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閑話 - 休園日の朝の王子(ユーリちゃんside)

2015/02/16 10:33

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※ユーリちゃんは喋る言葉は舌足らずですが、頭の中はしっかりしているお子様です

 僕の朝は早い。

 お仕事が忙しくない日はお父様と一緒にねんねするんだけど、でもこの頃忙しくてあまり一緒じゃない。

 昨夜は一緒にねんねしたからうれしかった。

 お父様は優しい。とってもとっても優しい。それに強い。

 でも重い。

「おとうたま、おもちゃいれしゅ」

 抱っこしてくれてたんだろうけど、おててが乗っかってるから重たくて動けない。もう一方のおてては枕になってるし。

「うーん……もう少し……寝なさい……」

 お父様はお寝坊さんみたいだ。僕はもう起きたいのに。きっとお疲れなのだな。でも放して欲しかったのにもっと、ぎゅう~とされた。

「おとうたま?」

 くーくーとねんねの音が返って来ただけでお返事が無い。

「……」

 ずりずりして、何とか脱出した。お父様が少し動いたので、僕の代わりにぬいぐるみのくまさんを置くと、お父様はくまさんを抱っこしてまたくーくー寝てしまった。

 お気に入りのコウモリさん柄のパジャマはお揃い。髪が邪魔になるのであみあみしてあるのも面白い。パジャマと髪の毛はとっても良く似合うと思うけど、この格好は他の人には見せられないから秘密だとお父様は言う。なんでだろう、可愛いから皆に見せてあげたいのに。

 お父様をねんねさせたまんま、僕はお部屋を出た。

「おや、ユーリ様お早いですね。魔王様はまだお休みですか?」
「あい。おちゅかれみたいれしゅ」

 執事のギリムさんが、声を掛けてくれた。ごあいさつに尻尾をなでなでしておく。猫の尻尾はふかふかで気持ちいい。すりすりこねこね。

「あ、あの、それはっ……! あ、ああっ……」

 いつもぴしっとしているギリムさんが、くねくねしてくすぐったそうなのでやめてあげる。

「ユ、ユーリ様、只今お召し物をお持ちしますので」

 顔を真っ赤にしてまだ少し内股になって行っちゃったので、ソファーによいしょと登る。いつも思うけど、お城の家具は大きすぎるんじゃないかな。でも大人には丁度いい大きさなので、僕が小さいんだろうな。悔しいので早く大きくなりたい。

 飛べるから全然困らないんだけどね。

「ちょうら、ねーたんはおきたかにゃ?」

 まだお服を着替えてないけどいいよね。パジャマ見せてあげるんだ。

 廊下をぺたぺた。

「あーあー。おあよー」

 ご挨拶の練習をする。『おはよう』って言いたいのに『おあよ』になっちゃうのは何でだろう。自分ではちゃんと喋っているつもりなんだけど、お口が上手に喋ってくれない。お父様やココナ姉ちゃんにはちゃんと通じるのに、他の人には何度も聞き返されたりするのがイヤ。大きくなったらちゃんと喋れる様になるのかな?

 ドアの前でとんとんする。

 しーん。

「ねーたんもまだねんねかにゃ?」

 鍵は開いてるみたいだから、勝手に入っちゃう。

「誰っ!?」

 起きてた。お着替えの途中だったみたい。姉ちゃんは床にしゃがみ込んでいた。

「ごめんちゃい。とんとんしたぉ?」
「ああ、ユーリちゃんか。鍵開けてた私がいけないのよね」

 お父様やウリおじさんの前では恥ずかしがるのに、僕がはだかんぼ見ても恥ずかしくないみたいだ。一緒にお風呂も入る事もあるもん。女の人にはおっぱいがある。触るとぷにぷにして気持ちいいのだ。

