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ホボル王城にて

2015/06/15 13:04

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「もっ……と、もっと奥っ……!」
「こうか?」
 自ら奥へと誘うよう腰を振る火龍族の女に請われるがまま、突き上げる。
 背中は固い鱗に覆われているのに腹側と腿の内側は柔らかく滑らかで弾力のある肌。局部もよく締まり加減は良い。龍の血を引く魔族は丈夫で何度イかせても壊れないからやりやすくて好きだ。新しく入った女で今日初めて召したが、なかなか手馴れている。
 もっと感じろ。もっと快楽に溺れ、吾に口から摂る以外の糧をもたらせ。
 飢えているのだ、常にこの身は。
「あ、ああぁ……もう、もう……」
 荒い息遣いと、こと切れそうな裏返った声。女がそろそろまた絶頂を迎えようというその時。
 自分と女とを繋ぐ部分から聞こえていた艶かしい水音と己が身を打ち付ける音が急に小さくなった。そして心地良く感じていた肉の抵抗もまた。
「え?」
 窓から一条差し込んできた光に照らされ、女が目を見開くのが見えた。
 ああ、忌々しい陽の光。今日も夜が明けてしまったか。
「時間切れだ」
 先程まで覆いかぶさっても己の顔が女の真上にあったのに、今真下は臍の辺り。しかも手を広げて乗っかっている形だ。何とか入口のあたりにひっかかったままだったモノを抜くと、ぽちゅんと情けない音を立てた。
「残念でしたわ。もう少しで違う世界が見えそうでしたのに」
「むぅ……」
 夜明け。
 夜の国の王たるこの身が姿を変える時間。
 片手で翼竜を持ち上げる腕も、万里を駆けても疲れぬ脚も、一晩に百人の女を貫こうと萎むことのない自慢の己自身も全てが小さくか弱く変わる。
 生まれて数年しか経っていない幼子の姿に。
 寸止めされ不完全燃焼という顔の女が、股を閉じて見上げている。
「その姿もお可愛らしくていらっしゃいますが……」
 ちょん、と未練がましくつつかれたが、この女の人差し指ほどしかないモノで何ができよう。
「面白くない。吾は寝るぞ」
 散々汚したシーツだが構わず引っ被って丸くなる。だが女は添い寝するようにまだいる。それどころか背中をとんとんと優しく叩くものだからちょっとうっとりしてしまったではないか。
「はい、いい子はねんねですよー。子守唄を唄いましょうか?」
「捨て置け! とっとと服を着て部屋に帰れ!」
 枕を投げて叫んでみても、口から出るのは甲高い赤子のような声だけ。怖がるでもなく女は肩を竦めただけで、裸のまま笑みを浮かべて去っていった。
 面白くない。本当に面白く無い。
 まだ百にも満たぬ小娘に子供扱いされるなど。いや、それは置いておいても、ここ最近こういうのが何度もある。果てる前に終わるなど自信喪失するではないか。

 それに……また飢えは完全に満たされなかった。


 ここは魔界の七つの国の一つ、夜の王が治める国ホボル。
 夜の国と言っても日は昇り朝が来る。闇系の魔族である多くの国民は日の高い間は眠って過ごし、暗い時間に活動するが、他国との交流も盛んになった現在、朝と昼の生活は確実に逆になりつつある。ましてや王たる身にとっては、昼間眠っていては仕事が出来ない。
「夜王様、最近ご機嫌が悪いですね」
 王の間で他国の使者への謁見の執務を終え、ほっと一息ついていると現在の椅子であるアルが声を掛けてきた。主が降りるまで椅子が喋るのは厳禁なのだが、ここ百年の間で一番座り心地が気に入っているのが今のアルなので構いはしない。
 椅子。そうアルは椅子だ。生きて話をするが椅子である。
 このホボルの王が座る椅子は生身の若者である。国民の中からより優られた、最も容姿が美しくて強い魔力を持った若者に与えられる特別な職務、それが王の玉座であること。
 昔は美女から選んでいたそうだが、女は策略を巡らすのが男よりも巧い。この魔界の中でも最も闇の民……吸血鬼、夢魔の類の多いこのホボルでは、他者を陥れ自らの地位を手に入れる者が多かった。本来それが正しい生き方であるので責められはしないが、この魔界においては魔族と敵対する人間と姿形が近く、最も長く人間界に同族が居た種族。人間側に寝返るものも多い。七つの国の王は命を狙われることも多く、不用意に権力を引き渡してしまえば魔界の主たる魔王様より下賜された国を混乱に陥れ、ひいては魔界そのものを危険に晒す。それゆえに身を安全に保つために、護身も兼ねて男になったのだ。
 ちなみに暗器などを隠し持つことが無いよう、着衣は一切認められない。女はそれでも隠すところがあるので、より一層男で固めるようになった。
