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期間限定短編集 - 秋~魔王カボチャの日~

2015/02/10 11:14

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「どう考えても異常ですよね。ってか昨日は手のひらサイズでした」
「異常でもないですよ。この品種は一晩で大きくなるんです。でもこれはまだ小さいほうだと思いますけど?」

 大慌てのエイジ君に、ウリちゃんが冷静に答えている。

 魔王城横、畑の島の片隅にオレンジ色の巨大な塊が一夜にして出現した。

 正体はカボチャである。魔王カボチャだそうだ。確かに日本でも食べても美味しくは無いが大きくなるこんな色のカボチャはあった。大きさを競う大会なども催され、大きい物になると大人の体重と変わらない物もあった。それに他の奇想天外な魔界の農作物の中ではまだマシな見慣れた姿をしているが……エイジ君が驚くのも無理は無い。

 デカすぎるっ! 多分直径五メートルはあるのではなかろうか。高さもそのくらいあるし。小さな家一件分はありそうだ。さながらオレンジ色のドームとでも申しましょうか。

「こ、これで小さい方って……」
「今までこの畑で出来た最高が高さ三十二ウルでしたから、二回りは小さい。まあ、今年は雨が少なかったですからね。仕方が無いです」

 三十二ウル……八メートルの高さのカボチャ。くらくらするね。

「これ、食べられるのですか?」
「はい。中は真紅でとても甘くて美味しいのですよ。二年に一回、この時期にはこれで焼き菓子を作って、町に魔王様が直々にお配りになられるんです」

 季節は秋。暦は大体同じなので、そろそろハロウィンの時期ですね。

 十月三十一日。仏教徒の私にはあまり縁は無かったが、外国では仮装したりパーティしたり、お菓子くれなきゃ~って子供達が家を回ったりするんだよね。万聖節の前夜祭でしたっけ?

 ハロウィンといえばカボチャだよね。この大きなカボチャでランタンを作ったらどんなにすごいものが出来るのだろうか。

「どうでもいいですが、こんなに大きくて重そうなもの、誰が収穫を?」
「魔王様がおいでではないですか」

 あー、なるほどぉと、思わずエイジ君と声が揃った。

 そうか、あのでっかい魔王様からすればさほど大きなカボチャでも無いという事か。や、でも流石の魔王様にも八メートルは大き過ぎるよね。大体身長が六メートルくらいだもの。力もお強いから大丈夫なのかな?

 魔王様に農作業やらせるのもどうかと思うけど、歴代魔王の大事な仕事の一つなのだそうだ。だから魔王カボチャ。うん、納得した。

 とはいえ毎年では無いし、やや内容は違うにせよ、こちらにもハロウィンの風習があることが判明した。魔喜祭って言うんだって。またの名を魔王カボチャの日。

 昔は二年に一度、魔神様のお力で魔界と余所の世界が繋がる日だったそうだ。今は繋がりはほぼ無いが、風習だけは残っていてあちこちでお祭りも開催されるのだと、ウリちゃん先生の説明。

 そういえば魔女や妖精、化け物が……って向こうの世界で言うところをみると、ひょっとして繋がりの出来る日に、魔界の住人がこっそり遊びに行ってたのかも。それとも一夜だけ迷い込んだ人間がこちらの様子を見て言い伝えで……と思ってみる。

 そう思うととても奥が深いな、ハロウィン。

 幼稚園の子供達が色々な格好で「お菓子くれなきゃイタズラしちゃうぞ~」とか言いながら歩いているのを想像してみた。仮装の必用は無いかもしれないが……ううっ、非常に可愛いではないか!

 これはぜひ見てみたいなということで提案。

「幼稚園でもパーティしよう」
「それは楽しそうですね」
「で、このカボチャ、お菓子に使うのは中身だけでしょ? 上手くくりぬいて外側をちょうだい」

 私の言葉に、エイジ君はぴんと来たようで。

「まさか、このカボチャで……」
「うん。カボチャお化けを作ってみよう。子供達大喜びだよ」

 中に入れちゃうよね~。わくわく。

「魔喜祭は三日後です。それでは早速準備しましょう」



「ふむ。小ぶりだな、今年は」

 腕まくりで気合満々に畑においでになった魔王様。

 目の前で大きくなったり小さくなったりなさるのは、もう少しは見慣れてきた光景だが……密かに大きくなるときにバリバリって服が破れたりしないのだろうかという、素朴な疑問。

「毎度服が破れて素っ裸も……ココナさんは見たいですか?」
「み、見たくはないけどっ」

 ウリちゃんの意地悪。微妙に見てみたい気もしなくもないが黙っておこう。そういや、羽根の出し入れしてる人もいるが服に穴が開いてるわけでも無いし。原理は説明してもらえなかったが、ツッコミを入れてはいけないことなのだろう。

