないといけないよね」
「何をくれるのですか?」
「えーと、私?」
あ、ご機嫌なおった? にまーっと笑ったね。
「じゃあ、こちらもプレゼントを」
「何をくれるの?」
何も言わずに自分を指差したウリちゃん。
ふふふ。クリスマスって子供のためだけじゃないよね。
よい子が寝静まった後、ここからはちょっと大人のクリスマス。
銀色の羽根に包まれて、二人っきり。
遠くの空で鈴の音がした気がするのはきっと気のせいだろう。
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