 まぁ、つまりこの国の王は素っ裸の男の膝の上に座っているわけだ。たまに初めて来た他国の使者などは目を丸くするが、これが仕来りなのだからやめるつもりはない。反応が楽しいというのが正直なところである。
 滑らかな褐色の肌と金の髪、紫の瞳の美しい椅子、アルは高位ではないが夢魔の血を引いている。つまりは同族。程よく硬い筋肉が座っていて心地よいから気に入っている。
 艶やかに光る肘掛け……アルの大きな手に自分の手を重ねてみる。青白い肌の丸い小さな手。 昼間の姿でいると、吾など親の膝に座ってあやされている幼児にしか見えないだろうな。
「腹が減っているのに機嫌のよい者などおらんだろう」
「お食事はお召し上がりになりましたよね?」
「そっちの空腹ではなく、魂が食い足りんのだ」
 始祖の代からまじりっけなしの淫魔である夜王の家系は性欲が主食。正確に言うと強い快楽を得た時に放たれる特別な魔力を吸収して糧とするのだ。
 現在この城には五十ばかり美女を集めてある。父王の代は正妃を迎えるまでその倍はいたし、わざわざ人間の国からも女を連れてきていたという事だが、多くなると召された召されないで女同士の軋轢もあるらしく、面倒だから少なめにしてある。名前も顔も覚えられんでは話にならん。まあ今でも顔は知っていても名を知らぬ者もいるが。最初のうちは皆新鮮でよい魔力を提供してくれるのだが、慣れてくるとそう何度もはイってくれん。加えてこの身の変身だ………幼い姿の方を知った者は何かしら遠慮があるように思う。それに人間は魔族よりも美味しい気を出してくれるが、寿命も短く脆いのですぐに死んでしまうからつまらない。
「また側女を入れ替えるよう命じますか?」
「それはいい。……のう、アル。この昼間体が小さくなる魔法はもうずっと解けんのかな?」
「私では詳しい事は。しかし先代魔王様が夜王様のためを思ってお懸けになった魔法なのでしょう? 私はこのままでよいと思うのですが。軽くて……いや、愛らしくていらっしゃって、昼間もこうして陽の光を浴びても動き回れるではありませんか」
 正直だな、アル。夜の姿の時はこちらのほうが背丈もあって重いからな。
 自分でも知っているのだ。この魔法はそう簡単に解けないことは。
 歴代のホボルの王の中でも稀に見るほどの力を得て生まれたというこの身。まだ魔界が混乱の時代に魔王と共に戦い、今の安寧を築いたという七人の臣下は、それぞれ領地と王の名を与えられた。そのうちの一人であるこのホボルの始祖夜王と自分は一番似ているのだそうだ。代を経る毎に肌の色、髪・瞳の色、羽根の有無などまちまちであったが、この薄青の肌と夕闇の紺の髪、金色の目、黒い羽根を全て兼ねた者はいなかった。父は紫の髪だった……。
 それゆえか、自分は先代の魔王様に甚く気に留めていただき、姫君と跡継ぎの王子が誕生なさる前は我が子のように可愛がっていただいた。
 だが血が濃いという事は性質も始祖と似ている。強い魔力を得た代わりに、極端に陽の光に弱い闇の種族の特徴も濃く出てしまった。あまり長く陽の光を浴びると命に関わる。幼いうちは闇の属性も曖昧で体が小さいので陽を受ける面積が少ない。しかし大きくなったら昼間は顔を含め全身を魔法の布で覆うか、暗い部屋で眠るしか無いだろうと言われていた。

『インクは本当に可愛らしくて大好きだ。隠してしまうなど勿体無い。いっそ、ずっとこのまま幼い姿であれば良いものを』

 あの黒い闇のごとき髪を思い出すだけで胸の奥をぎゅっと何かに掴まれる気がする。
 思えば初恋なのかもしれない。親以外にこの真名を知っていた唯一人のお方。子供ながらに魔王様のため、好きだと言っていただいたこの幼子の姿のままあろう、自分でもそう思ったのだ。魔王様がお目覚めの昼間はずっと子供のままでいたいと……自分の望みと魔王様の言葉は強い変身の魔法となった。二十年ほど前、丁度王子が百になられたのを期に代を譲り、奥方の待つ冥府に旅立たれたが、未だその魔法は解けず記憶にも留まったまま。
 自分が望んだ事とはいえ、今となっては淫魔として致命的な気がする。
「……わかっておってもな、こうも制限があっては」
 気心がしれた相手なので、今朝の事も含め最近時間切れで未発に終わる事が多いと正直に告げた。
「それは辛いですね、同じ男としては心中お察し申し上げます」
「そうじゃろう? まあこの際男の自尊心は置いておいても、こうも物足りなかったらおかしくなりそうだ。何か良い方法が無いものか」
 椅子に相談するのもどうかと思うが、うーんと唸ってアルが考えこんでいる。しばらくして彼は何か思いついたみたいだ。
「大事な部分だけでも大人の大きさで留められるよう一部だけ魔法を解いていただくとか」
「……」
 アルよ、さも良い事を思いついたように得意気に言ったが、それってどうなのだろうな?