「あら、まだパジャマのままね。コウモリさん? 可愛い柄ねぇ」
「おとうたまとおちょろい」
「……」

 どうしてそんなにヘンテコな顔をするんだろう。

「ま、魔王様もそのパジャマなの……?」
「あい。かみのけ、あみあみちて、このパジャマれすぉ。みちぇてあげちゃいくらいかあいいれすぉ。ひみちゅれすけろ」
「……」

 よろよろと立ち上がって、姉ちゃんはお着替えを済ませた。今日は幼稚園がお休みなので、スカートを履いている。本当はいつもおズボンを履かずにスカートだったらいいのに。

 スカートの中って潜ると隠れられるから面白いのにな。

「どれしゅ、きないにょ?」
「動きにくいからね。さ、ユーリちゃんもお着替えしようか?」

 お姉ちゃんは僕を抱っこして、元のお部屋の方に連れてってくれた。

 お父様の抱っこと違って、女の人の抱っこは気持ちいい。柔らかくてふんわか良い匂いがする。

 お母様というのはどんななのか僕は知らないけど、お友達がお母さん大好きって言ってた。こんな感じなんだろうか。

 ココナ姉ちゃんがお母様になってくれたらいいのにな。

 前にギリムさんにそう言ったら、じゃあお父様とココナお姉ちゃんが好き好きになって、結婚したらお母さんになってくれるかもって言ってた。

 でもどっちもが好きでないとダメなんだって。

 お父様は姉ちゃんの事が好きだ。見ててすごくよくわかる。僕の本当のお母様の事が大好きだったから、他の女の人はどうでもいいって言ってたけど、ココナ姉ちゃんは特別みたい。

 でも姉ちゃんはどうなんだろう? 幼稚園の女の子達はウリおじさんといい感じだって言う。いい感じって意味はわからないけど、お父様の事は嫌いなのだろうか。

「ユーリ様がお召し物を用意している間に出て行かれましたから」

 ギリムさんがちょっと怒っている。顔はにこにこだけど、お耳がちょっと垂れてて尻尾はピンってしてるときはご機嫌が悪い時だ。

「ねーたんにパジャマみせたかったらけらぉ」
「お気に入りですもんね。魔王様と……いえ、何でも」

 ギリムさんはなんで姉ちゃんに説明してあげないんだろう。


 お着替えして、起きて来ないお父様を放っておいて朝御飯を食べる。

「おはようございます、王子」

 あ、ウリおじさんだ。ウリエノイルって名前を知ってても僕のお口では言えないので姉ちゃんと一緒でウリちゃんでいい。おじさんって言ったら嫌みたいだ。「せめてお兄さんと言いましょうか?」ニコニコ顔で言われたのに、なんか怖かった。

「ウリたんもあしゃごあんいっちょたべお」
「ありがとうございます。魔王様はまだお休みですか?」
「あい。おちゅかれ? くまたんだっこちて、ねんねちてましゅ」
「……」

 なんか僕、変った事言った? ウリちゃんの口の端がぴくぴくした。

 一人で朝御飯を食べるのは寂しいけど、こうして一緒にいてくれる人がいるので嬉しい。

 僕、お野菜もちゃんと食べるし、ミルクも玉子も食べるよ!

 ニコニコして二人で僕を見てるお姉ちゃんとウリちゃんは、仲が良さそうだね。お父様ももっと頑張って欲しいよ。

 朝御飯が終わって、ギリムさんが淹れてくれたお茶を飲みながら二人は何かお話してる。僕も甘いのいっぱい入れてもらって、お茶を飲みながら、今日は何をして遊ぼうか考えてた。

「……おはよう」

 お父様が起きて来た。

 もうすっかり着替えて、髪の毛も解いてある。

「魔王様、おはようございます。お先にいただきました」

 姉ちゃんとウリちゃんが立ち上がってお辞儀している。何故か姉ちゃんは笑いを堪えているように見えるけど、気のせい?

 そうだ、お父様の前であまり姉ちゃん達が仲良くしているのを見せたらいけない気がする。僕だって気を遣うのだ。

「ねーたん、いっちょあしょぼー」
「そうね。すみません、魔王様。ユーリちゃんと遊んで参りますね」

「おや、もう行ってしまうか」

 あ、お父様がちょっと寂しそう。

「でも魔王様、親子でお揃いのパジャマなんて素敵ですわね。とても可愛い柄で驚きましたけど」
「……」

 姉ちゃんは優しいな。だからかな、お父様が赤くなってる。

「添い寝のくまちゃん、新しいぬいぐるみも取り寄せますか?」

 ウリちゃんも気を利かせてくれたけど、お父様は何だか難しい顔をした。お気に入りのくまさんだけど、今日みたいにお父様が抱っこするとすぐにボロになっちゃうから、新しいのはうれしいのに。

「ユーリ、お前は何を皆に話したのだ?」
「んー? ひみちゅ?」

 何だかよくわからないけど、お父様は不機嫌みたいなので、姉ちゃんとお部屋を出た。

「何して遊ぼうか?」
「おしょと! はたけいっちぇ、わははにごあいしゃつ」
「よーし、じゃあジラソレのところに行こう」

 今日もとってもいいお天気。

 幼稚園がお休みでも、きっと楽しい一日になるよね。

 早く姉ちゃんがお母様になってくれたらいいのになぁ。そしたら今度は三人でお揃いパジャマでねんねするんだー。

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