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4:デート……だよね

2014/10/15 11:09

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 そんなわけでぎこちな〜く私の肩に手を置いて(転倒防止のため)彼は横を歩いてきた。実際はデートというより介護の状態なのだが、やっぱりすれ違う女性達の視線が痛かった。
 しかも今、彼は眼鏡をかけてない。それだけでとても珍しいことなので(そりゃこんだけ目が悪かったら外せないわなぁ)放っておいても周囲の視線が集まる。そして覗きに来た人たちを驚かせた。全体の印象も何倍も男らしい感じだし、何よりもいつもソフトに眼鏡で隠されてる切れ長の目……アイスブルーの瞳と長い睫毛は、露になって周りの人を固まらせ、次の瞬間に溶かしてしまった。めろめろ〜んみたいな音が聞こえてくる気がするわ。先程、何一つ褒められるところが無いなんて本人は言っていたが、それは素顔の自分を鏡で見たことが無いからなんだわ……ってか物理的に見られないし。
 で、そんな自覚の無い危ない(危なっかしい?)イケメンを微妙に密着した状態で連れて歩いているうちに、なんだか変に優越感を覚えて、視線を気にするどころかいい気分になってきた。
 ど〜よ! うらやましいだろう。えっへん。
「椅子、わかります?」
「それはなんとか見える」
 とかいいながら、かなり危なっかしいぞ。片手も使えないので仕方ないけど。
「あ〜、もうちょっと右後ろ」
「……すまない」
 椅子に腰掛けるだけで彼は早くもへこんでる。うう〜ん、そういうのも結構いい。
「飲み物取ってきますから座っててくださいね。転ぶといけないので」
「……なんだか情けない気分になってきたよ……」
「現在は要介護者だと割り切ってください」
 何処の誰がこの人を介護の必要のある状態にしたんだかは棚にぽ〜いっと。
 G・A・N・P本部のカフェは広くて結構きれい。余所の支部から来てる人もいるし、仕事の合間に休憩してる隊員も結構いる。保護されてきた非合法のA・Hの雇用訓練の場にもなっているので、店員さんは見た目が人間離れしてる人が多いけど、職種上ほとんどが女の子だ。私もたまに息抜きに来るので顔見知りの子も多い。
 愛玩用にこんな姿に造られたのか、ウサギの耳の可愛いアニーが声を掛けてきた。
「ちょっとぉ〜、マルカさん聞きましたよぉ。ウォレスさんを蹴り飛ばしたらしいですねぇ」
 ……すでに噂は広まってるか。人の口に戸は立てられないもんねぇ。
「うん、まあ……蹴ったワケではないんだけど成り行きで……あそこに見える通り、全治一週間の怪我を負わせてしまいました。おまけに眼鏡まで壊しちゃって」
「ひど〜い。アニーのお気に入りなのに〜。あんまり苛めないであげてくださいよぉ」
「ごめん」
 っていうかなぜこの娘に謝らなきゃならんのだ。
「で、で? なんでケンカしたんですか? ウォレスさんが浮気でも?」
「はぁ? ケンカなんかしてないわよ」
「もぅ〜とぼけちゃってぇ。でも今一緒って事は仲直りしたんですね」
「……どうでもいいから、早くコーヒーをちょうだい。あ、そこのラズベリータルトも二個ね」
 なんかどうも噂に尻尾やヒレがいろいろくっついてるみたいだぞ……
「アニーが持って行ってあげますね。眼鏡ないウォレスさん近くで見たいもん」
「いや、私が持ってく。あんたは見ないほうがいい」
 でも結局飲み物だけ渡して、タルトを持ってアニーがついてきた。
「おまたせしま……」
 テーブルに皿を置きかけて、間近で彼の顔をのぞいたアニーが固まった。
 がちゃん。
 ほうら、だから見るなと言ったのに。あ、溶けた。
「きゃ〜〜ん」
 へんな声を上げてアニーが逃げていった。
「何? 今の」
「気にしないでください」
 しかしアニーが他の女の子達に報告したから、次から次へと覗きにきてるし……いかんいかん、被害者が増える。ってか邪魔よ。しっしっ。あっちへお行き。
 う〜ん、彼のためだけでなく他の人のためにも眼鏡は必要だったんだわ……
「なんだか皆顔を見て逃げてく気がするんだけど……お、俺ってそんなに怖い?」
 あ、なんか勘違いしてものすごく落ち込んでる。
「いえ、逆です。今度、一度眼鏡を掛けずにご自分の顔を鏡で見てください」
「意味がわからないんだけど?」
「もういいです……」
 自覚の無い人に説明しても仕方ないわ。
「お砂糖はいれますか?」
「うん、2杯」
「……意外と甘党なんですね」
「変かな?」
「いえ、糖分も取らないと脳が活発に動きませんから」
 かなりイメージは違うが、きっとこの人の脳は普通の何倍もエネルギーを必要とするだろうし……
 さすがに香りがあるのでコーヒーは上手くつかめた……ってなんか観察日記みたいだなぁ。
「あつっ」
 距離感はいまいちだったが……。
「ではタルトも大丈夫ですね」
「好きだよ。とってもいい匂いがする」
 いやん、なんかかわいい〜。クールな見た目でそういうのって。
 でもフォークを見て、ふと冷静になって思い出した。
「あの、聞くの忘れてましたけど、利き腕って……」
「左だよ……」
 うわぁ、最悪。

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まいるどタブレット小説 Ver1.13