「そなたも知っておろうが。先代はともかく、今代の魔王様はまだお若く、稀に見る奥手……いや高潔なお方でいらっしゃる。まさか女と交わるのに不便だから、ここだけ魔法を解いてくださいとお願いする勇気はない」
 それ以前の問題だと思わなくもない。この三・四歳の子供にしか見えぬ小さな体に、一部だけ大人のものがついていたら女が引くのではないだろうか。自分で言うのも何だが、本来の姿のモノはかなり立派なほうであると思うのだ。膝くらいまでのモノをぶら下げた幼児……考えただけで気味が悪いわ。
「そうですよね、ちょっとお願いは出来ませんよね」
 一度だけ所要でドドイルの魔王城に、椅子としてついてきたアルがぶるっと身を震わせる。あの時はだけは服を着せていたが、現魔王様に無表情に睨まれたのを思い出したようだ。
 ただ単に異常なほどの子供好きの魔王様が、自分を常に膝に乗せているアルを羨ましがられただけなのだが……アルは命の危険を感じたと言っていた。
 それは置いておいて。
「変身の魔法を解くのは無理でも、もっと淫らな気が欲しいのだ」
 この満たされない感じだけでもどうにかしたい。魂の根源が空腹、そんなこの飢餓感。
 またうーんと考えこんでいるアルの膝から飛び降りる。『椅子』とはいえ、アルだって流石に中腰でいるわけでなく小さな腰掛けに腰をおろしているので、正確に言うと椅子に張られた皮と中綿という役割だな。座ったままはキツイだろう。公務が無い時は休ませてやらないと。
 膝から降りれば対等な個人として話が出来る。主と臣下とはいえ普通に話せと言ってあるし、この姿を見ても態度を変えないのは彼だけだ。もはや友達感覚だが、玉座は大臣達よりも位も上になるので文句を言うものもいない。
 飲み物だけ持ってこさせて、謁見の間から人払いをすると二人っきり。
 職務が解けたので、ずっと同じ体勢だったアルは床に足を伸ばして座った。その横にちんまりと一緒に座ると二の腕の高さまでも無いこの身。
「先程の話ですが、ぶっちゃけた話、夜王様は女を抱いていて気持ちいいですか?」
「……まあ、それなりには」
 気持ちいいから嫌いではない。だが最近は相手を悦ばせる事を優先するあまり、自分的には刺激が足りないと思わなくもない。
「変な話ですけど、女の淫魔は相手の精と気を同時に得るでしょう? それに自分も快感を得る。男も快感は得ますがどちらかというと与えるほうが大きいじゃないですか。だから飢えるのでは無いでしょうか」
「なるほど……」
 それは思いもつかなかった。そうか、気を得られても精を吐く分消費が激しいというわけか。
「気を集めて吸収するより精は濃厚に淫気を含んでいます。ただ、そのままより自分も強い快感を得ることによって体内で錬成されて何倍にもなるそうです……というのは女から聞いた受け売りですが」
 体内で何倍にもか。なんか知らんがすごそうだなそれは。確かに同じ種族の女は特に事後、大変満ち足りた顔をしておる。そういう事なのか。
 だがこの身は男。今更性別を変えようにも……いや、待て。
「女になる……か。それはありかもしれん」
「はい?」
「男同士で交わるものもおろう? いくら好き合っておっても子を成すわけでもないのに酔狂なことよと思っておったが、気持ち良いからではなかろうか」
 つまり抱かれる側になれば、自分も快感を得られて精も体内に得られる。一石二鳥ではないか。
 別段子孫繁栄に逆らう同性での交わりに倫理を問うほど野暮ではない。というか、淫魔が何を躊躇する事があろう。女のフワフワした体を抱くのが気持ちが良いという理由だけで女としかやったことがないだけで、興味が無いわけではないのだ。
 ……考えてみたら初めて好きになった相手は魔王様であるわけだし。
「アルは男を抱いたことがあるか? 挿れられた事は?」
「私は挿れる方なら……あ、いえ、無いです。でも慣れるととてもいいと聞いたことは」
 ほう、今誤魔化したが挿れるほうはやったことがあると白状したな。何かしらちくっと胸に刺さったのはきっと気のせいだ。
 ふぅん……初めてではないのならいいか。試してみようではないか。
 慣れるととても気持ちいいのか。これは期待大じゃな。
「早速試してみよう」
 引きずるほど長い服の裾を捲り上げて下履きも脱いで尻を突き出してみた。
「ちょ、ちょっと? 今ここでですか!? というか、私とですか?」
 元々一枚の着衣も無いアルだ、脱ぐ手間もないし手っ取り早い。
「思い立ったが吉日じゃ。ほれ、誰もおらんし挿れてよいぞ?」
「よいもなにも……」
 むぅ。アルが立ち上がり後ずさって逃げおる。なんだか微妙な表情だな。
「なんじゃ、吾では食指も動かぬか? 吾の事は嫌いか?」
 このぷりぷりの尻ではお気に召さないのかな? だがこうと決めたら吾は絶対に引かぬ。
「いやっ、その……嫌いじゃないですけど! それとこれとは……」
「嫌いでないならなぜ逃げる?」
「ほ、ほら。何事も準備をいたしませんと。せめて夜まで待たれたほうが。他の美しい男でも用意させますゆえどうか私は勘弁を……」
 準備か。そうか、女のように濡れる場所ではないから油か潤滑剤のようなものは必要かもしれない。あまり綺麗でもないので中も浄化しておいたほうがいいかな。
 いやしかし、他の男を用意ってのは聞き捨てならん。
「他の男の用意などいらん。お前がよいのだ、アル」
「夜王様……」
 勢いで言ってしまったが、なんというかその……自分でも凄いことを言ってしまった?