 さてカボチャの収穫だ。

 魔王様がチョップ(?)なさると、すぱっとカボチャは蔓から切り離された。便利な手だなぁ……と見上げていると、魔王様が動かれた。

「どいていないと下敷きになりますよ、ココナさん」
「は、はいっ」

 むう、ズルイなエイジ君もユーリちゃんも。最初から飛んで見てるし……と思ってると、ウリちゃんが抱えて一緒に飛び上がってくれた。

「続きは広場でやる。城の者を集めろ」

 すっごい重そうなカボチャをひょいと肩に担いで魔王様がズシンズシンと足音を立てて移動された。

 待ち構えていたように、スコップやツルハシ、いくつもの篭を持ったゴブリンさん、グレムリンさん、厨房の皆さんが城の広場に集まる。なぜか皆白装束。そして私達も全員割烹着みたいな白装束に着替えました。いつの間にやら魔王様も真っ白のお召し物に。でっかいままですけど。

「これは魔神に捧げる儀式だからな」

 なるほど。魔界でも神事は白なのですね。意外です。

「何時もは半分に切るのだが、形を残したいと言う事であれば上を薄く切り取りくり抜けばよいのだな?」
「すみません、お手間をおかけしまして」

 再びチョップというか手刀をつくって魔王様が腕を振るわれると、上の方に蓋みたいに切り目が入った……のはいいけどっ!

 ぶしゅっと飛び散った真っ赤な液体。それはまさに血の色。白装束の魔王様は返り血を浴びたみたいにとんでもない事になってます。周りにいた人達も血の雨を浴びたみたいですっ。

 ひいいいぃ! なんて恐ろしい光景!

 生贄の代わりだそうで、白い着物を赤く染めれば染められるほど、二年間いい事があるというおまじないらしく、小ぶりだが汁気の多かった今年のカボチャは好評のようです。流石は魔界、舐めたらアカンね。

 ……そして広場は奇声飛び交う修羅場と化した。

「こんなものでいいでしょう」

「おもちろかったぉ!」

 スコップで掘り進め、果肉を綺麗にくりぬいたカボチャの横で暫し休憩。

 果肉は意外と硬くてカボチャって感じだった。続々と厨房に運ばれ、これから加工するらしい。でっかい種もいっぱいあったが、やはり食べられるそうで、大事に干しておくんだとか。

 ウリちゃん、まさに殺戮の堕天使って感じに髪も手も真っ赤に染まってるね。エイジ君もユーリちゃんも血のお風呂に入ったみたい。人の事はいえないけど。一番怖いのは魔王様ですけどね。その血みどろに見えるお顔で満足げに笑わないで下さい。恐怖の大王にしか見えません。

 無事神事が終わり、皆が何事も無かったかのようにそれぞれお風呂に入って綺麗になった後、魔王様にこういう感じにと絵を描いて説明した。

「ホボルの山にひっそり棲む小さな魔族にそっくりだな。そういえば魔喜祭の時はあちこちに悪戯に出かけるそうだ。面白いな」

 いるんですね実際に。それは楽しいですね。

 明日の朝から魔王様とエイジ君でランタンを作ってくれることになった。私とウリちゃん、ユーリちゃんで幼稚園の方の計画を練る。

 元々骸骨男や獣人、植物魔人なわけで、仮装の必要は無い様にも思われたが、折角なんで皆で仮装しましょうという事になった。先生もみんな。ついでに魔王様がお菓子を配られるのをお手伝いする事に。普通はお菓子をもらって歩くのだが、これもまたいいかも。


 そして来ました、魔喜祭(ハロウィン)の日。

「な、なんともまたその衣装は……」

 魔王様とエイジ君が絶句してます。

 マーム先生監修の下、私も仮装しておりますが……少し露出度が高くないでしょうか? 背中に蝶の羽根をつけた妖精さんの格好なんだけど、透けそうな虹色のワンピースは膝上二十センチあるでしょうか。しかも肩も何も出ちゃってますし。

「刺激的すぎます! 胸に谷間は出来なくとも、脚が出すぎです! 駄目ですっ、ホラ、エイジさんが鼻を押さえておいでです。見せないで下さい他の男に」
「……胸無くて悪かったわね」

 そういうウリちゃんの格好もどうかと思いますけど? なぜ真っ白の着物? しかも女物。ハロウィンというよりお化け屋敷ですよ?