 アルは目を見開いて一旦抵抗をやめたが、またすぐに更に後退りはじめた。
 それでも、もう一つ気になることがあるのでこちらだけでも試さねば気が済まん。
「ではせめて味見させろ」
「え?」
 壁際まで逃げていたアルの腰に勢いよく抱きつく。立つとアルは結構背が高いので臍の辺りまでしか自分は背がない。つまり顔の目の前にナニがあるわけだ。
 むぅ。結構立派なものを持っているが勃ってはおらんな。怯えているのか? 玉がひゅっとなってるな。まあいいや、すぐに……と、口を寄せるとやんわりと手で隠された。
「お戯れはやめましょう、夜王様」
「戯れておるわけでは無い。本気だ」
 見上げると、困った目でアルが見下ろしている。
 ここはあれだな。淫魔の誘惑。
 今ひとつこの幼児の体では自信は無いが、じぃっと目を見て微笑んでやると大概の大人はメロメロになってくれる……但し、性的にではない方向にではあるが。
「そんな目で……見ないでください」
 効いたかな? 色が黒いから今一つ判り辛いが、赤くなったような気もする。
 とどめだ。折角だからこの見た目も最大に利用せねば。
「これ、ちょうだい?」
 高めの声で言いながら首を傾げてみる。可憐であろう? この必殺技でねだれば拒否出来るものなどおらんはずだぞ。
 にぎにぎ。ほうれ、勃て。
それでもアルのへにょっているモノは元気にならない。身を捩って頑なに拒否しようとするアルに、少し腹が立ってきた。
「なぜじゃ、なぜそこまで嫌がる。正直に申せ」
 もはや半泣きの顔で、アルは首を振った。
「椅子は主に欲情してはならないのが決まり。服を着ていないから皆にわかってしまう。でも本当は辛いのです。私は……私は……だから自制の魔法を……」
 苦しそうに漏らしたアルは壁を滑り落ちるように座り込んだ。
 ああ――――そうか。椅子が主に欲望を抱き、おっ立てていては困るか。
 しかしながら、自制しなければいけないという事は、アルは吾にそれ相当の感情を持っているという事。つまりそういう目で見ているという事だ。
 不思議と嫌だとは思わなかった。むしろ嬉しい。
「アル、自制の魔法をかけていないと吾を見て欲情するのか? この小さい方の姿でも?」
「本当に……本当にすみません」
「別に謝ることは無いだろう? 吾が許す。魔法を解け」
 もう一度顔を覗きこんで誘惑の目で見る。最大限の魔力をのせて。
 観念したのか、アルは小さく呪文を呟いた。魔法解除の言葉。
 自制の魔法を解いた途端、大きさが変わったアルのモノ。椅子の出っ張りの事情など考えたこともなかったが、こうして見るとかなりご立派な物を持っていたのだな。
 背中を壁につけて座り込んだ足の間に割って入っても、もうアルは抵抗しなかった。手で刺激をしてやると、程なく硬さを持ち始めた。
 どんな顔をしているのだろうと見上げると、アルはなんとも切ない顔で見下ろしている。
「……ものすごく罪な事をしている気がします」
 まあ、なんとなくその気持はわからなくもない。淫魔とはいえ、幼い子に手は出さぬ。ぷくぷくで丸いこの小さな手が嬲るのに、成熟しきった男の性器は似つかわしくないと自分で見ていても思う。まさに背徳的……魔界で何を徳とするかは疑問ではあるがな。
「見た目は気にするな。吾はもうすぐ齢二百じゃ。そなたより歳上なのだぞ?」
 十ほどサバは読んだがまあアルより歳上なのは間違いないし。
「いや、しかし……」
「そなたも夢魔の端くれであろうが。ヤッてヤらせてなんぼじゃ」
「そんな可愛らしいお顔で何ということを申されま……あっ!」
 可愛らしいなどと言われてムカッと来たので、ぱくっと先にかぶりついた。ああ、くそっ、この小さい口め。おもいっきり開けても奥までは入らん。
「やめ、て、くださ……」
 息を荒くしてアルが懇願している。いいや、絶対にやめんぞ。
 血管が浮き出るギンギンに張り詰めたモノを、両手を使って扱きながらチロチロと舐めてやると、息を荒らげてアルがのけぞった。こんなナリだが、頭の中は大人の男だ。どの辺をどうすれば気持ちいいのかは心得ている。ただ手も口も小さいので上手くいかないのがもどかしい。
「くっ」
 逆にぎこちないこの動きが刺激になったのか、今にも破裂しそうになってきた。ほんの少し先走りが漏れる先に舌をねじ込んで更に刺激する。
 へぇ、もっと生臭いものかと思っていたが、甘い気がする。そう言えば相手をさせる女が淫魔の精はとても甘いと言っていた。アルも夢魔だ、同じなのかもしれない。
「あ、あ、お口を……汚して、しまい、ます」
「はふぁふぁん、らせ」
 構わん出せと言いたかったが口が塞がっているので発音できない。
 欲しくてやっているのだから今さら何を。逃がすまいとしっかり掴まえて、乳でも吸うように先をちゅーっと吸ってみたのがとどめだったらしい。
「そん、な……んんっ!」
 勢い良く口の中に放たれた大量の生暖かいとろりとした液体。
 ごっくん。少しむせて口の傍から漏れたが飲みこむ。
 おお、蜜のように甘い。
「ああ……私は何ということを……」
 顔を覆い、掠れた声で呟いてアルが項垂れている。ちょっと可哀想な事をしたかなとも思うが、溜めていたのかまだ完全には静まっていない様子。
 良い酒を飲んだ時のように腹の中がホカホカする。濃密な淫気が体を巡るのを感じる。
「いいかもしれんな、これは」
 男の精も良い。かなり満たされた気がする。
 だが口技でイかせるのに抵抗はないにしても、自分は気持ちよくない。これを更に自分も快感を得て違うところから精を摂取し錬成すれば! となるとやはり交わるほうがよいな。
 というわけで、ちちょいと魔法を使ってみた。自分に懸かっている魔法は解けんが、これでも一応この国で一番の魔力の持ち主だ。簡単な魔法は得意中の得意だ。
 まず体内に小さな浄化魔物を転送し、腹の中を綺麗にする。流石に引っ張りだすのは勇気がいるのでまた送る。そして女と使うために寝室に置いてある媚薬入の香油をここに転送。数分の事だったので、壁際にへたりこんで放心していたアルは気が付かなかったみたいだ。
「準備出来たぞアル」
 再び裾を捲ってみる。ぽっこり出た腹の下の自分の小さなものは生意気にも上を向いている。アルのよい顔と声に刺激されたみたいだ。
「……絶対に折れませんね。呆れるより感心します」
 あれだけ出して、まだおっ立てておる奴に言われたくないわ。
 香油の小瓶を渡すと、観念したようにアルが手招きした。
 膝の上に座ると強く抱きしめられる。すっぽり腕の中に収まって、顔はアルの胸に当たる。
 やっとその気になってくれたのかな。
「魔法を解いた責任、とっていただきますよ」
「望むところだ」
「泣いても知りませんからね」
 開き直ったのか随分と口調が大胆だ。ちょっと怒っているようにも見える。なんか目が据わってるし。
「な、泣きなどせぬわ」
 大胆になったのは口調だけでは無かった。ひょいと小荷物のように抱えられたと思うと、うつ伏せに腿の上に載せられた。そしてぺろりと長衣の裾を捲られ下履きをつけていない尻を晒される。突き出した尻に風が当たるのを感じた。
 ……お尻ぺんぺんされる子供の体勢だな、これは。ぺんぺんではなく、するんと撫でられただけだったが。
「まん丸ですべすべのお尻ですね。こんなに可愛いなりをして悪い子だ」
「可愛いって言うな。子供じゃないぞ」
「ではまず指で広げましょうか」
 え、愛撫もなしにいきなり?
 自分がやれと言っておいて何だが少し怖くなってきた。
 うつ伏せになっているのでアルの顔も手元も見えないが、ふわりと芳香が漂ったところから、香油の瓶の蓋を開けたみたいだ。
 程なく冷たい感触が尻に触れた。香油を塗ったんだな。はじめは冷たかったがじんわりと熱く変わってくる。混ぜた媚薬のせい。
「あー……訊いておきますが、中に歯が生えてたり舌があったりしませんよね?」
「生えておらん」
 たまにそういう種族もおるからな。一度清楚な美女の下履きを剥いだら下にも上と同じの口があって、ニヤリと笑われて舌なめずりされた事があった。アルもよく似たような目に遭ったことがあるのだろうか。
 そうこうするうちに、くにくにと熱い穴を嬲られ、つぷ、と分け入ってきたもの。
「んぁ……」
 あまりの性急さに思わず声が漏れる。
「痛いですか?」
「だい……じょ、ぶ」
 そんなに痛くは無いがおかしな感じ。油の滑りを借りて更に奥に入ってくる。
「優しくはしませんよ?」
 指一本でかなりの圧迫感。うう、何だこれ、いーって口を思いっきり両方から引っ張った時のあのつっぱり感の尻版? 気持ち悪いぃ。
 すごく奥まで入っている気がする、臓物を直接触られてるみたいだ。みたいじゃなくて本当にそうなんだろうが。 
「どうです?」
 最初は気持ち悪いだけだったのに、かき混ぜるように出し入れされているうちに何か不思議な感じがしてきた。特に引かれる瞬間、頭の先から足の先までゾクゾクするような感覚がある。これは……。
「気持ち、いい、かも」
 百九十年生きてきて初めて感じるこの感覚。
 媚薬のせいもあるだろうが、指で嬲られただけでここまでとは。
 ここにそそり勃つものを打ち込まれ、あの甘い精を注ぎ込まれたらどんなに満たされるのだろう。考えただけでワクワクする。
 居ても立ってもいられなくなって、指が一旦抜けた際に身を起こし、よっこらしょっとアルの首に掴まって伸ばされた足を跨ぐ。
 女を抱く時、面倒だとこの体勢が多い。自分の重みで入るので楽だから。