「ココナさんの国の文献で見たんです。人を魅了して凍らせる妖怪?」
「それ……多分雪女だわ。女装だよ」

 しまったぁとか言ってるけど、似合うのでいいんにしとこうよ。

 エイジ君は顔にツギハギ書いて杭みたいなの首についてるのはフランケンなんだね。メイア先生は真っ黒な服で箒に乗ったとんがり帽子の魔女。マーム先生は背中に蝙蝠の羽みたいなのつけて鱗のペイントでドラゴンですか。下半身ホンマもんなんでリアルです。

 魔王様? 魔王様はこの後のお仕事があるので正装なだけで普通です。

 お家でそれぞれ仮装してきてということで、続々と園児もやってきます。

「おかちくれなきゃ、いたじゅらしゅるぉ~」

 黒い服に長髪カツラ、頭に角をつけて、ユーリちゃんはプチ魔王様だ。

「ああっ、なんと愛らしい……!」

 魔王様、悶えてます。親バカ炸裂してますね。気持ちわかるほど可愛いですけど、傍から見てると縮小コピーなんですが。

 あ、巨大なお姫様もおいでですね。巨人族よっ君、なぜドレスなんだ。

「おかしゃんに……着せられ、た」

 よっ君は恥ずかしそうに涙目ですが、美人ですよ。ママ、グッジョブ。

「お菓子はいらないけど、血、吸わせてぇ」

 てんちゃん、キキちゃんのヴァンパイア少女達は魔女っぽい黒いケープにおリボン。良く似合うね。言ってる事がすごく怖いけど。

 かー君とベンちゃんを見て一同固まる。

「どぉ? かっこいい~?」
「う、うん……」

 うねうね蠢く蔦に腕が四本、幼児の顔が二つ並んだ不気味この上ないホンモノのモンスターが出現した。所々に真っ赤なお花が飾ってあるのが一層怖い。要はかー君がベンちゃんを蔦で絡めて抱っこしてるだけなのだが……植物系魔族、合体技で来るとは。恐るべし。

「……萌えだね」

 ゆきちゃん、双子ちゃんの猫族の娘さん達は何ゆえかメイドさんのような格好。ホンモノの猫耳に尻尾の幼女メイドさんって、電波系のお兄さん達がいたら大変な事になりそうだよ。

 みいちゃんはママの真似でしょうか。勇ましい女戦士の格好です。これも萌えだね。

「どちらさま?」

 灰色の髪をレゲエの人みたいにいっぱい編みこんで、リボンをつけた子がいる。もじもじしてるのがすごく可愛いけど、こんな子いたっけ?

「も、モナークれす……」

 もふもふの雪男もっちゃん! もっちゃんのお顔初めて見たよ、先生! 服がすごく普通なのに一番違って見えるってどう言う事?

 くーちゃん、あきちゃんなどの竜族の子と半鳥のきらちゃん達は、白い布かぶってふわふわ飛んでますね。リアルなお化けちゃん。もはや仮装の必要の無い蜘蛛のマコちゃんやスケルトンのまー君達はちょっとお洒落してきた感じ。蝶ネクタイにスーツのスケルトン、ある意味すごい。

 子供達は巨大カボチャに入って準備完了。

 さあ、魔王様と町に行こう!


「元気で過ごせよ」
「有難き幸せ」

 子供達が持ってる篭から、魔王カボチャを練りこんだクッキーが入った包みを一つづつ配って歩く魔王様。夜の町、後ろには仮装した私達と子供達がぞろぞろ。その最後尾にはあの巨大カボチャで作ったランタン。二匹の通園用ルウラが縄をつけて引っ張ってます。中では光りふくろうさん達が一生懸命目を光らせているので、仄明るい光をくりぬいた目と口、三角の鼻から発してて、とても素敵。

 魔王様にクッキーを渡された町の人達は、これから二年元気に過ごせるんだって。今年は可愛い行列も一緒だから、皆とても嬉しそう。そのお返しにと次々と子供達にお菓子が手渡される。

 歩き疲れた子はカボチャの中で休憩。もはやランタンと言うより移動式の小屋。

「わー、いっぱい!」
「良かったね。楽しいね」

 大体大通り沿いを配り終えて、子供がはぐれていないか人数確認。

 えっと、ひまわり組十人、バラ組十人、スミレ組九人だから……みんないるね。って、え? 三十人いるよ?

 こんなカボチャ頭の見慣れたハロウィンの仮装した子いたっけ?

「あーバレちゃった」

 きゃはははは、と可愛い笑い声を残して、すうっと消えた三十人目。

「ふふ、ホボルから遊びに来てたのですね。言ったでしょう、魔喜祭の日にはあちこちに悪戯に行くって。可愛い悪戯ですね」

 ウリちゃんは結構早くから気がついていたみたい。ちゃっかりお菓子をいっぱいもらって行ったけど、ホント可愛い悪戯。

 また二年後にも一緒に遊ぼうね。カボチャ頭の魔族さん。

 素敵な思い出がまた一つ増えたね。


 楽しいお祭りの夜だった。

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まいるどタブレット小説 Ver1.13