 下にはアルのものが上を向いて突っ立っている。
「まだ無理ですって」
「我慢できん」
「知りませんよ」
 そっと腰を下ろす。
 この身は軽いが、助けるように両の太腿をアルが持ち上げた勢いで首に抱きついていた手が離れ、全体重が掛かった。
「!」
 赤い色の光が目の前に広がった気がする。
「い、痛いいぃ……」
 めりめりと体が割られるような痛みに、少し涙が出たのがわかった。
やはり大きさが違いすぎる。先も飲み込めないまま、ぬるりと滑って無様にアルの腿の上に落ちた。ぷにゅっとやわらかい自分の尻が衝撃を抑えるのを感じて妙に腹立たしい。
「ほら、この体では無理でしょう? 夜まで待ちましょうか。そのほうが私も心が痛まない」
「むぅ……」
 アルはわかっててやったのだから更に腹立たしいが、言っても無駄なら体でわかれというところだったのだろう。確かにこのままでは大怪我をしそうだ。
 それでも諦めきれないのはなぜだろう。
 媚薬の熱さにもじもじしている者と、未発に終わって勃ったままの者。お互い祈るような気持ちで日が暮れるのを待った。

 紫の空に濃い紺が差し、遠い山の陰に太陽が隠れて代わりに青い魔神の月が顔を出す頃。
 真っ赤な湯に浸って湯浴みをしていると、手が伸び、足が伸び、髪も伸び、背中の羽根が広がった。何もかもが帰って来る時間が来た。日が暮れた……。
 入った時の倍ほどの背丈になって湯殿から出ても誰も驚かない。側女達はちゃんと身の丈ににあった服を広げ、吾の裸身に頬を染めて待っている。
 うっとりと見る目は、今日は誰が呼ばれるのだろうと心待ちにしている顔。
「今宵は皆ゆっくり休むが良い。誰も吾の寝所に近寄るな」
 羽根を畳んで青い薄布を羽織ると、それだけ言い残して部屋に向かう。後ろでざわざわと女達の声が聞こえたが構わん。
 まだ若干ムズムズしているが、昼間の媚薬の効果はほとんど切れた。それでもこれからアルが来ると思うと、下腹の辺りがほんのり温かい。
 自分がまだ知らぬ快楽というものがあるなんて許せない。そう、これは知的好奇心と魂の飢えをを満たすための実験なのだ。
 ……などと自分を納得させようとしているが、冷静に考えたら別にアルで無くてもいいわけだし、昼間痛い目にあったというのに、なぜここまで思えるのか。
 アルのがほしい。他の男では嫌だ。これは所有欲なのだろうか、それとも……。
 これ以上自分の思いに気がつくのが怖いのもあって考えないことにした。
 程なくして、待ちわびていた扉を叩く音が聞こえ、弾むような気持ちで応える。
「入れ」
 静かに部屋に入ってきたアルは服を着ていた。いつも仕事中が裸なだけに逆に新鮮に見える。
「今宵はよろしく頼むぞ」
「……これから戦の手合わせでもするかのようですね」
 ある意味戦じゃ。大の男が二人寝台で絡まるなど。
 招くとアルがこちらに来たので抱きしめる。昼間は彼の腹までしかないから見上げるだけ。夜はほんの少しだが吾のほうが背が高い。しかしながら肩幅などはアルのほうがしっかりしている。力仕事だからな、椅子は。
 アルも湯で清めてきたのか、とてもいい匂いがする。
「本当に私でよろしいのですか? 椅子ですよ?」
「先にも言った。お前でなければ嫌だ」
 胸の奥がぎゅっとなるようなこの気持は何なのだろう。欲しい、彼が欲しい。
 間近にアルの顔が近づくと、口唇が重なった。
「……」
 いつも性急に求める女達とゆっくり口づけを交わしたことなど無い。ひどく新鮮で何か気恥ずかしかった。
「何を照れていらっしゃいます?」
「て、照れてなどおらぬ」
 見透かされたのが悔しいので、今度はこちらから口を貪りにいく。
 舌が迎えに来て絡み合う。歯列をなぞられ、舌先を吸われるとゾクゾクした。
 気持ちいいな、口づけも。
 少しほわんとしたので、自ら寝台に横たわってみた。
「脱がしてくれ」
「はい」
 ぎし、と寝台を軋ませてアルが上に被さってくる。
 湯浴みの後下穿きも着けずに簡単な長衣を羽織っただけ。紐を解けばすぐに脱げる。
 前を広げてアルが手を止めた。
 考えてみたらこちらはいつもアルの裸しか見ていないが、彼が一糸まとわぬ姿の吾を見るのは初めてかもしれない。
 今は逆。こちらが裸でアルが服を着ている。
「なんて……お美しいのでしょう。この肌も、手も脚も……」
 ほうっ、とアルが息を漏らす。
 自惚れではなく吾は美しいはずだ。他者を惑わし、その淫らな性を解き放たせるために生まれた闇の生き物の王なのだから。しみ一つ無い柔らかな肌も、程よく筋肉の乗った長い手足も、しまった腰も、艶やかな髪も美女にも負けぬこの顔も、全ては淫魔として生きるための武器。
 指先一つ動かすだけで、目を覗きこむだけで魅了出来ねばならぬ。これでも美しさを保つために努力は惜しまない。だから余計に昼間幼子に変わるのが口惜しいのだ。
 仰向けに寝るのに邪魔になるので背の羽根は隠してある。魔力によって出し入れできるので邪魔な時は隠すが、本当は羽根の付け根にも性感帯があるのでちょっと惜しい。
「……よいですか?」
「ああ」
 女のように足を広げられ、無防備に全てを曝け出すとアルが笑った。
「ふふふ、いいですね。とても淫らなお姿です」
 ……アル、いつもは大人しいくせに交わりの時は人格が変わる? それともこれが本当の姿? 言葉で攻めて来る質なのか。
 ゆるゆると体を弄(まさぐ)る手。
 寝台に身を投げ出し、されるがままに任せる。今日は女なのだ、吾は。
 首筋、肩、耳……どこも触れられただけでその箇所が熱を持つ。
「ここは?」
 胸を揉む手。柔らかい乳房があるわけでもないのに面白く無いだろうと思っていたが、片方の突起を指の腹でくにくにと嬲られて、もう片方をちゅ、と吸い上げられてビリと衝撃が走った。その部分でなくて臍の辺りに刺激が来るなんて。
 ぴくりと身を捩ったのがわかったのかアルが笑う。
「初めてでここまで感じるなんて、なんていやらしい体でしょう」
「淫魔……だから……」
 言葉で攻められ、更に体の奥が熱くなる。
 ああ、アルよ、なぜそんなに手馴れてる。男としたことがあるとは仄めかしていたが、結構な手練なのではなかろうか。なのにいつも何食わぬ顔で椅子をやってるなんて。一体どこの誰とこんな事を。そう思うと腹が立つのは嫉妬とは認めたくない。
 ……まあそうだな、アルも同族なのだし精気を喰らうか。そう納得する。
 たっぷり時間を掛けて愛撫され、体中に口付けされてすっかり臨戦態勢になった吾の物。途中で下を脱いだアルのも張り詰めているが、この体を見て感じてくれているのだろうか。
 天井の光魔物に命じて少し灯りを落とし、薄暗くなった室内に香油の匂いが広がる。
 今は大人の姿でも、元々男を受け入れるようには出来ていない場所は、裂けないよう丹念に下準備をするのだそうだ。
 先に一度体験したので、また指を受け入れるのには抵抗無かった。それでも仰向けで足を持ち上げられてされるというのは恥ずかしさも手伝って、思わず顔をそむけてシーツを噛み締めて声を殺していたが、途中でアルに顔を自分の方に向けられた。
「お顔を見せてください」
「い、じ……わる」
 くそっ、気持ちいい……勃ってきた……。
「あっ!」
 ある箇所に触れられた瞬間、稲妻に撃たれたような衝撃に体が跳ねる。
 なんだこれは。こんなの、知らない。
「ここ、いいでしょう? 女が感じる突起、あれと同じですよ」
 探り当てた場所を執拗に嬲られ、ビクビクと体が震え、閉じようにも閉じられない開けっ放しになった口から堪えきれずに声が漏れる。
「あ、あっ、あ……」
 どうしよう、いい、すごくいい! まだ指しかもらってないのにもう出してしまいそうだ。
「昼間のお返しですよ」
 後ろに指を挿れて掻きまぜたまま、アルが口で吾のものを咥える。
 舌で転がされて、昼間やったお返しといった通り吸われる。前と後ろと同時に攻められてあっという間に極まった。
「んん――っ!」
 ……あっけなく放ってしまった。こんなに早くイかされるなんて。
 ごくり、とアルの喉が動くのをぼんやり霞んだ頭で見る。出したのにまだ後ろの指は蠢いていて、間断なく刺激が来る。
「果物のように甘いですね。どこもかしこも本当にいやらしく出来てる」
 舌なめずりする顔が意地悪く笑う。
「とてもいいお顔でしたよ。いつも澄ましていらっしゃる顔が歪むのを見ると気持ちいい」
「いう……な」
 息が上がってまともに喋れない。アルが意地悪だ……しかし、そんな言葉でさえ快感に変わるのが不思議。
「ではこちらもご馳走しないといけませんね。もう大丈夫でしょう」
 ずる、と指が引き抜かれたのさえ感じる。
 わざと見えるように、吾の腰を持ち上げて自分のモノをあてがったアル。
「力を抜かないと痛いですよ」
 そんな事を言われても……。
「んっ……」
 ぷつ、と一番大きな先の部分が入ってしまえば少し楽になったが、指の非でない質量に息が詰まる。
「ほら、しっかり咥えこんでますよ」
 繋がってる。自分が女のように男のモノを受け入れてる……。
「アルは、きも、ち……よい?」
「ええ、とても」
 ゆっくりとアルが動き始めると、もう頭に霞がかかったみたいになってよくわからなくなった。
 時折聞こえる自分の喘ぎ声とクチュクチュいう水音。アルの息遣い。
 なんだ、これ……体がバラバラになりそう。
 女って抱かれてる時、こんな感じなのかな。それとも違う?
 気持ちいいとか、そんなのはもう通り越して、すごいとしか言いようがない。
 激しく抽挿を繰り返すアルの動きに翻弄され、かくかくと首が前後に揺すられて、指で触れられた時に感じた部分を擦られる度、また体が弓のように反る。
 ああ、またイキそう――――。
「や……やあぁ……!」
 自分が無意識に叫んで首をイヤイヤと振っているのがわかった。きつく閉じた瞼の裏に、ちかちかと眩い星が飛ぶ。
「ああ……」
 アルの極まった声とともに、一際深く突き入れられた奥に温かいものが注ぎ込まれる。その熱にまた体が反った。
「はぁっ!」
 自分もまた吐き出したのかな……もうよくわからない。
 身を支える寝台が無くなり、空の上にまで持ち上げられたかの如き浮遊感と、直後に高みから突き落とされるような墜落感。

『もう少しで違う世界が見えましたのに』

 女が言っていたな。ああ、今わかった。
 確かに今、明るい色彩に満ちた、違う世界が見えた……そう思いながら墜ちる。ねっとりとした優しい闇の中に。
 ほんの少し意識が飛んでいたのか、気が付くと目の前に心配そうなアルの顔があった。 
「大丈夫ですか?」
「ん……すご……かった」
 体が怠くて重い。やっと絞り出した声はかすれていた。
 本当にすごかった。こんなの知らなかった。いつも女を抱いて絶頂を迎え、精を吐いた後は余韻に浸りながらも頭の隅はすぐに冷めていくのに、冷めていかない。
 それに、今まで感じたことの無い充足感。こちらも沢山出したにもかかわらず、体の奥深くにもらった精気と自分の気が混ざり合い何倍にも膨れて飢えていた魂を満たしていくのを感じる。
 おなかいっぱい……。
 赤子は沢山遊んで乳で腹が満たされると眠くなるが、今、赤子のように眠い――――。
 夜明け前の薄闇の中でアルが微笑んでいるのがわかる。霞んできた目をこすってあくびを漏らすと、優しく乱れた髪を撫でられた。気持ちいい……もっと撫でて。
 今は大人の姿なのに、昼間よりも余程子供みたいだな。
「意地悪を言ってすみません。お慕いしているから……好きだから。昼間の貴方もこの姿もどちらも好きです。本当は大事で大事で側にいられるだけで満足しないといけないのに、試されているみたいで、つい……」
 ごめんな、アル。魔法までかけて我慢していたのにそれを解き放ってしまったのは吾。
 でも――――。
「われも……アルが好き、じゃ」
 飢えていたのは精気にだけじゃない。好きだという気持ち、愛がきっと必要だったのだと、今ならわかる。好きだから気持ちいい。満たされる。
 とろとろと心地よい気だるさに、重くなってきた目蓋。
「ゆっくりおやすみなさいませ、夜王様。今日アルは椅子ではなく毛布になりましょう」
 遠くなってきたアルの声。
 目を閉じ、逞しい腕にかき抱かれ、その温かさにほっとすると、いつの間にか微睡みの中に落ちていた。
 身も心も満たされ、この上なく幸せな気分で。


「以前よりまた艶めかしくおなりに見えます」
 夜の公務。
 冷女王が治める雪と氷の国コゴルの使者が、吾の顔を見るなり頬を染め目を逸らした。
 この日が暮れてからの本来の姿であれば、目が見えないか余程の精神力の持ち主以外は大概どんな女も魅了出来ると自負しておる。ここ最近は男ですら落とせる。
 多分抱かれる喜びを知った今、表情に淫靡なものが滲み出ているのかな。
 相変わらず椅子はアル。だから余計に艶があるように見えるのだろう。
 そして、今もそうだが、まさか公務の時も長衣の下で椅子の肉棒が王の尻に繋がっていると気がつく者はいないだろうな。
 時折ほんの少し身を捩る度、押し寄せる快楽の波に声を上げぬよう、表情を崩さぬよう、相手に悟られぬように耐えるのも、これはこれで精神的に滾る。
 もうすっかり慣れたが、余計に感じるようになってきたのが不思議だ。
「アル、これからも吾の玉座であれよ」
「ちょっ……そんなに締め付けないでくださ……あっ」
 ふふふ、ごちそうさまじゃ、アル。

 吾は夜の国ホボルの淫魔の王。
 昼間は無垢な幼子の姿で可憐に微笑みて魅了し、夜は淫らに捕食する。
 やっと飢えは満たされた。

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まいるどタブレット小説 Ver1.13